第6話_アンテナ
男たちが消えた通路の先で、それは起きた。
「はん、のう、が、い、どう、し、て、い、ます。……てい、し。ろ、じ、うら、です」
路地裏。回収業者の老人が売上金ごと壁に押しつけられて、買ったはずの男たちがユニットの「出所」を吐かせようとしていた。
「どこの墓場だ?他に同じ品は?誰が回収した?」
買った品の出所を、買った後に力ずくで聞く。つまり最初から、品物ではなく出所が本命だ。
俺は路地に入った。
護衛の一人が振り向く。腰の得物に手が伸びる——その意思の色が、動きの半秒前に見えた。焦りの橙。抜く前の、重心の沈み。
——見られている、と男は思った。抜こうとした瞬間には、もう腕を取られていた。撃つ場所を、撃つ前から知られていた。
俺は一人目の腕の関節を極めて得物を床に滑らせ、二人目が抜く前にその手首を打った。得物が二つ、床で跳ねた。商人顔の男が後ずさる。恐怖の白が、仕立ての良い服の上に広がっていた。
「品物を置いていけ。金はあんたのものだ。取引は成立してる」
「……何者だ」
「傭兵だ」
男たちはユニットを置いて消えた。誰の骨も折っていない。折る必要が、見えなかった。
老人が床にへたり込んだまま、俺とユニットを見比べた。
「……持っていけ。命の礼だ」
「取引は取引だ」
俺は最初の言い値を、有り金から数えて台に置いた。財布はそれで空になった。老人は皺の中の目をしばらく俺に向けてから、ユニットを差し出した。
「妙な部品だぞ、それは。何十年も宇宙を漂ってたはずなのに——触ると、微かに温かい」
受け取った。
手袋越しでも、分かった気がした。ほのかに、温かい。機械の熱ではない、もっと別の温かさ。どこかで知っている気がして、どこで知ったのか、思い出せなかった。
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ドックに戻って、λの指示でユニットを機体の頭部に接続した。
接続端子は、誂えたかのように合った。何十年前の部品が、寄せ集めの俺の機体に、最初からそこが定位置だったような顔で収まった。
起動音がして、ユニットが淡く光った。
「きょ、か、しょ、ゆう、しゃ、を、にん、しき、し、ました」
「……許可所有者?」
「せつ、ぞく、を、かい、し、し、ます」
λの声と重なるように、俺の視界の端で世界が広がった。正確には、λの世界が。
「そく、てき、はん、い——さん、ぜん、から、よん、まん、に、かく、ちょう、され、ました」
三千から、四万。
索敵範囲が十倍以上に跳ね上がった。回路の焼けた旧式の、明示された欠点が、ひとつ埋まった。
これはアンテナだ。λのための。
「λ。許可所有者の条件はなんだ」
沈黙があった。三秒。俺はもう、この三秒の意味を考え始めていた。
「……こう、もく、が、ひょう、じ、でき、ま、せ、ん」
「表示できない、か」
「はい」
説明できない、照合不可、表示できない。三度目だった。
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帰路、拡張された索敵でλが空を読んだ。
「どう、けい、とう、の、ゆ、にっ、と、はん、のう。あら、た、に、ふた、つ、けん、しゅつ、し、ました」
「二つ」
「ひと、つ、は、しょう、わく、せい、たい、しん、ぶ。もう、ひと、つ、は——えん、きょ、り、です。か、せい、ほう、めん、です」
小惑星帯の深部と、火星方面。
誰かが宇宙のあちこちに、λのための部品を置いていった。そして、そのユニットは許可所有者にしか反応しない。
「誰かが、俺のために置いていったみたいだな」
冗談のつもりで言った。
λは、三秒黙った。
「……ふ、めい、です」
「そうか」
俺はそれ以上聞かなかった。聞いても、表示できないのだろう。
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その夜、格納庫で、頭部に増えた小さなアンテナを眺めた。淡い青白の光が、呼吸のような周期で明滅している。
「λ」
「はい」
「お前は、怖いとか思うか」
いつもの質問だった。いつもの沈黙が来た。
「き、おく、に、がい、ねん、が、あり、ま、せ、ん。……ただ」
「ただ?」
「しつ、もん、の、い、と、を、けい、そく、ちゅう、です」
「意図?」
「ぱ、いろっと、は、おな、じ、しつ、もん、を、く、り、かえ、し、ます。り、ゆう、が、ふ、めい、です。けい、そく、を、けい、ぞく、し、ます」
俺は少し笑った。
「計測してろ。答えが出たら教えてくれ」
「りょう、かい、です」
照明を落とした。暗がりの中で、アンテナの青白い光だけが、静かに明滅を続けていた。
あの老人は、温かいと言った。何十年も宇宙を漂っていたはずの部品が。
俺はその温かさを、どこで知ったのだろう。




