天に届く塔と、輝く太陽のオネェ
「ふぅー! 食った食った! やっぱり海と言ったら焼きそばとラムネだよな!」
颯太が海の家の座敷で、盛大に炭酸のゲップを漏らしながらお腹を叩いた。
実に見事なオヤジっぷりだ。
「颯太ぁ!キタネェなぁ!!……まぁ、僕も泳ぎ疲れて腹は減ってたけどな」
澪央がひと息ついた。
颯太の隣で
朔夜が濡れた髪をタオルで拭きながら、冷やし中華の紅ショウガをつついている。
澪央は、割り箸を持ったまま、隣で口の周りを青のりだらけにしている童丸を見つめていた。
「みお、やきそばおいしいねぇ!」
「おう、いっぱい食えよ。……なぁ、童丸。ママってさ、どこにいるか知ってるか?」
俺の言葉に、童丸は焼きそばをもぐもぐしながら、窓の外の遠くの空を指差した。
「ままはねぇ、あっちの、おそらのまんなか! おひさまのおしろにいるんだよ!」
「お空の真ん中……そんな…!!」
完全に童丸の母親が亡き人だと勘違いした
藤井さんは目頭に涙をためていたけど、
そっと放置した。
だけど、
俺の胸の奥が、また少しきゅうっと締め付けられた。
童丸の父ちゃん……あの『親鬼』を宇宙の彼方へすっ飛ばしたのは、俺と颯太の魔法のせいだ。
あの時はまだ、朔夜も仲間に入っていなくて、
俺たち二人はとにかく必死だった。
ミレアとイグニのアシストがなかったら
今頃…。
その息子である童丸が、恨むどころか俺たちに懐いて、水鉄砲で股間を狙ってきている。
童丸の母ちゃんも『鬼』だって聞いてるし、今は太陽系のどこかの宇宙にいるって??
スケールがデカすぎるじゃんこのやろー!!
でも、
せめて母親に会わせてあげることくらい、
責任を持ってやらなきゃ…ダメ元だろうが
見つけてやる。
「空かぁ……。僕たちが探している『太陽の魔法使い』なら、そこへ行く手段を知っているかもしれないね」
朔夜が冷静に顎に手を当てた。
「だけど、その太陽の魔法使いがどこにいるか、当てがないんだよなぁ」
俺が溜息をつくと、カメラのメンテナンスをしていた藤井さんが、ライカを首から下げ直してふっと優しく微笑んだ。
「それなら、心当たりがあるよ」
「えっ!?マジで?藤井さん!?」
颯太が身を乗り出す。藤井さんはポケットから年季の入った手帳を取り出し、俺たちに見せてくれた。
「ここから少し離れた岬に、『天に届く塔』って呼ばれている古い廃墟があるんだ。
そこでは時々、太陽の光が異常に強く反射する不思議な現象が起きるらしくてね。
実は……そこに『太陽の魔法使い』が隠れ住んでいるっていう噂を、風の便りに聞いたことがあるんだよ」
「そこに、いる……」
俺と颯太、朔夜は顔を見合わせた。探していた手がかりが、まさかこんな近くにあるなんて。
「よし、決まりだな!作戦会議終了!
次は、その岬の塔に突撃だ!」
颯太が拳を突き上げる。
すると、それを見た童丸が、またどこからか水鉄砲を取り出して、
「とつげきだーー!!」
「ぶふっ!? 痛っ!童丸、だからそこは狙うなってば!!」
容赦なく颯太の股間に直撃し、海の家に颯太の悲鳴がこだました。
海の家を後にした俺たちは、藤井さんの案内で岬へと向かった。
潮風が吹き抜ける崖の先端に、それはぽつんと佇んでいた。
「おおおー!!藤井さん!お願い!あの塔バックに撮ってぇー!!」颯太がはしゃいだ。
何百年も前からそこにあるような、白く巨大な石造りの塔。見上げると、その先端は本当に雲を突き抜けて、天まで届いているかのようにそびえ立っている。
「うわぁ……でっけえなぁ……」
澪央が口をポカンとあけている。
塔の入り口は固く閉ざされているかと思いきや、まるで俺たちを歓迎するかのように、ギギギ……と静かに開いた。
「行こう。中に、いるはずだ」
朔夜を先頭に、俺たちは塔の中へと足を踏み入れる。
「なんか怖いよぅ」俺と颯太が震えたけど
一歩入った瞬間、
外の涼しい潮風とは一変して、肌を焦がすような、だけどどこか温かい熱気が俺たちを包み込んだ。
らせん階段をひたすら上る。
「マジ階段長いわ!!」
「それな。まぁ、余計な事はしゃべんな
颯太、バテるぞ!」
「いや、おれ、もうバテてるわ…」
息を切らしながらやっと、
「ついたぁーはーつかれたぁ」
とバテバテながらも
最上階の扉を開けた、その時――。
まばゆいばかりの黄金の光が、俺たちの視界を
奪った。
「あら、いらっしゃい! 私の光に導かれちゃった、可愛い迷子ちゃんたちかしら?」
逆光線の中から響いたのは、地鳴りのように野太い、だけど妙に艶っぽいハイトーンな声。
まぶしさに目を細めながら見上げると、そこにいたのは――。
はち切れんばかりの大胸筋と、丸太のような丸ボーズ頭。
ギラギラと輝く金色のタンクトップをまとい、なぜか片手を頬に当てて内股で佇む、
超絶ポジティブオーラ全開の
『太陽の魔法使い』ソルだった。
「お、オネェかよーー!!っていうか、筋肉すごっ!?」
颯太が思わず素でツッコミを入れる。
「失礼ねぇ!これでも私、燦々と輝くお天道様に愛された太陽の魔法使い、ソルよ!
ソルちゃんって呼んで頂戴❤ ウフッ、そこのシュッとした男の子、私の好みだわ❤」
ウインクしながら朔夜を指差すマッチョオネェに、
朔夜が一歩引きながら、引きつった笑みを浮かべている。
颯太がビックリしながら
「おい、朔っっ!このソルだかいうオネェ
間違いなく太陽の魔法使いなのか??」
と確認した。
「うっ、うん、そうだね…ソルの
肩に太陽の妖精がいる。」
「うわ、いるわ。」
ソルの肩に確かに妖精がいる。
俺の肩からミレアが、颯太の肩からイグニが
朔夜の肩からユエが、羽をパタパタさせながら
太陽の妖精のそばに行った。
俺は呆気に取られながらも、この強烈な太陽の魔法使いに向かって、一歩前に踏み出した。




