46.明るい明日への生存戦略
燃えさかる屋敷が重い音を立てて崩れ落ち、赤黒い煙が夜空へ昇っていく。
「ハァ……ハァ……。こんな無茶苦茶なこと、初めてよ……」
ポニーテールを乱したリリィが、息を荒らげながら炎を見つめていた。
「いやぁ~……まあ、なんとかなって良かったね?」
煤で汚れた頬を擦りながら、ルイスが呑気に笑う。
「アンタ、ほんっとうに疫病神だわ! 今回ばかりは本気で死ぬかと思ったわよっ!?」
噛みつくリリィの横で、重い足音が近づいてきた。
憲兵騎士ロザーナ・ベルトランだ。その瞳には、深々とした疑念と困惑が宿っている。
「……ルイスさん。説明してください。奴らが悪党なのは分かりました。ですが……あなた方は一体、何者なのですか!?」
騎士としての真っ当な追及。
今宵の現場を見られた以上、裏社会の掟に従えば、この場で消すしかない。
リリィの冷ややかな視線がルイスを刺す。
(……アンタが始末しなさいよ)
ルイスは生唾を飲み込み、腹を括った。
ここで怯めば、未来が途絶える。
ならば……。
「フッ、フフフ……ハッハッハ! ロザーナさん。バレてしまっては仕方がない!」
ルイスは大袈裟に肩をすくめ、キザな笑みを浮かべた。
「る、ルイスさん……? まさか……」
絶望に顔を曇らせるロザーナに向け、ルイスは堂々と宣言する。
「……僕たちはね。正義の秘密結社、その名も――『第三勢力』なんだっ!」
「なッ?! ……『ザ・サード・オーダー』……!?」
ロザーナの心臓が跳ね上がった。
なんという……香ばしく、甘美な響きだろうか……!
「腐敗した貴族でも、裏社会の暴力でもない。真の秩序を取り戻すため、闇に潜んで悪を裁く……僕たちはそんな、正義のミカタなのさ!」
ルイスの一世一代の大芝居。
それが、幼少期から大衆小説に親しんできた女騎士のロマンと見事すぎるほど合致した。
「ルイスさんっ! 私を……私もその結社に入れてくださいっ! ど、どうすればいい!?」
血走った目で詰め寄ってくるロザーナに、ルイスは一瞬あっけにとられつつも、凛とした顔でその手を取った。
「……君は、もう僕らの仲間だよ」
「フェぇぇぇ……っ!?」
顔面を真っ赤にするロザーナ。
呆れ果てたリリィは深くため息をつくと、懐からカランビットナイフを取り出し、指でクルリと回してロザーナへ差し出した。
「……よろしくね、同志。……夜明け前が、一番暗いのよ。でも、一筋の火花がいずれ世界を焼き尽くすわ……『第三勢力』へようこそ」
「ふぉぉぉぉぉぉぉ!! どこまでもついてゆきますぞ! この帝国に、新たな正義を!」
ものの数分で、完全に洗脳された女騎士が爆誕した。
「……よし、さっそく歓迎会だねっ! お腹が空いたよ~」
キザな演技を脱ぎ捨て、ルイスが本音を漏らす。
「さっき、オークの口に全部吐き出したものね……」
バシッとリリィがルイスの背中を叩いた。
「ルイスさん、次はどんな悪を滅ぼすのですかっ?! 私も腕が鳴るぞ! ふぉぉぉぉぉ!!」
興奮冷めやらぬロザーナに腕を絡められたルイス。なぜか負けじとリリィもルイスの腕を掴む。
そうして三人は崩れ去る邸宅を後にした。
両脇を二人の少女が固めて歩くという、極甘口なシチュエーション。
しかし、ルイスの胸中には、「どうしてこうなった……?」という深い焦燥感が渦巻いていた。
――やがて、深く重い夜の闇がゆっくりと退いていく。
東の地平線が仄かな紫から茜色へと変わり始め、静かな朝の光が薄く差し込んできた。
冷たい朝の風が、燃え尽きた灰の匂いを遠くへ運び去っていく。
夜の惨劇を包み隠すように、柔らかい陽光が三人の背中を照らし出していた。
終わりを告げた凄惨な夜と、新しく訪れた朝。
だが、その光の先には、さらなる波乱に満ちた道がどこまでも続いている――、のかもしれない。
果たしてルイス君は、無事に憧れの冒険者になれるのか……!?
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引き続き、ルイス君の波乱万丈な生存戦略をお楽しみください!




