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富裕層

 八月の盆休み。大阪に勤務していた時と比べて帰りやすかったので、景吾は実家に戻った。父親は有権者の主催する行事に参加したり戦没者を祀る石碑に黙祷を捧げたりしていた。母親は盆飾りをしたり親戚や近所に挨拶回りしたりした。景吾はそれとなく手伝った。


 終戦記念日の翌日も景吾は休んだ。秋田市に異動して以来、残業ばかりしていたので署長が長めの休暇の許可を出していた。景吾はゲームをして休もうかと思ったが、母親が、

「潤子さんがあんたに会いたがってるよ」

 と、会わせようとする。景吾は不思議そうに、

「何故。昇級したけど俺は何も出来ないよ」

「話を聴いてくれるだけでも良いみたいなの」

 母親が勧めてくる。景吾は潤子に会おうと思い直した。朝食後、母親が潤子をこちらに連れて来る。


 皿洗いをした後、景吾はゲームをしながら待った。婚約もしてないのに作業所の所長が自分の息子に利用者を何度も会わせるのは越権行為ではあるけれど、潤子から会いたがってる。今回も突拍子のない事を言うのだろうか。ありきたりな悩み相談ではなさそうだ。


 母親が潤子を連れて来た。潤子は頭を下げると靴を脱いで揃えた。化粧もしてないし服装も地味で安物の服を着ている。潤子は動きやすさを重視しているようだ。


 母親は景吾と潤子をソファに座らせると、茶と菓子を用意した。潤子は軽く礼を言うと茶を飲む。景吾は、

「話したい事とは?」

 潤子は三口ほど飲むと、

「日本は格差拡大と言っているけれど、富裕層も増えているんですか」

 と、尋ねた。確かに報道でもネット空間でも日本は貧しくなった、貧困層が増えた、生産力が減ったと人々は嘆いている。しかし景吾は、

「ええ。増えてますね。統計でも裏付けは有りますよ」

 潤子は驚いた顔をした。意外な返答だったのだろう。景吾は茶を飲む。いつもの母親らしい少し苦い味だ。潤子は不思議そうに、

「それでも税金は足りないんですか」

「まあ、社会保障費が有りますからね」

 景吾は視線を窓にそらした。外は晴れている。しかし潤子が内心、財務省や富裕層に憎悪を覚えているのではないかと不安になった。


 潤子は少し明るい声で、

「それじゃあ、皆で生産性を上げないと駄目ですね」

 また税制度の簡略化を提案するのだろうか。確かに富裕層にとっては悪いことではない話ではある。しかし財務省は簡単には変わらない。景吾は不安そうに潤子に視線を戻し、

「例えばどうやって生産性を上げるんですか?」

 潤子が微笑み、

「富裕層が貧困層に時間と知恵を投資するんです。無闇に増税するよりマシですよね」

 景吾は首を傾げる。

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