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視界に入るなと言われた闇魔法使いの花嫁は、隠れて瘴気を浄化した結果、改心した辺境伯から溺愛される  作者: 水路


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2.身代わりの結婚式


 身代わりの花嫁とバレないように、一切すかしの入っていないベールを被せられた。ベールというより布だ。これでは前も見えない。

 白い布をすっぽりかぶせられた私は、若き辺境伯フレドリック様との婚姻の場の聖堂へ、従者に手を引かれ連れて行かれた。

 聖堂の中はアルバスタイン辺境伯家の参列者のみで、グラナデス家側の参列者はゼロだった。遠方であることを理由にしたようだが、実際には、身代わりの花嫁を送りつけたことがバレた時を想定して、誰も参列していないのだろう。


 結局、式当日に討伐から帰ってきたフレドリック様と事前に対面することなく結婚式は始まった。最悪の状況だ。これから始まる地獄を想像すると胃が痛い。まるで処刑場へと連行される罪人の気分だ。


 フレドリック様の隣に立たされ、ベールで周囲の状況が見えない中、粛々と式は進行して行く。誓いの言葉をお互いが宣誓し、指輪の交換もした。お姉様の鈴の鳴るような声とは違う低い声や、痩せ細った手を見て、きっとフレドリック様は違和感を抱き始めていることだろう。

 お姉様はフレドリック様のことを、冷酷無慈悲な恐ろしい方と言っていたけれど、辺境の人々の表情は明るかったし、屋敷の使用人たちの仕事振りは丁寧だった。冷酷無慈悲な領主様ではこうはいかないだろう。そんなお方なら、身代わりの花嫁を見ても、きっと何か事情があったのだろうと察してくれるはずだ。

 

 いよいよベールアップの時間となった。緊張がピークに達する。

 フレドリック様が私の被っているベールをそっと上へとあげられた。目を伏せているので確認はできないけれど、フレドリック様からの視線を感じる。このまま、フレドリック様のお顔が近づいてきて、口づけをされるのだと思っていると。


 ばさっ


 上げられたベールをふたたび被せられた。その力の強さに思わずバランスをくずしてよろける。


「これはどういうことだ!」


 フレドリック様の大きい声が聖堂内に響き渡った。低いけれども良く通る声で、私をここまで連れてきた従者に詰め寄る。


「この黒髪でガリガリの女は何者だ! 俺が報償にと王へ望んだのは、金色の髪のグラナデス家の光の魔法使いだ!」


 フレドリック様は、怒りのあまり魔力が漏れ出しているようで、聖堂内の空気が一気に下がった。北の辺境伯家で代々受け継がれてきた氷の魔法の発動に参列客がざわつき出す。私の足先も冷たくなってきた。


「お、王命にはグラナデス家の娘とだけしか記述がございませんでした! サラ様はグラナデス家の次女で、記述に合致いたします。既に神殿に届けは受理されており、この婚姻は成立しております!」


 従者は青い顔でそれだけを言うと、逃げるように聖堂から出て行った。


 え、置いていかれた? 私一人でこの場を切り抜けろと? ベールで見えないけれど、フレドリック様は怒り心頭のご様子で、聖堂の空気がどんどん冷たくなっていく。鼻の奥も痛くなってきた。飾られた花もバリバリに凍りついて、割れた花びらが足元に散っている。


 ……このままここにいたら凍死してしまう。

 だから事前に能力をアピールしたかったのだ。こんな真っ黒な髪の鶏ガラみたいな女を身代わりにするなんて無理があったのだ。お父様も無茶なことをする。

 そうはいっても、すでに誓約書は神殿に受理されているのだ。婚姻は成立してしまっている。貴族同士の結婚で、王命も出されているのだ。今さら無かった事には出来ない。それはフレドリック様も理解されているはずだ。


「一年で離縁する。それまでは領に置いてやるが、一年経ったら出て行け。領にいる間は絶対に俺の視界に入るな、お前の不吉な黒い髪など二度と見たくない。」


 フレドリック様はそう言い放つと、凍った花びらを踏みつけながら出て行かれた。


 壇上には困り顔の聖職者様とベールに覆われた私。

 フレドリック様が出て行ったことで冷気が和らいだためか、参列者たちが動き始めた。気まずそうに立ち上がり、ポツポツと聖堂から去って行く。

 人も減ってきたことだし、ベールを外してもいいだろうと判断した私は、フレドリック様から思いっきり被せ直された白い布を取り去った。冷たい空気が肌に触れる。


「ひっ」


 残っていた参列者たちの中から小さな悲鳴があがった。きっと、私の黒髪を見てのことだろう。フレドリック様にも不吉な黒い髪と言われたし、分かっていたことだけれども、ここ辺境の地でも黒髪の闇魔法使いは忌避されているのだ。


「サラ様!」


 参列者の視線から逃れたくて、再びベールで髪を隠そうとモソモソしている私に声を掛ける者がいた。


「我が主の態度が悪くて大変申し訳ありませんでした。討伐帰りで少々昂ぶっておりまして」


 声を掛けてきたのは、フレドリック様の側近のロキという青年だった。水色の髪をしているので、水魔法の使い手だろう。


「状況の把握がまだきちんとできていませんが、なにせ主があの状態ですので、申し訳ありませんが、サラ様にはしばらくは本邸ではなく、別邸で過ごしてもらいます」


 物腰は柔らかいが、こちらのことを信用していない様子のロキが告げてきた。それもそうだろう、金髪の光の魔法使いが嫁いで来るはずが、黒髪の闇魔法使いがやって来たのだ。討伐帰りもあるだろうが、待ち望んだ花嫁とはかけ離れた女をあてがわれたのだ、フレドリック様の態度も無理はない。斬られても文句は言えないところだった。

 

 それでも、父の読みどおり一年間は置いてもらえることになった。この間にアンジェリカお姉様と第二王子の婚姻話が進められ、フレドリック様はお姉様に手が出せなくなる。

 お父様も王家も本当に酷い事をする。けれどもフレドリック様からしてみれば、私も騙した側の人間だ。まずはこの認識を変えてもらわなくてはならない。


「承知いたしました、これからお世話になります」


 凍える聖堂を後にして、ロキに案内され別邸へと向かう。

 ベールを取った時には立ち去られた後だったので、フレドリック様のお顔は見られなかったけれど、指輪の交換の時に触れた手は、魔物討伐をする人らしい、ごつごつとした大きな手だった。言われた内容は酷いものだったけれど、低めの声も素敵だった。あの方が私の夫なのだ。


 一年後に離縁されても私には帰る場所はない。

 当初の計画どおり、なんとか一年の間に役に立つことをアピールして、フレドリック様に婚姻を継続してもらいたい。それが無理ならせめて領地の片隅で暮らす許可が欲しい。

 視界に入ることも許されていない旦那様に、どうやってアピールすればいいのか見当もつかないけれど。




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