第9話_十六機 (改稿済み)
気になる箇所に修正を入れました。
ご不便おかけしますが何卒よろしくお願い申し上げます。
――Moiras
アストラ王権軍、前線指令所。作戦卓の立体地図に、E-4区画の採掘航路が赤く表示されていた。
「編成は十六機。承認する」
上官の言葉に、若い作戦士官が顔を上げた。
「十六機、ですか。相手は採掘船団の護衛です。情報では、傭兵が——」
「一機だ」と上官は言った。「灰色の機体の傭兵が、一機」
「一機に、十六機は」
「過剰だと言いたいのか」上官は端末を士官に滑らせた。画面に報告書が表示される。脅威区分の欄と、備考の一行。《単独交戦禁止。継続観測対象》。「C-7では十二機が、五十八秒で全機無力化だ。情報局はこう判断している。だから十六で行く。数は多いほどいい」
士官は報告書を読み返した。観測不能。撃つ前から知られている。読み終えて、質問をやめた。
「編成、十六機。了解しました」
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「新しい依頼だ。お前に確認したいことがある」
ガルムが格納庫に来たのは、翌朝だった。依頼書を手に持っている。
「E-4区画の採掘船団護衛。報酬は標準額の二倍だ」
俺は手を止めた。報酬が跳ね上がるのは、依頼の難易度が跳ね上がるのと同義だ。
「前回の護衛部隊はどうなりましたか」
「全滅した」とガルムは煙草の煙を吐いた。「生還者ゼロ。王権の部隊によるものと推測されている」
「前回の護衛は何機でしたか」
「傭兵六機と、連邦正規軍のエース機二機。計八機だ」
「今回は」
ガルムは少し黙った。それだけで答えがわかった。
「お前一機だ」
シドの言葉を思い出した。ガルムは近いうちに判断する。お前を単独で使う方が、全員のためだと。その判断が、依頼書という形で目の前にあった。八機で全滅した戦場に、四機で行けば四機が死ぬ。俺一機なら、誰も俺に合わせて転ばない。合理だった。冷たくて、正しい合理だった。
「わかりました」
「断らないのか」
「断る理由がありません」
「八機がかかって全滅した相手だぞ」
「前回の八機は、俺じゃありません」
ガルムは長い間、俺を見た。それから煙草の火を消して、依頼書を机に置いた。
「一つだけ言っておく」
「はい」
「死ぬな」
それだけだった。それで十分だった。
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出発前、シドが格納庫に来た。
「聞いたぞ。E-4、単独か」
「そうなります」
シドはしばらく俺の機体を見ていた。それから言った。
「俺も行こうか」
「いいです」
「なぜだ」
「シドさんが行っても、足を引っ張ることになる」
言ってから、言い過ぎたと思った。だがシドは怒らなかった。少し考えて、頷いた。
「……そうかもしれないな」と静かな声で言った。「この前の戦闘で、俺は自分で確かめた。お前に合わせようとすると、俺が邪魔になる。それが事実だ。ただ」
「ただ」
「帰ってこい。ラーメンの次はカレーの約束がある。モスが張り切って店を探してる」
俺は少し笑った。
「帰ります」
「約束だぞ」
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E-4区画に入った瞬間から、空気が違った。
岩塊の配置が不自然だった。採掘の傷跡があるはずの宙域に、傷ひとつない岩が等間隔で並んでいる。誰かがここを、戦場として整えている。
「λ、周辺は」
「そく、てき、はん、い、ない、に、い、じょう、を、けん、ち、し、ました。がん、かい、の、はい、ち、が、じん、こう、てき、です。ねつ、げん、は——じゅう、ろっ、こ、です」
十六。λのアンテナが、俺の目より先に数を掴んだ。接近するにつれて、俺の目に色が届き始める。
電磁加速砲の青白が七つ。ビーム砲の橙が四つ。爆裂弾の赤が三つ。そして——見たことのない色が二つ。深い紫。ラムディマジナリーを一点に収束させて撃ち出す、波動収束型。威力はビーム砲の数倍、そのかわり充填が長く、充填中は動けない。固定砲台。つまり、狙撃だ。
護衛機を殺すための布陣じゃない。動けない採掘船を、確実に沈めるための布陣だった。
「λ、船団に通信。岩塊の陰に退避させろ」
「りょう、かい、です」
「行くぞ」
俺の中で、何かが一段、深く沈んだ。
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最初に動いたのは電磁加速砲の七機だった。V字陣形で牽制し、その裏で深い紫の二機が充填を始める。計画は理解した。理解した上で、俺は前衛を無視して、深い紫へ直行した。
「すい、しょう、こう、どう、と、こと、なり、ます」
「脅威の順番が違う。狙撃を先に潰す」
前衛の弾幕を、岩塊を縫って抜ける。七割充填で撃つ二機の射線を交差点ごと躱し、完全充填を待つ一機の正面に回り込んで、砲口に自機のライフルを突きつけた。
「撃てないだろ」
完全充填の砲口を塞がれれば、エネルギーは機体の内側へ逆流する。それを知っているパイロットは、撃てない。
『……放せ』
「深い紫の二機に通信を入れろ。充填をやめろと」
『なぜお前が、俺たちの布陣を——』
「入れろ」
沈黙。それから、通信が入った。深い紫の充填が、止まった。
そこから先は、消耗戦だった。散開した敵は岩塊の影に潜んで、俺を待ち伏せる形に切り替えた。教科書通りだ。一機を狙えば、別の影から背中を取られる。
ただし、俺には見えていた。
どの岩の陰に、誰がいるか。それだけじゃなかった。
一機ずつ、違って見えた。
充填の乱れた機体。シールドの薄い機体。同じ兵装、同じ機体、同じ訓練のはずなのに、纏う魔力波の質が全部違う。緊張の強いパイロットのシールドは細かく波打ち、恐怖に呑まれかけたパイロットの充填は途中で揺れる。冷静な機体だけが、静かな色をしていた。
機体のデータじゃない。その中にいる、人間が伝わってくる。
俺は薄い方から順番に処理した。シールドの波が一番荒い機体。充填が揺れている機体。恐怖が色になって漏れている機体から、順番に。
『こいつ——どこを見て——』
十五機目の推進器を破壊した時、最後の一機が後退をやめて、武装を切った。
『投降する』
「λ、連邦に通報。回収させろ」
「りょう、かい、です」
十六機、十七分。




