国と人の為の法と税
景吾がぼんやり考えながら黙っていると潤子が、
「相続税は非人道的だと思うんですよ」
「いきなり何を言い出すんですか」
景吾が驚くと潤子は、
「人が亡くなって悲しんでいる時にすぐに計算して納税しなければいけないからですね」
「何ヶ月か期間はありますよ」
景吾は弁明する。潤子は遊んでいる子ども達を眺めながら、
「しかも相続税が高過ぎて畑を売ったり店を辞めたりする人が沢山います。金持ちでもないのに」
怒気が微かに含まれている。不動産業の両親の愚痴を聞いてきたからだろうか。しかし両親が必ずしも不利になる話ではないし、潤子が同情する話でもない。景吾は、
「怒っているのですか?」
「そりゃあ怒りますよ。真面目に働いていた人達とその家族が国からわけの分からない借金を負わされるんです」
潤子は景吾にゆっくり振り向く。景吾はポカンとする。何故、潤子がそんなに怒るのか分からない。作業所に相続税で悩む仲間がいるのだろうか。景吾は、
「相続税は借金ではありませんよ。法律で決められた事です」
「貴方は不祥事を起こした公務員が死刑になるという法律が成立しても耐えられますか」
潤子が問い詰める。景吾は一瞬、頭の中が白くなった。唐突な例え話の真意が分からない。ポカンとしている景吾に潤子は、
「国や人の為にならない法律なんて無い方が良いんです。税金も同じです」
「無政府主義者なんですか、貴方は」
景吾は言い返した。潤子は呆れた様子で目を細め、
「国や人の為の法律なら皆は守るし違反者は淘汰されます。税金も同じです」
潤子は何を理想としているのだろうか。景吾は、
「例えばどんな法律が良いんですか。税金が無ければ国なんて成り立ちませんよ」
潤子は不思議そうに首を傾げて、
「貴方こそ、公務員なのに理想は無いのですか。非効率な税制度が本当に良いと思ってるのですか」
景吾は眉間に皺を寄せて、
「さっきからトゲが有りますね。何なんですか」
潤子は不快そうに目をそらし、
「増税で人から全てを奪うより、無理なく働かせて納税させた方が余程、税収も上がる」
低く鋭い声だ。景吾には理想論に思えたが、潤子が本気で言っていると感じられたので、景吾は笑わなかった。
潤子は鞄から水筒を取り出し茶を飲む。景吾もペットボトルの茶を飲む。潤子は前方の滑り台を眺めながら、
「皆が皆、いびりあっててバカみたい」
「職場の雰囲気が最悪なんですか」
景吾が尋ねる。潤子は、
「違います。テレビとネットです」
「御母様からスマホを制限されているとこの間聴きましたけど」
景吾が確認する。潤子は、
「ネットは少しだけにしてますけど、テレビもバカみたいで耳障りです」
「何が嫌なんですか」
景吾が尋ねる。潤子は、
「芸能人や会社の社長さんや国会議員ばかりを馬鹿にしてて偉そうなんですよ。報道するなら真面目な人達を褒めれば良いのに」
少しだけ潤子に同感した。権力に忖度するわけではないが真摯な者を応援する姿勢が報道には足りてない気がする。潤子は、
「ネットなんか障害者と女性を悪者にしてデマを流して追い詰めて楽しむ奴等がいて邪魔です」
怒気が含まれた口調。潤子に最初に会う前に母親からの説明で潤子がフェミニストである事を景吾は思い出した。今まで潤子は税制度に文句を言っているが、男に文句を言ってこなかった。
景吾は固唾を飲む。




