仕事への疑問
景吾は休暇から職場に戻って上司の西村に報告した。西村は笑い、
「良い人ね、その米倉さんという方は」
「そうでしょうか」
景吾が不思議そうな顔をする。西村は、
「そういう人こそ私達公務員が守るべき市民なのよ」
「そうでしょうか。相続税を呪ったり過激な事を言ったりしてましたけど」
景吾が不安そうに言い返す。西村はニコリと笑い、
「納税者も私達も人間。感情も有れば痛みも感じる。私は冷笑主義者なんかより彼女の方がマトモだと思うけど」
「はあ。そうですか」
西村と景吾は何となく別れてそれぞれの席に着いて仕事を始めた。仕事に厳しい西村なら潤子を鼻で笑うと思ったが予想が外れた。同時に西村は親切で気配り上手でもあるので、潤子を評価してもおかしいわけでもなかった。同情というよりは評価だ。
潤子との会話と西村の反応。確かに無駄な仕事が多く感じられる。納税者も納得していなければ士気も下がる。景吾は仕事に集中しようとしたが、頭が混乱してなかなか捗らない。隣で仕事していた同僚が心配そうに時折振り向く。
財務省が予算案を事実上編成しているのでその皺寄せは税務署職員の景吾にまで来る。今まで国政を動かしてきた自負を感じていたが、潤子と会って以来、疑問を感じるようになった。確かに国会議員は知識不足だが、財務省が資料を渡して質問に答えれば国会議員の判断で予算を決められる。
いつもより終わらせた仕事量が一割ほど少ないのに疲れた。それに気付いた同僚は、
「どうした。この間休んだのに鬱なのか」
「最近、余計な事を考えてしまうんだよな」
景吾は答えた。同僚には潤子の事を話せなかった。西村は潤子を客観的に評価出来るが、同僚は冷淡だ。納税者やその担当の税理士に厳しく追及するし、低所得者層を露骨に疎ましく見ている。昇進を目指しているので自分にも厳しい。同僚は、
「そうか。起きた時と寝る前に瞑想してみろよ。スッキリするぞ」
と、提案した。景吾は曖昧に礼を言った。
やはり自分は下っ端なのだと景吾は改めて思った。
今日も潤子は作業所で働いたのだろう。虹の雪はこの時期、農家と一緒に農作業を手伝っているはずだ。出来る事は限られているし労働時間は短いが障害者にとって楽ではないだろう。そこでの人間関係や仕事の不満は有るはずだが、潤子は景吾に愚痴をこぼしていない。そもそも不満が無いから色々考えてしまうのだろうか。




