4 ジュリアス
「ジュリアスが殺されたと知ったら、ローレンツはひどく落ち込むだろうな。
ジュリアスはローレンツにいたく気に入られていたから。」
ローレンツの友人である事業家、アーチボルド氏はそう話す。
「2階のあの部屋は、オーナーの客人のための部屋となっているけれど、1年前にホテルが開業してからずっとジュリアスが使っていたんだ。
あれはもうジュリアスのための部屋だろう。」
アーチボルド氏が語るに、ローレンツは知人や友人であっても2階の客人用の部屋ではなく、景色の良い部屋を用意した。
「我々事業家にとっては面子が大事なのだ。
友人相手でも景気の良さを見せつけておかねば、ビジネスに繋げられないからな。」
そんなローレンツが客人用の部屋を使わせたジュリアスは、彼にとって特別親しい存在だったのだろうとアーチボルド氏は言う。
「ホテルの開業記念パーティーで歌っていたのもジュリアスだったから、ローレンツとは1年以上の付き合いだな。」
しかし妻のアーチボルド夫人は、「いいえ、ふたりの付き合いはもっと長いはずですよ。」と言う。
「ここができる前は、海辺のホテルにジュリアスを住まわせていたじゃありませんか。」
妻の言葉にアーチボルド氏は「あぁ、そうだったな。」と手を叩く。
「私たちがジュリアスと初めて会ったのは、ローレンツが建てた別のホテル、海辺にあるホテルだったな。
あれはもう3年は前になるな。」
話を聞いていたハドソン警部補は訝しげに眉を吊り上げた。
「ジュリアスの他に、ローレンツ氏が懇意にしていた歌手はいますか。」
ハドソン警部補の質問に、アーチボルド夫妻は揃って否定する。
「ホテルの行事で歌手や踊り子を呼ぶことはあっても、部屋を与えるほど贔屓にしていたのはジュリアスだけだろう。」
アーチボルド氏は、「ローレンツは誠実な男だからな。ジュリアスはともかく、イレーネという妻がいるのに踊り子の娘を囲うようなことはせんのだ。」と笑った。
アーチボルド夫妻への聞き込みを終えると、ハドソン警部補は、「ローレンツ氏とジュリアスの関係は怪しくありませんか。」と言った。
「どういうことですの。」
ハドソン警部補は「貴方がたは疑問に思わないのですか。」とカメリアと私に問う。
「ローレンツ氏は音楽を好む方でもないのでしょう。
それなのに、何年も前からジュリアスに自身の経営するホテルの部屋を使わせている。
住む場所を提供しているんですよ。」
「資産家や貴族が踊り子のパトロンになるのは珍しい話じゃないですよ。」
私はそう言ったが、ハドソン警部補は「それにしても不自然です。」と言う。
「だって、多くの場合は愛人として若い娘を囲っているでしょう。
でも、ジュリアスは男だ。」
ハドソン警部補は、「私はジュリアスがローレンツ氏を脅し、住居と金銭を要求していたのだと思います。」と意見する。
「ローレンツ氏はジュリアスに弱みを握られ、長年強請られていた。
もしそうなら、ローレンツ氏にはジュリアスを殺害する動機がある。」
ハドソン警部補は、ジュリアス殺害の容疑をローレンツに向けているのだ。
けれどもカメリアは冷静に言う。
「アーチボルド夫妻とホフマン男爵の話からすると、二人の関係は良好だったように思いますわ。」
「はたからみてはわからないでしょう。
それに長い付き合いにも関わらず、ローレンツ氏の妻イレーネはジュリアスの存在を知らなかったじゃありませんか。」
さらにハドソン警部補は、ローレンツが事件前日にホテルを去ったことも怪しいと言う。
「創業記念パーティーは1週間後なのでしょう。
その準備のために妻を呼び寄せておいて、緊急に別の仕事がはいったから出ていくというのも不自然です。」
ホフマン男爵には真面目な好青年に見えていたジュリアス。
アーチボルド夫妻には、ジュリアスを気に入っているように見えていたローレンツ。
しかし本当は、ジュリアスはローレンツに金銭を強請り、ローレンツは彼を憎んでいたのだろうか。
ハドソン警部補は、「とにかくローレンツ氏に話を聞かなければなりません。」と言う。
「すぐにローレンツ氏を探さなければ。」
意外なことに、ローレンツの居場所はすぐにわかることになる。
ハドソン警部補がローレンツ氏を探しに出かけようとしたその時、彼の部下が報告に来たのだ。
「ハドソン警部補、たいへんです。」
「何があった。」と問いかけるハドソン警部補に、部下は息をあげながら言う。
「湖で遺体が見つかったんです。
遺体の持ち物や服装から、身元がわかったんですが…。」
「亡くなったのは誰だったんだ。」
「ローレンツ氏です。
ホテル・ウンディーネのオーナー、ローレンツ氏です。」




