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他人事だった政治の表舞台

 食べ終えた景吾は、

「仮に米倉さんが政治家を目指しているなら、父さんが応援すれば?」

「何言ってるの?」

 母親が困惑する。父親はニコリと笑い、

「それは良い。俺が半ば引退して援護に回ろう」

「危険と言ってるでしょ。健常者でも心身が壊れるのに」

 母親が案じる。父親がゲラゲラ笑い、

「もしもの話だろ。それに今の政治には潤子君みたいな気概が一番必要なんだよ」

 所長の立場を超えて母親は潤子を心底気にかけている。父親は潤子を純粋に気に入っている。そもそも両親が景吾に潤子を何度も引き合わせている。


 母親は食器をまとめると台所に持って行った。母親が食器を洗うと景吾はそれを拭いて片す。父親は居間でノートパソコンを開いて資料を読んでいる。


 潤子が政治家を志した場合を景吾は想定した。発達障害者である潤子は暗黙の了解がなかなか理解できないはずだ。政治は駆け引きの連続だ。絶妙な人間関係を探り合って力関係を図って権力を得ていく。理想を求めて解決案を訴えるだけでは政治家として生き残れない。


 景吾が居間に戻ると父親はパソコン画面から振り向き、

「お前はこれからどうしたいんだ?」

「え?」

 景吾が声を漏らす。父親は、

「このまま公務員を続けるのか、それとも何処かへ転職するのか」

 景吾は咄嗟に答えられなかった。母親も居間に戻ってソファに座る。以前は税理士をぼんやりと目指していたが、最近は希望らしい希望は景吾にはない。昇級して秋田市に異動して以来、職場に慣れるので精一杯であった。無駄な業務や理不尽な規則について署長に申告して改善を求めてはいるが、何時も署長は苦い顔をする。一方で部下や同僚や納税者からは喜ばれてはいる。


 父親は景吾を見つめながら、

「潤子君以上の覚悟と理想が有ればお前が政治家を志してみるんだな」

「あら、二世議員には否定的だったでしょ」

 母親が軽く反論する。父親は、

「ああ。俺は特に応援しない。俺には俺のやり方と理想を支持する有権者がいるからな」

「まあ。たとえ親子といえども他人と最近は言うし」

 母親が今度は同調する。景吾は低い声で、

「そんな事、考えた事がなかった」

「まあ、国の為国民の為、公務員として真面目に働くのも立派な人生だ」

 と、言うと父親はパソコン画面に視線を戻した。


 父親は二世議員の陰口を避けてはいたが、国会議員を世襲化する事に批判的だったので、国会議員は景吾は他人事だった。選挙活動も政治活動も父親は家族に任せず、党員仲間と秘書と共に行動していた。景吾が子どもの時にも多忙で不在が多かったが、父親は頻繁に連絡を取って健康を案じたり自律を求めたりした。議員の息子である事を自慢せず、ひたむきに生きるように父親は何度も景吾に諭した。


 官僚の一人として国会議員達の知識不足と非合理的な言動に呆れてはいたが、同僚達や上司達の様に陰口を叩いて見下す気にはなれなかった。良かれ悪しかれ官僚は裏方、国会議員は表舞台に立つ。


 景吾にとって国会議員はどこが他人事だった。

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