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下っ端からの解決策

 潤子も食べ始めている。美味いのか速めに食べていく。景吾は、

「米倉さんは何か解決策を考えているんですか」

 潤子は口の中の食べ物を噛み終えると飲み込み、

「税制度の簡略化。女性や障害者への差別を罰する。無責任な移民政策を止めて高齢者と女性と障害者が少しずつ働く」

 事務的だがしっかりした口調だ。理想論だが景吾は嘲笑いしなかった。税制度の簡略化で納税者と税務署職員の負担が減る。女性や障害者への誹謗中傷を罰すれば分断や孤立は防げる。移民問題を心配するぐらいならば弱者の生産性を上げる。あながち間違ってはいない。


 潤子は食べ終える。景吾はまだ三分の一ほど残っている。潤子は、

「橋本さんこそ解決策を考えてないんですか」

 景吾は咀嚼していた口の中の食べ物を飲み込むと、

「俺は下っ端ですから」

「でも官僚なんでしょう。そうでなくても市民として考えてこなかったんですか」

 潤子が僅かに明るい声で尋ねる。景吾は胸に重りを吊るされた気がした。公務員なのに国の問題を考えなかった景吾と障害者なのに考えてきた潤子。景吾は目を泳がせながら、

「官僚といっても本当に下っ端なんです。貴方には組織の中にいる重圧が分からないんですか」

 潤子は不快そうに眉を寄せて、

「私はダメ人間だから大企業の正社員にも公務員にもなれませんでした」

「い、いえ。そんなつもりでは……作業所でも組織の面倒臭さはあるでしょ」

 景吾がしどろもどろに弁解すると潤子は、

「虹の雪にはそんなのはありません」

 隣から若い女達三人の明るい雑談が聞こえてくる。二人は黙っている。景吾は残りを食べていく。潤子は、

「組織に逆らうのは怖いとか上司は怖いとか皆言うけれど、私には分かりません」

 景吾が振り向くと潤子は、

「労働基準監督署とか労働組合とか有るでしょう。そうでなくてもSNSやネットが有ります」

「そういう簡単な話じゃ……」

 景吾が遮ろうとすると潤子は、

「公務員は残業しても給料は変わらないし、余程の不祥事が無いと免職されません」

「つまりどういう意味?」

 景吾が尋ねると潤子は、

「本来ならば民間人以上に思い切った事が出来るはずです。本来の仕事以外で残業なんておかしいから仕事を減らしましょう」

「それで税制度の簡略化を俺達がしろと言うんですか」

 潤子は真顔で大きく頷く。景吾は首を傾げる。腑に落ちない様子の景吾の心境を理解できないのか、潤子は不思議そうな顔をする。


 景吾は食べ終えると、

「まだ話しますか?」

「はい」

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