政治家の原動力
潤子は車で母親に迎えに来てもらった。母親は二度も頭を下げると潤子を乗せて帰って行った。景吾とその母親は手を振って見送った。
景吾は不思議そうに、
「あれで良かったの?」
「そうね。潤子さんはああ言う話をしたくても他の人にはなかなか話せないから」
母親が答える。確かに潤子の発言は独創的である。虹の雪で潤子が他の利用者に案を説明しても反発するどころか理解できない者もいるだろう。
中に入った母親が食器を洗いながら、
「いつもは職員に話しているけれど、物足りないみたいね。皆もどう反応すべきか迷っているし」
景吾は洗った食器を拭いて片す。精神保健福祉士も専門職だが、潤子の案は独特過ぎる。真面目に解決策を求める潤子に理想論だと鼻で笑えない。また、正しく評価も出来ない。税務署職員である景吾も上手な返答が出来なかった。
景吾は居間のソファに座ってぼんやりと考えた。台所では母親が昼食を作っている。
潤子は人と社会を肯定的に見ている。だから無責任な報道陣や冷笑主義者達に怒るし、問題を解決できないでいる行政や国に不満を持っている。既得権益や権謀術数に興味は無いし、嫉妬や堕落を気にしない。他人を傷付けたり尊厳を踏みにじって楽しむ輩や自己保身にまみれた小心者が見えていない。
有権者達に演説していた父親が帰ってきた。景吾と母親が返事をする。父親は風呂場に行って汗を流す。
税務署職員である景吾も障害者用の作業所所長の母親も国会議員の父親も色んな人達を見てきた。それぞれ守秘義務が有るので詳しく話さないが、社会や人間の闇を知った者同士の独特な了解が有る。他人を明るく照らす人格者も確かに沢山いるが、それ以上に卑劣な輩もいる。
父親が風呂から出ると丁度、母親が昼食を作り終えた。三人は食事を摂る。父親は母親から先程の潤子の話を聴く。父親は興味津々だ。景吾は時折相槌を打ちながら静かに食べている。父親は、
「潤子君がやる気と覚悟があれば政治家にさせたいな」
「止めなさいよ。潤子さんが色んな意味で危ないでしょ」
母親が眉間に皺を寄せて反対する。父親は残念そうに、
「そうだけれど、やる気のない二世議員を思い出すと腹が立ってくるね」
篤農家の長男だった父親は周囲の期待と本人の希望で与党に入党し政治家になった。農業政策と福祉政策を打ち出して支持を得ている。叩き上げでは有る。普段は二世議員の悪口を言わないので景吾は振り向いた。父親は困った顔をして、
「親の七光の連中は潤子君を見倣って欲しいものだよ」
と、言うと食事を再開する。




