11.優雅なる粛清
太陽が燦々と降り注ぐ露店街。
活気に満ちたテラス席では、異様な雰囲気を纏う二人の男がテーブルを挟んで向かい合い、優雅にお茶を嗜んでいた。
「クレイマン騎士団長殿……本当に、我らグレイブ一家が陛下の御紋を掲げて商売をすることを許されるのですか?」
おずおずと尋ねたのは、小綺麗な服を着た商人風の男だった。
対する男――新任の第一騎士団長マグナス・クレイマンは、洗練された手つきで磁器のカップを持ち上げ、立ち上る紅茶の芳醇な香りを優雅に楽しむと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふぅ……安心したまえ。あのプエルト商会が壊滅した今、君たちが帝都で大手を振って商いができるよう、私自らが色々と取り計らってあげるさ」
「ほ、本当に……本当にそうボスに伝えても大丈夫なのですか……!?」
すがりつくような切実さで念を押す男に、マグナスは金髪を撫でつけ、射抜くような鋭い眼光を向けた。
「ああ、もちろんだとも。私としても、君たちのその『ボス』とやらには一度ご挨拶をしたいと思っているのだがね。……いま、一体どちらに隠れ潜んでいるのかな?」
「い、いや……そりゃあ、貴方相手だろうと口にするわけにはいきません。……ただひとつ言えるのは、その、ボスは現在、帝都にはいないということくらいで……」
男の目が泳ぎ、冷や汗が頬を伝う。
「そうか……。それを聞いて安心したよ。……しかし、君のお仲間たちは、私に対してずいぶんと情熱的な視線を注いでいるようだね?」
マグナスは表情ひとつ変えず、視線だけを周囲へと滑らせた。
その類稀なる鋭い観察眼が捉えたのは、計四人。
路地の暗がりに一人。
壁に背を預け、雑談を装っている者が二人。
そして、自分のすぐ背後の席に、一人。
「……わ、分かってくれ。これでも俺は部下を何人も預かる立場なんだ。そう簡単にアンタらに捕まるわけにはいかねぇんだよ……」
「ああ、ならもっと安心したまえ。捕まえたりなどしないさ。……そんな、悠長な解決を私が望むと思うかい?」
優雅にそう言い放つと、騎士団長は再び静かに紅茶へ口をつけた。
「……は?」
男が意味を測りかねて首を傾げる。
マグナスは、答えず、サッと片手を上げた。
次の瞬間――。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥン!
切り裂くような鋭い風切り音が空気を震わせた。
「ギャッ……!??!」
男が短い悲鳴を上げ、勢いよくテーブルへ突伏した。
その――後頭部の中心から、一本の黒光りする矢が生えていた。
マグナスは眉ひとつ動かさず、冷ややかな瞳で見下ろした。
彼の手元にある紅茶のカップには、男の頭部から飛び散った僅かな血と、男の眼窩から飛び出した、"眼球"が、ぷかぷかと浮いていた。
テーブルの上には、見る見るうちに赤黒い血溜まりが広がっていく。
――ガタリッ!!
背後の席から、気配を殺していた男が弾かれたように立ち上がる。
マグナスは傍らに立てかけていたロングソードを、流れるような動作で引き抜くや否や、振り向きざまに――ズスッ!
「グハッ……!? グ、グブッ……!!」
一撃。
男の鎖骨の隙間から深く突き入れられた刃が、正確に心臓を破壊した。
ゴボリと大量の血を吐き出しながら、至近距離から"信じられない"という目でマグナスを睨みつける死に際の一味。
しかしマグナスは、正装である白銀の騎士服を返り血で汚しながらも、まるで不快な虫けらを見るような冷淡な目で見下ろすだけだった。
「キャァァァァァァァァーーーッっ!!!?」
悲鳴が爆発した。
近くの席にいた貴婦人が惨劇に気づき、絹を裂くような悲鳴を上げて逃げ惑う。
「う、うわぁっ!? な、なんだ……何が起きたんだっ……!?」
トレーに載せたお茶をひっくり返し、給仕の若い男が腰を抜かして床にへたり込んだ。
マグナスは剣を引き抜いて優雅に振り返ると、両手を広げてみせた。
「落ち着きたまえ、市民諸君。私は第一騎士団長だ。……最重要指名手配犯の粛清だよ。さあ、もう危険はない。安心して、どうぞお茶を続けてくれたまえ」
頬に返り血を付着させたまま、狂気を孕んだ爽やかな笑顔を振り撒くマグナス。
そして、腰を抜かしている給仕の青年へと歩み寄ると、静かに声をかけた。
「君。……お茶を、取り替えてはくれまいか?」
指さされた給仕の若者は、ガタガタと全身を震わせながら必死で立ち上がり、騎士団長から差し出されたカップを両手で受け取った。
そして、その中身を覗き込んだ瞬間――。
「ヒィィィィィィッ!!!?」
青ざめた悲鳴とともに、再び勢いよく尻もちをついた。
手からこぼれ落ちたカップから、トロリ、と床の上に人間の眼球が転がった。
マグナスは気にした様子もなく、元の椅子へと静かに腰を下ろした。
周囲へと視線を走らせる。
路地裏や壁際に潜んでいた他の構成員たちも、すでに待機していた彼の優秀な部下たちによって、瞬く間に拘束されるか、あるいは物言わぬ肉塊へと変えられていた。
懐から小さなシルクのハンカチと手鏡を取り出すと、マグナスは自身の美しい顔に付着した血汚れを、神経質そうな手つきで丁寧に拭い去った。そして、乱れた前髪を指先でしっかりと整え直す。
血に染まったハンカチを汚物のようにテーブルへ投げ捨てると、彼は血溜まりを見つめ、ぽつりと呟いた。
「ふん……まったく、便利なものだな……」
目の前の死体――"疾風のギダン"と呼ばれた男は、あまりにもすばしっこい、健脚の持ち主だった。
この男を拘束するとなると、一筋縄ではいかない……。
口元に凶悪な笑みを浮かべ、マグナスは心底満足そうに鼻で笑った。
「いやぁ、本当に便利だよ……暗殺者ギルド……という連中は」




