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視界に入るなと言われた闇魔法使いの花嫁は、隠れて瘴気を浄化した結果、改心した辺境伯から溺愛される  作者: 水路


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6.フレドリックの初恋


「フレドリック様のご様子がおかしい?」


 いつものように別邸でハンナの入れた紅茶を飲むロキから、フレドリック様の近況を教えてもらう。


「はい。サラ様がフレドリック様の瘴気を取り除いてくれたあの日から、明らかに様子がおかしいんです」

「おかしいって、どんな感じなの?」


 まさかまだ瘴気が残っていたのだろうか。


「フレドリック様には、あの日治療をしたのは、近ごろ領に住み着いた腕の良い浄化師だと伝えているのですが、浄化師に会わせろとうるさいのです」

「浄化師に?」


 あの日、フレドリック様の瘴気を取り除いたのが、顔も見たくない、闇魔法使いである身代わりの妻とは言えなかったため、ロキと主治医に口裏を合わせてもらい、浄化師による治療を施したということにしたのだ。


「会ってどうしようというのかしら?」

「これはサラ様には言いにくいのですが……どうやらフレドリック様は、浄化師に恋をしてしまったようなのです」

「浄化師に恋……」


 あの日フレドリック様を治療した浄化師は私なのだけれど、ということはつまり……。


「ロキ、あんたの主は、瘴気を取り除くなら犬でも好きになるんじゃないか?」


 ハンナ、言い方! まあ私もちょっとそれは思ったけれど……犬に恋するフレドリック様はきっと可愛いだろう。


「そうなんですよ、あれは何なんでしょう、浄化=恋なんですかね? 恋愛ポンコツの思考回路は予測ができないですね」


 相変わらずこの二人はフレドリック様に厳しい。


「それなら浄化師はサラ様なんだし、サラ様が会いに行けは解決じゃないですか」

「無理よハンナ、黒髪のままではフレドリック様にお会いできないわ! せめて黄金竜を倒して金色の髪になってからでないと!」

「黄金竜を倒すって、うちの精鋭部隊が束になっても倒せなかったんですよ? それをサラ様お一人で倒すって厳しすぎでしょう。それなら俺から浄化師がサラ様だったことをフレドリック様に伝えますよ」

「ダメ! それで対面することになって、またあの時みたいに言われたらどうすればいいの? お願い、時間をかければ私の闇魔法でも黄金竜を倒せるはずなの……」


 不吉な黒い髪と言われたのだ。そんな髪色をお見せして、フレドリック様に不快な思いはさせられない。それに怖いのだ。あの時みたいに再び傷つくのが。 


「本当にフレドリック様が、サラ様のことを深く傷つけてしまって申し訳ありません。当面は浄化師に会うことはできないと、俺から説明しておきます」


 それからしばらくして、フレドリック様から浄化師へ花と菓子が贈られてくるようになった。


「フレドリック様に、浄化師は浄化に集中したいからお会いできないと伝えたところ、何か礼がしたいと言われたので、それなら花や菓子が喜ばれますよと言ったのです」

「まあ、そうなのね」


 フレドリック様からの豪華な花や高級な菓子を、ロキが別邸に届けてくれる。おかげで別邸のお茶会は華やかなものになった。


「いいのかしら、こんなに素敵なものを毎日のようにいただいてしまって……」

「いいんじゃないですか? 浄化師への贈り物ですけど、本来ならサラ様が受け取るはずのものですから」


 ロキの隣でハンナも頷いている。


「そう、なのかしら……」


 フレドリック様から贈られる菓子や花は、とても可愛いものばかりで、きっと恋をした相手に喜んでもらいたいとの気持ちが込められているのだろう。それを受け取っているのが、一年で離縁する予定の身代わりの花嫁だとも知らずに。


◇◇◇

 

 王都。

 王宮の一角でフレドリックは、書類の提出をしているロキを待っていた。今回は、魔獣討伐の報告のため、二人で王都を訪れていた。


「フレドリック様、これで今回の討伐の報告書類の提出は終了しました」

「ご苦労、ロキ」

「それにしても、毎回わざわざ辺境から王都まで出向いて、領主が直接報告する必要があるのでしょうか?」


 長距離の移動と役人との折衝で疲弊しているロキは、思わず隣にいるフレドリックに愚痴をこぼした。


「王家への忠誠心を、周囲に見せつける必要があるのだろう」

「権威付けのためですか。その王家は、忠誠を誓った辺境伯に対して、身代わりの花嫁を報奨に渡してきましたけどね」

「ロキ、ここは王都だ。口を慎め」

「はいはい」


 ロキがそう言いたくなるのも無理はない。北の辺境で魔獣討伐をしている我々に対して、王家はあまりにも冷たい。ろくな援助もせず、それなのに功績は王家のものとして奪っていく。


「そういえば、あの娘はどうしている?」


 ロキの発言で、フレドリックは身代わりの花嫁のことを思い出した。もうすぐ一年経つが結婚式以来会っていない花嫁。


「あの娘って、サラ様のことですか?」

「あの黒髪の闇魔法使いは、サラと言うのか?」

「……奥様の名前も覚えていないのですか?」

「どうせもうすぐ離縁するのだ、覚える必要はないだろう? それより、あの浄化師にはそろそろ会えないだろうか?」

「……」


 ロキになんとも言えない顔をされるが、何の問題があるというのか。身代わりの闇魔法使いの娘とは、この一年接触していないので白い結婚が成立する。離縁したとしても王家から文句を言われる筋合いはない。王家もこの一年の間に、グラナデス家の光の魔法使いと第二王子の婚姻を進めていたのだから。


 その日の夜会で、第二王子の婚姻は大々的に発表された。

 もちろん、光の魔法使いアンジェリカの光魔法もその場で披露される。キラキラと光の粒を放ちながら、連れてこられた病人から瘴気を浄化する。その光景を見た人々は歓声をあげた。

 

 フレドリックはそれを、離れた場所から冷めた目で見ていた。


「……茶番だな」


 アンジェリカは確かに光魔法で瘴気を浄化したが、それはほんの微量な瘴気だ。今なら分かるが、アンジェリカの魔力は多くない。きっとあれが限界の能力だろう。


「やっと気がつきましたか?」

「ああ、今ならあれがただのパフォーマンスだと俺にも分かる」


 あんな目くらましの子供騙しでも、稀少な光魔法の使い手だ。瘴気のほとんどない王都では利用価値もあるだろう。だが、濃い瘴気が蔓延する辺境の地ではあんなものは何の役にも立たない。


「俺はあんな女を報奨に望んだのか……」

「しょうがないですよ、あの時のフレドリック様は冷静ではなかったですから」


 確かにあの時のフレドリックは、魔獣の討伐を終えたばかりで疲れ切っていた。そんな中で見た光魔法は宝物のように煌めいて見えたのだ。


「調査報告書によると、グラナデス家の当主は、王家とのつながり欲しさに報奨の改竄を思いついたようです。王命の書類にグラナデス家の娘とだけ書くように働きかけて、妹のサラ様を身代わりに辺境伯へ嫁がせたのです」

「王家もグルか、辺境も馬鹿にされたものだ」

「反乱でも起こしますか?」

「ロキ、口を慎めと何度言えば」


 夜会は王宮で開催されているのだ。誰の耳に入るか分からない。


「失礼しました。では続きを。報告書には、身代わりに差し出されたサラ様のことも書かれていました。表向きは病弱を理由に屋敷に閉じ込められて、劣悪な環境で過ごされていたようです。フレドリック様、結婚式の時のサラ様を覚えていますか? ガリガリに痩せこけて、生気の無い顔をされていたでしょう?」


 結婚式でベールを上げたときに一度だけ見た妻のことを思い浮かべる。真っ黒な髪にげっそりとした頬、青白い肌をしていた。指輪の交換で持ち上げた手は骨が浮き出ていた。


「身体への虐待こそ無かったようですけれど、食事は日に一度の粗末なもので、外にも出してもらえず、薄暗い部屋で毎日を過ごされていたとのことです」


 家族から冷遇されていた娘。身代わりの花嫁として嫁がされたあの娘も、ある意味被害者だったのだ。

 俺はあの日、あの黒い髪を見て怒りにまかせて何を言った? 

 身代わりで無理矢理送り込まれた花嫁に、事情も聞かずに酷い言葉を浴びせかけたのだ。


「ロキは今もあの娘と会っているのか?」

「そりゃあ経緯はどうであれ、フレドリック様の正式な奥様ですから、お会いしていますよ」

「……そうか、それで、その……元気にしているのだろうか?」

「ご自分で会いに行かれてみてはいかがですか?」

「今さらどんな顔をして会いに行けと? あんな酷いことを言ったのだ」

「酷いことを言った自覚はあるのですね。それなのに会いもせずに一年で離縁するんですか? それであの浄化師の娘に求婚するつもりですか?」

「ロキ、何を怒っている?」

「怒っていません、呆れているだけです。我が主はあっち方面が本当にポンコツすぎて頭が痛い……フレドリック様、辺境に戻ったら付き合って欲しいところがあります」


 ロキの迫力に負けて思わず頷くフレドリックだった。




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