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頑固な上層部

 事務次官は困った顔をして景吾の隣に座っていた女性に、

「もう一度、事実確認をしてくれ」

 女性は頷き、

「橋本君がお知り合いから簡略化の案をお聴きしました。それをキッカケにシュミレーションを署長が思いつき、実験させました」

 事務次官は不思議そうに景吾を見つめている。他の三人の男達も様子をうかがっている。事務次官の右隣に座っていた男は、

「その知り合いは偏った思想を持っていたのではないのか」

「いいや違う。俺が信頼している女性だよ」

 父親が反論した。五人が振り向くと父親は淡々と潤子について説明する。創造性ある発達障害者の視点は公務員なのに漫然と働いていた景吾の刺激になる。事務次官は渋い顔をして、

「先生、そんな酔狂なことを」

「君。障害者をバカにしているのかい?」

 父親が冷たい声で言い返すと事務次官は驚いて頭を速く振った。事務次官の左隣に座っていた男は、

「障害者を差別するつもりはありませんがね、税は国の要ですよ」

 景吾は俯く。父親は不服そうに上層部達を見渡す。事務次官は、

「突然、簡略化の案が下から出て来て、我々は驚いているのですよ」

「過労が緩和されるんだ。君達にとっても悪くない話だろう」

 事務次官と男達三人は苦い顔をする。景吾の隣に座っている女性は、

「確かに。橋本君の案は裏付けと説得力が有ります」

 父親の近くに座っていた男が女性を睨む。景吾はその視線を感じて冷や汗をかく。父親はキッパリと、

せがれは倅なりに真面目に考えただけだ。俺も倅も君達を脅したり困らせたりするつもりはない」

 事務次官は気まずそうに、

「まあ、その様ですね」

 父親は眉を寄せて、

「君達はカリカリし過ぎだ。もっとおおらかになって欲しいものだよ」

「はあ。肝に銘じておきます」

 事務次官は頼りなさそうな口調で返事をした。他の四人と目配せをすると立ち上がり、皆で部屋を出て行った。景吾はそれを俯きながら目で追う。父親は呆れ気味に、

「頭が硬いな、彼等も」


 事務所の職員が二人に茶を出した。景吾は礼を言うと飲む。父親は、

「まあ、頑張ったじゃないか。景吾」

「むしろすごく驚いているよ」

 景吾は溜息を吐いた。事務次官を驚かせる程の影響力が有ったとは想像していなかった。父親は、

「しかし残念だ。あの案は議会と財務省が本当に協議しても良かったと俺は思う」

「そうかな。今までそんな事を出来なかったでしょ」

 景吾が自信なさそうに言い返す。父親は、

「だから協議の価値があるんだよ」


 景吾と父親は暫く休むと景吾の車で故郷に戻って行った。

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