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視界に入るなと言われた闇魔法使いの花嫁は、隠れて瘴気を浄化した結果、改心した辺境伯から溺愛される  作者: 水路


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4.魔石と肖像画


 泉は瘴気が多いので、瘴気を好む魔獣が出現する。

 魔獣が出現した時は、闇魔法で魔獣から瘴気を抜き出して倒す。小さい魔獣なら短時間で瘴気を取り出すことができるが、大きい魔獣の場合は、瘴気を取り出すのに時間がかかる。

 私は攻撃魔法や防御魔法を持っていないので、魔獣の攻撃を避けながら、少しずつ相手の瘴気を減らす戦法しかとれない。大きい魔獣と対峙した場合は結構大変だ。


 倒した魔獣からは魔石が手に入る。これまでに倒した魔獣から手に入れた魔石が溜まってきたので、ハンナに相談したところ、辺境の雑貨屋では魔石も引き取ってくれるとのことだったので、行ってみることにした。

 日用品や食料品の横に武具なども並ぶ辺境の雑貨屋は、雑貨屋というより何でも屋と言った方が良さそうな雰囲気をしていた。店主は温厚そうな中年男性で、緑の髪色だから植物魔法の使い手だろう、店には野菜や果物もたくさん並べられていた。

 魔石の鑑定も店主がやっているというので、今までに手に入れた魔石を見せてみた。


「こりゃあ、傷ひとつ無い上物の魔石ばかりだ」


 通常は剣や攻撃魔法で魔獣を倒して魔石を取り出すので、どうしても傷が入ってしまうらしい。私の闇魔法では、瘴気を取り除いて魔獣を倒すので、綺麗なままの魔石が取り出せる。傷の無い魔石は高値がついたが、別邸でひっそりと暮らしている私には、お金の使い道がなかった。

 売ろうかどうか迷っていると、雑貨屋の一角に置かれている絵が目に入った。近づいてみると、お土産用だろうか、辺境の美しい景色を描いた絵が多く飾られていた。その中には肖像画も何点かあり、私はひとつの肖像画に釘付けになった。


「これは、もしかして……」

「あー、その絵は、ここ北の辺境の領主様の肖像画だよ」


 王都でも、王様や王太子殿下の肖像は人気があり、街中いたるところで売られていると聞いたことがあるが、ここでは辺境伯の肖像画が売られているのだ。


「この方が、フレドリック様……」


 額に入った小ぶりな肖像画を手に取ってみる。結婚式ではお顔を見ることができなかったけれど、肖像画に描かれたフレドリック様は、切れ長の目に、すっと通った鼻筋の、端正なお顔立ちをされていた。

 白黒の絵なので、髪や瞳の色は分からないけれども、氷の魔力をお持ちなので、白い髪に青い瞳ではなかろうか。


「嬢ちゃん、うちの領主様を見たことないのかい? 今の領主様は若くてイケメンだよ。最近結婚して独身じゃなくなったけどな」

 

 そう言って笑う店主は、まさかフードを被った私が、フレドリック様の妻だとは思いもしていないだろう。

 こんな素敵な方が私の旦那様なのだ。そう思うと、この絵が欲しくてたまらなくなった。買ってしまおう。そして別邸に飾ろう。

 ということで、さっそく魔石を換金してフレドリック様の肖像画を手に入れた。


 別邸に戻り壁に飾ってみる。

 フレドリック様の視線はこちらを向いているので、見つめられているようで恥ずかしい。


「フレドリック様、ふつつかな嫁ですが、よろしくお願いいたします」


 あの日、結婚式の日に言えなかったことを、肖像画に向かって言ってみた。

 顔を赤くして語りかける私を、ハンナがかわいそうなものを見るような目で見てくるが気にしない。黄金竜を倒したら会いにいくのだ。事前の準備は大事だ。

 それからも、魔獣を倒して取り出した魔石を換金して、フレドリック様の肖像画を手に入れては壁に飾ることを繰り返した。


 そのうちに新作が出るようになった。私が買いまくるものだから、店主が新作を発注するようになったのだ。

 

 そんなある日、雑貨屋に色つきのフレドリック様の肖像画が出た。

 想像していた通りに、髪は白で、少し青みがかっていた。瞳の色は薄めの青、アイスブルーとでもいうのだろうか、とても綺麗な瞳の色だ。


 欲しい、凄く欲しい。ただお値段が、白黒と比べると格段にお高い。でも、これは何としても入手して別邸の壁に飾りたい。そう思った私は、その足で瘴気の濃度が濃い泉へとハンナと一緒に向かい、そこに潜む大きな魔獣から、ひたすら瘴気を取り除いた。朝から始めたのに、倒すことが出来たのは日暮れ近くだった。売り切れたら大変と思い、ヘロヘロだったけれども、ハンナを連れて雑貨屋へと急いだ。


「サラ様、今日はお疲れですし、もう日も暮れるので危険です。雑貨屋へは明日行きましょう」

「ダメよハンナ! 私以外にもフレドリック様のあの絵を狙っている人がいるかもしれないわ!」

「あんな値段の高い領主の肖像画なんて、誰も買わないですよ」


 ハンナの声を無視して急ぎ足で雑貨店へと向かう。店に入り、絵画コーナーへ直進する。あった、良かった! 

 肖像画の無事を確認し、魔石の換金のために店主のいるカウンターへ行くと、店主の隣にはフレドリック様の側近のロキがいた。


「あれ、もしかしてサラ様じゃないですか?」


 ぎくり


 なんでフードを被っているのに気が付いてしまうのだろう? 許可も得ずに外を出歩いていることを知られるのはまずい。


「人違いではないでしょうか?」

「サラ様、足速すぎですよ! ほーら、フレドリック様の肖像画、売れ残ってるじゃないですか」


 後から店に入ってきたハンナによって、私の嘘は一瞬にしてバレてしまった。気まずい……。


「ハンナ、ということはやっぱり奥様ではないですか」

「奥様? 誰のだ?」

「ロキ、なんであんたがここにいるのよ?」

「フレドリック様のですよ」

「何だ、あんたたち知り合いだったのか?」


 店主とロキとハンナが、それぞれ好き勝手に喋るので収拾がつかない。

 とりあえず、ひとつずつ片付けていこうとのロキの提案を受けて、まずは私が魔石を換金して、フレドリック様のカラー肖像画を手に入れた。

 色のついたフレドリック様、素敵。思わず顔がニヤけてしまう。


「はぁ、では、近ごろ領主様の肖像画を買いまくっていたこのお方が、新しくやって来た領主様の奥様だったというわけですかい」


 私が色々なバージョンのフレドリック様の肖像画を買い漁るので、店主は辺境伯邸へ魔石を納入する際に、肖像画の追加発注をかけまくっていたそうだ。どうりで新作が出るペースが早かったわけだ。


「上物の魔石は辺境伯邸に持ち込まれるのですが、最近、傷ひとつ無い極上の魔石が納入されるようになったので調べていたんですよ。そしたら魔石を換金してフレドリック様の肖像画を買い漁る若い娘に行き着いたので、一体、何者かと思いここまでやって来たのですが、まさかサラ様だったとは……詳しい話は屋敷に戻ってから聞かせてもらいましょうか?」


 ニッコリと笑うロキから出る、有無を言わせぬ圧に負けて、別邸で事の次第を説明することになった。




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