束の間の帰省
景吾と父親は実家に戻った。母親が迎える。母親がほうじ茶を出すと三人は居間のソファに座る。母親は苦笑いしながら景吾に、
「潤子さんがあんたの事を意地悪と言ってたよ」
「どういう意味?」
景吾が尋ねる。母親は、
「あんたが質問ばかりして何も考えないから」
と、言うと茶を飲む。父親は茶を飲みながら壁に飾られた絵を眺めている。景吾は、
「え?税制度を簡略化しろとか言ったら普通は訊き返すでしょ」
父親は湯飲みを置いて、
「潤子さんは素人だ。税について興味を持つ事自体、偉い」
景吾は黙って茶を飲む。母親は、
「それにあんた達官僚にも納税者にも納得出来るように考えてたみたいよ」
確かに潤子は官僚の過労死を心配していた。景吾は呟くように、
「そうだけど、意地悪と言われたくはないよ」
「まあ。お前は本当に簡略化出来るか調べたからな」
母親が父親に振り向く。父親が景吾達の実験とそれで上層部に叱られた事を簡単に説明する。母親は、
「まあ。財務省の皆も頭が硬いわ」
「そうだな。それに景吾は頑張ったが、潤子君には内緒だ。こういうのはべらべら喋るものではない」
父親がやんわりと注意した。母親は頷く。
潤子が障害者だと見下していた事に気付いて景吾は恥を覚え、反対に潤子は景吾を意地悪だと心証を悪くしている。景吾は、
「それじゃあもう、米倉さんと俺が会うこともないね」
「いいや。明日会わせる。雪掻きをお前にも手伝ってもらうぞ」
父親が否定した。景吾が不思議そうな顔をすると、虹の雪が明日、老夫婦の家で雪掻きをする。男手が足りないので特に実家ですることもない景吾を手伝わせようと両親は考えていた。虹の雪の利用者でもある潤子も参加する。
景吾が嫌そうに眉間に皺を寄せると母親は、
「たまには皆で身体を動かした方が良いでしょ。かなり美味しいおせち料理を作っているし」
「筋肉痛になる。困るよ」
景吾が嫌がると父親は眉を下げて、
「お前はここで生まれ育ったんだからそんなに嫌がるなよ。まだ若いのだし」
景吾は渋々引き受けた。母親は虹の雪の職員には潤子と景吾の見合いや景吾の職業について説明しているが、利用者には説明していない。景吾はあくまでも所長の息子で潤子とも知り合いということにしている。潤子にも見合いのことを口止めしている。そちらの方が景吾にも気楽ではあった。
親子三人はホームヘルパーの老夫婦が用意した料理を食べる。明日、父親は有権者の主催する行事に参加する。三人は早めに寝た。




