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波紋

 十一月のある日。まとまった案を西村と一緒に署長に報告する。文書や資料を見ながら署長は、

「想像以上に出来ているじゃないか。僕が上に話してみるよ」

「有難うございます」

 景吾が頭を下げる。西村は不安そうに、

「上はちゃんと見て頂けますかね」

 署長は視線をパソコン画面から西村に移し、

「何人か興味を持っていそうな人を知っている」

 西村は頭を下げて、

「よろしくお願いします」

 景吾と西村は静かに部屋を出た。納税者達と税理士達と共にやり遂げたし、署長に褒められた。達成感はある。しかし国税局に興味を持たれる自信は無かったし期待もしてない。国を動かす手応えもなければ給料も上がらない。それでも良い経験だ。何より納税者達と税理士達と信頼関係を築けた。


 地味で理不尽な仕事に戻るが、景吾は晴れ晴れしていた。同僚は不思議そうに、

「署長から面倒な事をやらされたみたいだけど、大丈夫だったのか」

「ああ。けっこう楽しかった」

 景吾は仕事を始めながら答える。


 仕事への疑問は深まったが、その分納税者達との距離が縮まったように景吾には感じられた。仕事は意外にも捗った。心配していた同僚達も安心した。


 年末にさしかかる時、父親から帰省するように連絡が来た。国会議員である父親が財務省の上層部から文句を言われて言い返した。財務省は父親が景吾を使って嫌がらせをしていると勘違いをしたようだ。父親はその確認の為に帰省を命じたのだ。


 景吾は胸が冷えるのを感じた。景吾達の作った案をどれくらいの立場の人物がどこまで読んだのか。 景吾は今のところ何処からも嫌がらせを受けていないが軽い恐怖を覚えた。


 景吾は西村と署長に訳を説明し休暇の許可をもらった。一度、故郷の秋田に戻る前に東京に寄るように父親から命じられている。


 景吾は車を駐車場に停車させると、父親の事務所に向かった。父親は秘書と仲間と一緒に政治活動をしているので、景吾も母親も父親を手伝う事は少なかった。父親の職場とはいえ、議員の事務所なので緊張する。


 職員に案内されて奥の部屋に入ると、いかにも貫禄の有りそうな人物達が五人ほど座っていた。最も奥の窓際には父親が困った顔をして座っている。景吾は頭を下げて自己紹介をした。父親は頷いて出入口付近のソファに座らせる。


 景吾の隣は五十代の女性、他は男性だった。彼等彼女達も自己紹介をする。皆、本来ならば景吾が会う機会がない雲上人だ。一番偉い人物は国家公務員で最も登り詰めた事務次官だ。隣の女性は署長から案を送られて読んで国税庁の上層部に更に送っていた。

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