表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/10

第6話_アンテナ

男たちが消えた通路の先で、それは起きた。


「はん、のう、が、い、どう、し、て、い、ます。……てい、し。ろ、じ、うら、です」


路地裏。回収業者の老人が売上金ごと壁に押しつけられて、買ったはずの男たちがユニットの「出所」を吐かせようとしていた。


「どこの墓場だ?他に同じ品は?誰が回収した?」


買った品の出所を、買った後に力ずくで聞く。つまり最初から、品物ではなく出所が本命だ。


俺は路地に入った。


護衛の一人が振り向く。腰の得物に手が伸びる——その意思の色が、動きの半秒前に見えた。焦りの橙。抜く前の、重心の沈み。


——見られている、と男は思った。抜こうとした瞬間には、もう腕を取られていた。撃つ場所を、撃つ前から知られていた。


俺は一人目の腕の関節を極めて得物を床に滑らせ、二人目が抜く前にその手首を打った。得物が二つ、床で跳ねた。商人顔の男が後ずさる。恐怖の白が、仕立ての良い服の上に広がっていた。


「品物を置いていけ。金はあんたのものだ。取引は成立してる」


「……何者だ」


「傭兵だ」


男たちはユニットを置いて消えた。誰の骨も折っていない。折る必要が、見えなかった。


老人が床にへたり込んだまま、俺とユニットを見比べた。


「……持っていけ。命の礼だ」


「取引は取引だ」


俺は最初の言い値を、有り金から数えて台に置いた。財布はそれで空になった。老人は皺の中の目をしばらく俺に向けてから、ユニットを差し出した。


「妙な部品だぞ、それは。何十年も宇宙を漂ってたはずなのに——触ると、微かに温かい」


受け取った。


手袋越しでも、分かった気がした。ほのかに、温かい。機械の熱ではない、もっと別の温かさ。どこかで知っている気がして、どこで知ったのか、思い出せなかった。


---


ドックに戻って、λの指示でユニットを機体の頭部に接続した。


接続端子は、誂えたかのように合った。何十年前の部品が、寄せ集めの俺の機体に、最初からそこが定位置だったような顔で収まった。


起動音がして、ユニットが淡く光った。


「きょ、か、しょ、ゆう、しゃ、を、にん、しき、し、ました」


「……許可所有者?」


「せつ、ぞく、を、かい、し、し、ます」


λの声と重なるように、俺の視界の端で世界が広がった。正確には、λの世界が。


「そく、てき、はん、い——さん、ぜん、から、よん、まん、に、かく、ちょう、され、ました」


三千から、四万。


索敵範囲が十倍以上に跳ね上がった。回路の焼けた旧式の、明示された欠点が、ひとつ埋まった。


これはアンテナだ。λのための。


「λ。許可所有者の条件はなんだ」


沈黙があった。三秒。俺はもう、この三秒の意味を考え始めていた。


「……こう、もく、が、ひょう、じ、でき、ま、せ、ん」


「表示できない、か」


「はい」


説明できない、照合不可、表示できない。三度目だった。


---


帰路、拡張された索敵でλが空を読んだ。


「どう、けい、とう、の、ゆ、にっ、と、はん、のう。あら、た、に、ふた、つ、けん、しゅつ、し、ました」


「二つ」


「ひと、つ、は、しょう、わく、せい、たい、しん、ぶ。もう、ひと、つ、は——えん、きょ、り、です。か、せい、ほう、めん、です」


小惑星帯の深部と、火星方面。


誰かが宇宙のあちこちに、λのための部品を置いていった。そして、そのユニットは許可所有者にしか反応しない。


「誰かが、俺のために置いていったみたいだな」


冗談のつもりで言った。


λは、三秒黙った。


「……ふ、めい、です」


「そうか」


俺はそれ以上聞かなかった。聞いても、表示できないのだろう。


---


その夜、格納庫で、頭部に増えた小さなアンテナを眺めた。淡い青白の光が、呼吸のような周期で明滅している。


「λ」


「はい」


「お前は、怖いとか思うか」


いつもの質問だった。いつもの沈黙が来た。


「き、おく、に、がい、ねん、が、あり、ま、せ、ん。……ただ」


「ただ?」


「しつ、もん、の、い、と、を、けい、そく、ちゅう、です」


「意図?」


「ぱ、いろっと、は、おな、じ、しつ、もん、を、く、り、かえ、し、ます。り、ゆう、が、ふ、めい、です。けい、そく、を、けい、ぞく、し、ます」


俺は少し笑った。


「計測してろ。答えが出たら教えてくれ」


「りょう、かい、です」


照明を落とした。暗がりの中で、アンテナの青白い光だけが、静かに明滅を続けていた。


あの老人は、温かいと言った。何十年も宇宙を漂っていたはずの部品が。


俺はその温かさを、どこで知ったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ