新しい試み
税制度の簡略化について納税者も税理士も興味を持った。むしろ税務署側からの提案に喜んでいる。固定資産税と相続税の軽減については既に政府と財務省が協議している。けれども中小企業の社長も個人事業主も農家も漁師も未だに廃業になるほどの負担になっている。資産を持っだけで毎年多額も払わされる固定資産税と所有者が死亡して代替わりする度に多額を一括しなければならない相続税。これらを撤廃する代わりに所得税や住民税が増額になってもかまわない納税者は少なくなかった。
事業の規模や業界や納税者の立場によっても納税額や控除が変わってくる。公平さを保つために財務省は細分化して複雑化したが、同時に事務作業が煩雑になって貴重な時間と労力が事業に向けられなくなっている。売り上げにも影響する。
納税者達も税理士達も悩みながら具体策や解決策を考えていく。自分達の利益だけではなく競合他社や他の業界も納得いく方法を模索する。景吾とは侃々諤々(かんかんがくがく)とした議論もする。
時折、従業員達が雇用主である納税者達を遠目から心配そうに様子をうかがう。税務署職員である景吾が何度も職場に来ては議論する。遠くから従業員達の、
「ここ、脱税でもしてんの?」
「なんで社長だけ税金が安くなるんだよ」
と、陰口が聞こえてくる。納税者は呆れて振り返り、
「おい、違うぞ。こら」
「社長さんだけではなく皆様の税もお安くなるかもしれないのです」
景吾が苦笑いを浮かべる。従業員達は気まずそうに作業に戻る。劇的に減税出来るとは景吾も納税者達も期待しいてない。しかし、税制度の簡略化は納税者には悪くない話のはずだ。
税理士達も嫌がらなかった。税制度が簡略化しても自分達の仕事が消えるわけではない。納税者と一緒に経営や財務状況を確認して納税を手伝う。税務署職員以上に税理士は現場の感覚を納税者と共有しなければならない。それが納税者の不満を減らすと同時に不正も減らすことにもなる。
どんな控除が本当に必要なのか。税の種類をどの様に減らしてどんな計算方法をすれば良いのか。納税者達の話を元に税理士達と議論をする。ある程度新しいやり方が出来上がったら再度納税者達に確認させる。
ある農家は不安そうに、
「こうやって考えてくれるのは有難いけれど、実現出来るわけじゃないんだろう」
「確かに必ずとは言い切れませんが、皆様のお考えは大事な資料になります」
景吾は答えた。実験を言い出した署長は確実に読むだろうが、国税局の上層部が関心を持って読むとは思えない。農家は、
「まあ、税務署のあんたが俺達を気にしてくれるだけでも良いよ」
「恐れ入ります」
景吾は返事をした。




