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14話:地竜を討て

「奴が何者で、どうやって禁呪法の一つを知り得たのかは分からない。ただ封じられた知識も、思わぬところで漏れたりするからね。僕が少しだけ知っているように」

『あのアースドラゴンが動かない理由も分かる?』


 ミナトの問いは、首だけの地竜を指してのものだ。

 僕達の前に一つの形を成しこそしたが、それ以上の動きは未だない。

 頭部を擡げた状態で静止しており、眠っているようにも見える。


「生まれたばかりで、今はまだ力が馴染んでいないみたいだね。簡単な魔法じゃないから弊害も多い」

『心当たりが?』

「ああ。禁呪法『ビカム・ドラゴニック』は、最強の生物と名高いドラゴンを造り出す魔法だ。目標と定めた土地に圧縮術式の組み込まれた魔力を大量に撒き、土地に竜生命の構築式が深々と刻まれた段階で結合励起させる。すると土地の持つエネルギーと敷設された魔力が絡み合い、強大なドラゴンの疑似霊魂と、これを収めて駆動する肉体が形成されるんだ。誕生したドラゴンは土地の持つ特性を反映し、火山で行えばフレイムドラゴン、氷山で行えばアイスドラゴン、呪い渦巻く地からはドラゴンゾンビといったように、各属性へ応じた竜種となる」

『それじゃ発狂オオカミ達は、ドラゴンを生み出すための準備として、魔力をこの大地へ広めにきた?』

「その可能性が高い。魔領大根を狙っていたんじゃなく、此処の土地それ自体が狙いなんだ。術式の込められた魔力を背負い、土地に浸み込ませるための運搬屋として使われたんだろう。畑荒らしは目的でなく過程、内在魔力を撒き散らす際の副次効果で被害を受けたというところか」


 おそらく発狂オオカミ達には行動順路が定められていた筈だ。

 ビカム・ドラゴニックを完成させるために、ある種の魔法陣を描く必要がある。オオカミ達はその図柄をなぞるように動くべく、支配魔法で命じられていたと考えられる。

 しかし僕達が運び手の発狂オオカミを倒し、魔力散布を中断させた。十分な魔力と竜生命の構築式が土地に刻まれているとは言い難い。だから半端な状態で造られたドラゴンは、首から上だけで体がないんだろう。それに本来ならドラゴンの全身を覆う竜鱗も見られない。


「禁呪法は高難度の超高等魔法だからこそ、些細な綻びが致命的な欠陥になる。あのアースドラゴンは未完成のまま無理矢理発動された結果だ。本来得られる筈の性能を下回っているだろうし、どんな金属よりも硬く、魔法さえ弾き返す竜族の鱗も生えていない」

『つまり禁呪法は失敗した。アースドラゴンは放っておいても問題ない?』

「いいや。『ビカム・ドラゴニック』が禁呪法に指定されたのは、創造されたドラゴンが術者の命令すら受け付けず、強大無比な力で死と破壊を振り撒くだけの暴竜となるからだ。完成版ですらそうなのだから、未完の竜創造が大人しいとは思えない。寧ろエネルギー不足で飢えている分、より危険度は高いだろうね」

『捨て置けば、集落に被害がでる』

「ああ、野放しにはしておけない。どうあっても、ここで始末をつけるんだ。幸い今は眠っているようだから、この隙に攻撃しよう」


 不安定故にまだ目立った動きはないけれど、時間が経つほどに大地の力を取り込んで成長する恐れがある。

 魔力の満ち足りていない今こそが好機。

 ここで仕留めなければ、きっと手に負えなくなる。


「攻撃すれば流石に反撃を始めるだろう。ドラゴン最大の脅威はブレス、口から吐き出される息吹だ。ドラゴンそれぞれの属性に根差したブレスは、伝説級の武具でさえ耐えられないと言われるほどさ」

『ブレスに当たらないよう立ち回る必要がある』

「あの状態から繰り出されるブレスが、どれぐらいの効果範囲を持つか分からない。正面から受けるのだけは避けたいところだね」


 生まれたばかりのアースドラゴンは、依然として沈黙を保っている。

 動く気配は今のところない。

 僕はミナトを手にしたまま、竜頭の後ろ側へと回り込んだ。

 蒼い刀身に右手を触れさせ、直接魔力を注いで留め置く。与えた魔力が淡い燐光を伴い、刃全体にぼんやりとした明光を灯した。

 ミナトの柄を両手で握り、腰を落として肩で引く。切っ先をやや下げて、腰だめに据えてから一呼吸。


「ハァッ!」


 発息と同時に体ごと捻り、精霊剣を全力で横薙ぎに払った。

 魔力の宿った刃が走る最中、漏れ出た微光が軌跡に尾を描く。

 放った一閃は大地から生え出す竜首の根元を打ち、強烈な手応えを僕の腕に返した。

 肉厚の剣身がそそり立つ土塊へ減り込み、横斬によって大きく引き裂ける。刃の動圧が密集している土壁を掻き、奔った勢いに乗せてこそぎ散らす。

 一撃で多量の土が吹き飛び、ミナトの抜けた後には鋭利な裂け目が刻まれた。


「痛み、何、敵」


 一太刀の衝撃は予想通りドラゴンを目覚めさせた。

 地竜の頭が動いて夜天を仰ぎ、調子の外れた咆哮を轟かす。

 知性も既に芽生えているらしく、短語ずつながら言葉も喋った。

 やはり攻撃を加えたからか、それとも自分以外の全てを敵と認識するのか。詳しいことは分からないが、ここから本格的な戦いが始まるのは間違いない。

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