剥がれた障害者というラベル
食器洗いと後片付けが終わると利用者達は居眠りをした。暖房が効いているので風邪を引くことはないが、老夫婦は毛布を用意してかけた。潤子はぼんやりと窓の景色を眺めている。
景吾は残った男性職員二人に、
「まさか皆がこんなに働くとは思ってませんでしたよ」
「そうですね。皆、頑張る時は頑張ります」
一人は答えた。もう一人は、
「時々、怠けたりする人もいますが、それも悪くないんじゃないかと思います」
「鬱状態は心配だけど、働きすぎるのも心配ね」
母親が付け足す。老夫婦は利用者達の寝顔を見ながら、夫の方が、
「勝手に精神障害者を怖がってたのがバカみたいだったな」
「ワガママですぐ暴れ出すと思ってたのが恥ずかしいわ」
妻が同調する。母親は、
「そう言ってくれると嬉しいです」
利用者達を三十分ほど寝かせると、母親と職員達は起こした。老夫婦に挨拶すると、虹の雪に戻って行った。景吾はそのまま家に戻った。
今回、潤子とは殆ど会話をしなかった。潤子は黙々と作業をこなしていた。文句を言わずに雪を運んでは捨て、運んでは捨てていく。その単純作業を厭わなかった。雪は意外と重いので女性への負担は看過できない。けれども潤子は適度に休むが怠けたりはしなかった。税制度の単純化を提唱していた潤子と印象が違う。
帰ってきた父親が、
「どうだった?」
と、尋ねた。景吾は、
「米倉さんは意外に働いていたよ」
「やーね。偉そうな言い方をして」
母親が注意した。父親はソファに座ると、
「税制度を批判したからといって不真面目とは限らないだろう」
景吾は俯き、
「まあ。そうだけど」
「むしろ潤子君は真面目じゃないか」
父親が真顔で言った。公務員なのに思考を止めた景吾と障害者なのに思考を止めなかった潤子。それに気付いた時点で潤子は真面目だと景吾は何となく気付いてはいた。けれども現場で文句を言わずに作業する種類の真面目さは無いとタカをくくっていた。それも否定された。
父親は腕を組み、
「このまま二度と景吾と潤子君が会わないのは勿体ないな」
「潤子さんが会いたくないなら仕方ないんじゃないの。既に景吾には良い刺激になったし」
母親が言った。父親は、
「そうだな。潤子君には感謝しなきゃな」
景吾は黙った。両親の言っている事は分かる。潤子には思想も感情も有る。それが景吾や職場にも影響を与えた。公僕として公共を考える公務員。潤子はその重要性を教えた存在。しかし感謝は少し違うと景吾は思った。潤子は意図的に景吾を教えたり変えたりしたわけではない。
けれども景吾は潤子を敬意を払うべき人物の一人にしようと思った。




