第8話_醤油とチャーシュー
残りはシドとカレンが受け持っていた。シドの動きは俺より遅いが、判断が正確だ。カレンの射撃は無駄がない。ただ——見えていた。二人とも、俺の機動に合わせようとして、半拍ずつ崩れている。カレンが俺に射線を譲って態勢を崩し、そこをシドがカバーに入って、自分の間合いを捨てた。
俺が速いほど、味方が乱れる。
最後の一機の推進器を破壊して、戦闘が終わった。七機、四分。拠点は無傷。全員、生きている。
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帰投した格納庫で、シドが整備台に腰かけて言った。
「燈。ひとつ、はっきりさせておく」
「はい」
「お前の戦い方は、俺には合わせられない。今日、二回、俺はお前の機動に釣られて自分の間合いを捨てた。カレンもだ。お前が悪いんじゃない。ただ、事実として、俺たちはお前の隣を飛ぶと邪魔になる」
責める声ではなかった。長くこの仕事をしてきた人間の、正確な自己申告だった。
「……すみません」
「謝るな。速い奴に合わせて遅い奴が転ぶのは、遅い奴の側の問題だ」とシドは立ち上がった。「ただ、ガルムは近いうちに判断するだろうな。お前を単独で使う方が、全員のためだと」
その言葉の意味を、俺はまだ正しく量れていなかった。
「難しい顔をするな」とシドは俺の肩を叩いた。「ラーメンだ。約束だろう」
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宙港の端の店は、狭くて、湯気で窓が曇っていた。
シドの言った通り、醤油味で、チャーシューが分厚かった。モスは大盛りを頼んで、隣のカレンに呆れられていた。
「うまい……」とモスが唸った。「俺、これ週一で食いたいです」
「傭兵の稼ぎで週一は贅沢よ」とカレン。
「じゃあ月一で。あ、でも次はカレーですよ。約束したじゃないですか、本物のカレー」
「本物は地球だろう」とシドが言った。「戦争が落ち着かないと民間船は飛ばん」
「だから探すんです。宙港のどこかに、地球出身の人がやってる店がないか。移住者は絶対いるはずなんで」とモスは箸を止めずに言った。「店は俺が見つけておきます。見つけたら全員で行く。いいですね?」
「はいはい」とカレンが笑った。
「燈さんも。いいですね?」
「ああ」と俺は言った。「約束だ」
モスが満足そうに頷いて、大盛りの残りに戻った。
会計で、シドが全員分を払おうとして、モスが「新人じゃないんで自分で払います」と抵抗して、結局シドが払った。「新人の定義は俺が決める」というのが理由だった。
帰り道、シドが俺の隣に並んだ。
「そういえば、依頼の問い合わせが増えてるらしいぞ。ガルムの机の上、依頼書の山だ」
「景気がいいのは、いいことでは」
「名指しが混ざってる」とシドは言った。「灰色の機体の傭兵を、と。……お前、有名になり始めてるぞ」
宙港の灯りの下で、シドの顔の傷跡が白く見えた。有名になる。それが傭兵にとって何を意味するのか、シドは言わなかった。言わないことで、伝えていた。
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格納庫に戻って、機体の点検を済ませた。
「ぱ、いろっと」
「なんだ」
「こん、や、の、しん、ぱく、すう、は、へい、じょう、より、あん、てい、し、て、い、ます。り、ゆう、が、ふ、めい、です」
俺は少し考えて、答えた。
「飯がうまかったんだ」
「めし、が、うまい、と、しん、ぱく、が、あん、てい、する、の、です、か」
「そういう日もある」
λは数秒黙った。処理しているのか、record しているのか、その中間なのか。
「き、ろく、し、ます」
照明を落とした。アンテナの青白い光が、暗がりで静かに明滅していた。
任務が終わったら、何を食うか。シドの言った通りだった。終わった後のことを考える。それだけのことが、こんなに効くとは思わなかった。
次は、カレーだ。




