表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

時間と知恵の投資

 景吾に提案を理解してもらえなかった事に気付いた潤子は説明した。生活費に困らない富裕層は貴重な時間で意味の有る知識を低所得者に低額で教える。パソコンに触っていないほどの不慣れな老人達に丁寧に情報技術を教える。中小企業や個人事業主に堅実な経営を教える。また、職人や技術者の優れた作品を探して高く買う。


 闇雲に累進課税して富裕層から反発を受けて資産が流出したり移住したりするよりは確かに良い話ではある。景吾は無表情で、

「まあ、富裕層にとっても貧困層にとっても悪くない話ですね」

 潤子は茶を飲み干す。景吾が茶を急須から潤子の湯飲みに注ぐ。潤子は軽く礼を言うと、

「けれどもマスコミもネットも格差拡大を繰り返し言っててうるさいです」

 確かに報道陣もSNSも格差格差と繰り返す。貧困層達への侮蔑と哀れみで溢れている。不快なので景吾は仕事以外では情報を必要最低限にしている。


 潤子はやや早口で、

「お金持ちも知識人も『他人を変わるのではなくて自分が変われ』と言うけれど、マスコミが変わるべきです」

 いかにも自己啓発本に書かれていそうな一文を引用した。景吾は一瞬微笑み、

「マスコミに何を変わってほしいのですか」

「貧しい人を御荷物扱いして金持ちを悪者にしています。それが駄目なんです」

 潤子は真顔で答えた。潤子は貧富による分断に怒っているのだ。冷房の低温の間に外から蝉の声。潤子は、

「金持ちが時間と知恵を貧しい人に投資すれば、やがて貧困は減ります。貧しい人は金持ちを恨まなくなります。貧しい人も自ら金持ちから学ぶべきです」

「それをマスコミが報道しろとおっしゃるんですね」

 景吾が相槌を打つと潤子は、

「そうです。失われた三十年とか格差とか社会保障費とか国の借金とか、もう、うるさいです」

 嘆くばかりで解決策を見出さない報道陣とSNSで社会や国を嘲笑するばかりの冷笑主義者達。潤子が親からスマホを制限されている意味が景吾には分かった。


 潤子は水ようかんを食べる。時折茶を少しずつ飲む。景吾は茶を二口飲む。発達障害者である潤子が思考実験しているのに、ネット空間の健常者達は嘆くか嘲るかのどちらかだ。


 潤子は水ようかんを食べ終えると、

「労働組合も春闘で無理に賃上げ要求ばかりしていないで、技術と知恵を無償で投資してもらえれば良いと思います」

 景吾は笑いながら、

「それは良い案ですね」

「企業は設備投資したり研究開発しないと儲からないのでしょう」

 景吾は頷く。他にも要因が有るが潤子の言っている事は間違いではない。景吾は、

「けれども知識を身につけるまでの生活費は必要ですよね」

「金持ちが無利子で貸せば良いのです。それが難しければ知識を習得した人には返済させなければ良いのです」

 賛同しない金持ちが多そうだが、貧困層の学習意欲は上がるだろう。景吾は微笑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ