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16話:気付けば監禁拘束

「……う……ん」


 閉じていた瞼をゆっくり開けると、外の明かりが視界を満たした。

 強い眩しさを感じて、思わず目を細めてしまう。

 自分の状況がよく分からない。

 どうやら気を失っていたようだ。

 憶えているのは、ジューローさんの大根畑を狙う発狂オオカミと戦ったこと。その後で赤い目玉と遭遇し、禁呪法で造られたアースドラゴンを倒したこと。再び赤い目玉が現れたこと。危険を感じてミナトを逃がし、目玉の放った魔力の触手に絡め捕られたところまで。

 目玉に吸い寄せられる途上、意識が途切れている。そこからどうなったのか、何をされたのか、何も分からない。


「何処だ、此処は?」


 声は出る。頭も働く。

 体に痛みはない。

 しかし違和感はある。手足が動かず、自由は利かない。それに加えて重みを感じる。

 目が光に慣れてきて、ようやく周囲の様子がはっきりと見えてきた。


「神殿?」


 平板な石床が伸びる、奥行きある空間だ。

 左右の壁はあまり離れず、横幅は然程もない一方、円筒状の柱が一列に真っ直ぐ続いている。

 天井はドーム状の作りをして、等間隔に天窓が設けられていた。

 眼前の光景を神殿だと思ったのは、両壁に施されている彫刻が印象的だったから。

 壁一面に彫られているのは、古き神々が行う戦いの様子らしい。魔族が奉じる闇神と、人族が信じる光神の闘争を描いたものだ。

 僕は信仰が篤いわけじゃないから詳しくないけれど、以前訪れたことのある神殿には、何処も同じような彫刻があった。


「神殿に鎖、ね」


 首を巡らせて、自分の状況を確認してみる。

 まずは五体満足。着ている服も、夜の畑に出た時のもの。

 ただし両腕は右と左それぞれに広げられ、鈍い銀色の鎖に囚われていた。

 両脚も肩幅へ開いた状態で、同じ鎖により雁字搦めだ。

 縛鎖は四肢を封じて背後の壁に繋がっている。僕の全身は大の字一歩手前で磔状態。

 力を込めてみたけれどビクともしない。重々しく鎖が鳴るだけ。

 体内の魔力は微々たるもの。アースドラゴンとの戦いで全てを出しきった所為だろう、殆ど回復していない。

 現状、自力での脱出は不可能だ。

 ミナトだけでも逃がせたことは、不幸中の幸いか。彼女をこんな目に遭わせず済んだことは良かった。

 僕を捕えている目的は不明。

 殺すつもりなら、気絶している間に幾らでも可能だったろう。それを敢えて拘束に留めたのは、それなりの理由がある筈。

 拷問が趣味で、愉しむために僕を生かし閉じ込めている可能性もあるけど。


「どうやら、目が覚めたようね」


 動けないため周囲の観察と思考を重ねていると、女性の声が耳に届いた。

 落ち着いて透き通る、聞き心地のいい声だ。

 声の出所へ視線を走らせた時、正面の石床に光柱が噴き立つ。

 あれは転移魔法によって発生する光。

 予想通り、光柱が消えた場所へ白皙の女性が立っていた。

 濡羽色の長い髪と、静かな紫色の瞳。警戒の念は刷かれているけれど、柔らかな均整のとれた美貌をしている。

 身に着けているのは白衣に朱袴という東国の巫女装束。

 年の頃は二十代半ばだろうか。僕よりも少し年上に見える。

 なによりも特徴的なのは、頭から生える狐の耳と、後ろ腰に覗く狐尾だ。


「まさか古狐族に会えるとは思わなかった」


 僕の一声に対して、向こう側の反応はない。

 不審と探りの視線だけを、一方的に射込んでくる。

 古狐族は魔族傍系種の中でも『始まりの魔族』に最も近い三大血統の一つとされている。

 全傍系種の始祖であり、現在多数に枝分かれている進化系統樹の大本、それが『始まりの魔族』。原初の血筋が純魔族、古狐族、鬼鎧族の三種に分かれ、そこから更に細分化していったというのが、魔族進化論の定説だ。

 これに起因して魔族傍系種は遡ると、三大血統のどれかに繋がっているという。僕やアキリのような戦牙族、ジューローさんの小鬼族は鬼鎧族系、ミナトが属する精霊族は純魔族系、ルーインの黒竜族は古狐族系といったように。

 古狐族は名の通り狐獣の部位を身体に持つ。そして他に比類なき強大な魔力を内包し、数々の奇跡を成さしめた才能溢れる大魔族。

 けれど孤高を好み、他者へおもねるを良しとせず、歴代魔王の令にも従わない精神性故、厳しい弾圧と追討の標的にされてきた。その結果、著しく数を減らし、今では殆ど姿を見ることはなくなったと聞いた。

 でも、だからこそ納得もできる。『ビカム・ドラゴニック』のような禁呪法を操り、不気味な目玉に擬態しての暗躍も、古狐族ならきっと可能だ。

 行動の動機は、迫害してきた魔王一門への復讐。僕を拘束しているのは、魔王親衛隊から内部情報を引き出そうという狙い。そんなところか。


「言っておくけど、僕はあの集落に三か月も篭ってたんだ。外に連れ出されても、中央の現状は分からないよ」


 相手の意図に対して、話せることはないと伝えておく。

 魔族社会の中心は魔王城が聳え、魔王様が鎮座する魔族領中央部。政治的にも軍事的にも、魔王様のお膝元が文字通りの中心だ。魔族の数も、往来も、情報も、全てが中央を基点とする。だから中央から離れ、外側へ遠退くほど、関係性は薄く、情報の伝わりも遅くなってしまう。

 僕が世話になっている辺境集落は、魔族領の果ての果て。何に煩わされることもない一方、世俗からは殆ど切り離されている片田舎。中央の話は何も聞こえてこない。

 なので療養中の三か月間、魔王様や中央戦線、人族との戦争がどうなっているのか、まったく知らない。当然気にはなるけど、今は自分の体を癒すことに集中し、あまり考えないようにしてきた。

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