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λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


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第7話_端の席

――Koinonia(コイノニア)


「燈、それ何年前の缶詰だ」


向かいに座ったシドが、顎で俺の夕食を指した。


「賞味期限は五年前だ」


「食えるのか、それ」


「食えてる」


「すごいな」とシドは言った。表情は笑っていた。「俺が新人の頃は、期限切れの缶詰なんか喉を通らなかった。慣れるもんだな」


「シドさんも最初はそうだったんですか」


「当たり前だ。俺だって最初は怖かったよ、色々」とシドは自分の食事を口に運んだ。「最初の任務の前の夜なんか、飯が喉を通らなかった。今は怖くないかって言われたら、それも嘘だがな。怖さと上手く付き合えるようになった。それだけだ」


「どうやって」


シドは少し考えた。こういう問いに即答しない人だった。


「終わった後のことを考えるようにした。任務が終わったら何を食うか、どこに行くか。馬鹿みたいだろう。それが一番効いた」


「今日の任務が終わったら、何を食うんですか」


「宙港の端にある店のラーメン。醤油味で、チャーシューが分厚い」とシドはにやりとした。

「お前も来るか」


「考えておきます」


「考えるな、来い。奢ってやる」


隣のテーブルで、モスが勢いよく振り向いた。


「ラーメンですか。俺も行きます」


「お前は誘ってない」


「なんでですか」


「冗談だ」とシドは笑った。「全員で行くか。ジンの分も食ってやればいい」


一瞬、食堂が静かになった。端の席は空いたままだった。モスがそちらを見て、見なかったことにして、それから大きく頷いた。


「行きましょう。カレン先輩も」


「先輩って言うな」とカレンが言った。「行くけど」


カレンは自分の端末を一度だけ確認して、何も来ていない画面を伏せた。火星の実家からの返信は、まだない。誰もそれには触れなかった。触れないことが、この食堂の優しさの形だった。


---


出撃前の格納庫で、シドが俺の機体を見上げていた。


「随分と形になってきたな。墓場の拾い物とは思えん」


「λのフレームの出来がいいので」


「λ、な」とシドは頭部の小さなアンテナを眺めた。「その記号、どっかで見た気がするんだが、思い出せん。まあ、墓場で拾ったなら縁があったってことだろ。大事にしろよ」


「はい」


シドは少し声を落とした。


「あと、モスを頼む。戦場では新人が一番先に死ぬ。あいつは反応速度はいいが、判断が遅い。経験が足りない」


「わかりました」


「俺も気をつけるが、お前の目の方が俺より精度が高い。頼む」


笑いながら言ったが、目は笑っていなかった。ベテランの、真剣な目だった。


「λ」と俺はコックピットで言った。「聞いてたか」


「はい。も、す、の、き、たい、を、ゆう、せん、かん、し、たい、しょう、に、とう、ろく、し、ました」


「早いな」


「はい。あん、てな、の、せい、のう、が、りょう、こう、です」


---


D-2区画の採掘拠点は、建設途中だった。防衛設備はほぼない。守るものだけが、たくさんあった。


《灰狼》から四機。俺、シド、カレン、モス。ガルムは母艦で指揮を執る。


配置について三十分、何も起きなかった。


「燈さん、暇ですね」とモスが通信で言った。


「暇な方がいい」


「それはそうですけど」


「雑談してる暇があるなら索敵しろ」とシドが割り込んだ。「モス、お前は初任務で喋りすぎて射線を取られかけた」


「それは別の話ですよ」


「同じ話だ。口と耳は別々に動かせ」


「はーい」


拗ねた返事に、俺は少し笑いそうになった。その時だった。


「てき、せい、はん、のう、です。ほく、とう、よん、まん、めーとる。なな、き。しん、にゅう、けい、ろ、を、けい、さん、ちゅう、です」


λの声が、俺の知覚より先に来た。


四万メートル。俺の目でも、岩塊の向こうのその距離は見えない。魔力波の色は、遮蔽の向こうまでは読めないからだ。拡張された索敵網が、俺より先に敵を掴んだ。


「λ、お前が先に見つけたな」


「はい。……もん、だい、が、あり、ます、か」


「いや」と俺は言った。「いい仕事だ」


「き、ろく、し、ます」


総員に警報を流した。七機、接触まで九十秒。俺の目に彼らの色が見え始めたのは、その四十秒後だった。


電磁加速砲の青白が二つ。爆裂弾の赤が三つ。そして——右翼の二機。紫がかった赤。見たことのない色だった。火炎系に、何か別の魔法が混ざっている。起爆時に周囲のラムディマジナリーを吸い込んで、広域で弾薬の魔力波を乱す——特殊弾だ。


「シド、右翼の二機に絶対近づくな! あいつらの弾は周りの弾薬の魔力波を乱す。被弾圏に入れば、全員の武器が一時的に死ぬ!」


「なぜそれがわかる」とシドの驚いた声。


「見えるから! 右翼は俺がやる。他は頼む!」


七機が岩塊の影から一斉に出た。戦闘が始まった。


右翼の二機は連携が洗練されていた。一機が電磁加速砲で牽制し、近づかせない間に、もう一機が特殊弾の射線を取る。充填七割で撃つ癖が見えた。その七割の瞬間に合わせて岩塊の陰へ滑り込む。牽制の弾が岩を抉り、衝撃が一機目の弾倉に伝わって、特殊弾の魔力波がわずかに濁った。


今だ。距離を潰す。接近戦で特殊弾は使えない。自分が巻き込まれるからだ。


『この距離で——なぜ踏み込んで——』


一機目の推進器を撃つ。二機目が射線を取り直す前に、その背後へ回り込んで発射機を内側から潰した。


「λ、味方の状況は」


返事より先に、λの警告が来た。


「も、す、き、けん、です。さん、き、ほう、い。じゅう、てん、かん、りょう、まで、いち、びょう」


振り返った。モスが三機に囲まれていた。三角形の頂点、全方向から射線。充填完了まで一秒。


俺の位置から、二秒。


ジンの時は、三秒足りなかった。今度は——数えるより先に、口が動いていた。


「モス、今すぐ真上に全速! 一秒以内だ!」


「でも採掘拠点の真上は射線が——」


「動け! 今すぐ!」


モスが動いた。真上へ、全速。三機の照準が追う。照準修正には〇・五秒かかる。その〇・五秒の間に、俺は一番近い機体の推進器を撃ち抜いていた。三角形の一角が崩れ、残る二機の射線の交点がずれる。モスへの弾は、モスのいない場所を貫いた。


「助かりました!」モスの声は少し震えていた。


「礼はいい、離れてろ。拠点の真上で待機だ」


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