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λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


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第41話_四十九日

――第三章 木星遺跡編


――Exodos(エクソドス)


出航は、朝の六時と決まっていた。


軌道港の長い桟橋の先に、連邦の木星圏探査船団が並んでいた。探査母艦と護衛艦、補給艦——計七隻、乗員はおよそ千二百。俺たちは、その中の五人と四機だった。ガルム、シド、カレン、整備のクロム、そして俺。


《灰狼》の機体の搬入は、出航の前夜に終わっていた。シドの機体、カレンの機体、ガルムの機体は、探査母艦の第二格納庫。俺の機体だけが、第一格納庫だった。


第一格納庫は、艦の管理区画の正面にある。説明は「大型機の重量配分上の措置」だった。搬入の時に数えた。第一格納庫の監視カメラは八基。第二格納庫は三基。重量が理由なら、カメラの数まで変わる理由はない。


「見張られてるわね」と、搬入に立ち会ったカレンが言った。事務的な声だった。


「まあな」


「気にする?」


「しても、カメラは減らないだろ。……数だけ数えて、覚えておく」


「そう。じゃあ、数の続きを教えてあげる。この艦の連絡通路、第一格納庫の周りだけ、警備の巡回が一時間に二回。他の区画は四時間に一回よ」


「……よく数えたな」


「隣に置かれてるのは、ただの機体じゃなくて、うちのエースの機体だもの。数えるわよ」


搬入の立ち会いには、連邦の若い士官が付いた。丁寧な男だった。丁寧に挨拶をして、丁寧に書類を確認して、丁寧に、俺の機体の刻印を長く見た。視線の長さだけが、丁寧ではなかった。


ガルムは搬入の書類に判を押しながら、言った。


「契約書ってのはな、書いてあることより、書いてないことの方が効く。指名条項は書いてある。お前の機体を管理区画の正面に置くとは、どこにも書いてない。……書いてないことが、一番の契約条件だ」


「降りますか、この契約」


「降りん。書いてないことまで読んだ上で、割に合うと踏んだ。読み違えてたなら、その時に考える」


出航の朝、俺は展望区画から火星を見た。薄緑の大気の縁が、朝の側から光っていた。あの光のどこかに、カレンの丘がある。当分は前線から外れた丘。守れた色のまま置いてきた、白い構造物の連なり。


六時ちょうどに、船団は桟橋を離れた。加速は静かで、火星は数時間かけて、窓の中の円盤から、ただの明るい点になった。


千二百人の船で、傭兵は五人だった。廊下ですれ違う乗員の視線には、種類が三つあった。物珍しさと、警戒と、それから、値踏み。三つ目の視線は、決まって管理区画の側から来た。


「こうろを、ひょうじ、します」とλが言った。「かせいけんを、りだつご、しょうわくせいたいの、じょうぶを、つうか。もくせいけん、とうちゃくまで——よんじゅうきゅう、にち、です」


戦争のない航路計画を、λが読み上げるのを聞くのは、初めてだった。


四十九日。七週間。戦争から離れるには十分な長さで、答えに近づくには、まだ遠い長さだった。


---


十日目、ガルムが《灰狼》の全員を小会議室に集めた。情報網の更新だった。


「盤面を頭に入れておけ。木星を目指してるのは、俺たちだけじゃない」


一つ目。王権の観測船隊。並走する別軌道の先を、同じ方角へ進んでいる。観測船が三隻、護衛の戦闘艦が六隻。護衛部隊の識別符号の中に、第一精鋭隊の輸送艦の符号が確認されていた。


「観測船三隻に、戦闘艦六隻」と、シドが投影を眺めた。「比率が逆だ。観測のついでに戦争ができる編成だぞ、これは。……言った通りだろう。王権は、観測先で戦闘があると踏んでる」


距離は、最接近時でおよそ八十万キロと予測されていた。会敵の距離ではない。観測し合う距離だった。こちらから向こうが見えるということは、向こうからも、こちらの七隻が見えている。互いに見えていて、互いに手が届かない。届かないまま、同じ一点へ向かっている。


二つ目。教団の保護船群。航路管制の公開記録では、辺境コロニーの巡回医療の名目で発った船が、九隻。カレンが端末を繰って、九隻の現在位置を星図に重ねた。


「もう、木星圏の内側にいるわ。……私たちより、ずっと先」


九隻の医療船が、巡回と呼ぶには深すぎる軌道に散っていた。散り方を、目で追った。規則があった。目標座標を中心に置くと、九つの点は、遠巻きの円になった。


「偶然かしら」とカレンが言った。


「偶然なら、円にはならん」とガルムが言った。


もう一つ、妙なことがあった。九隻は、通信をほとんど発していなかった。医療船なら、巡回先のコロニーとの交信が絶えないはずだった。静かな医療船団。言葉に並べると、それだけで据わりが悪かった。


三つ目。連邦——俺たちの雇い主。探査計画の前倒しの皺寄せで、船団の中身は間に合わせだった。科学班の機材の三割は火星を出た後も梱包のままで、軍側の士官と科学側の主任が、日程を巡って毎日どこかで揉めていた。その日も通路で、揉め声を聞いた。「観測機材の校正には十日かかります」「着く前に済ませろ」。急いで出た船は、着く前から軋んでいた。


「うちの雇い主が、一番準備ができてないわけね」とカレンが言った。誰も、否定しなかった。


「医療船が一番乗りで、軍の観測船が二番で、探査の本隊が最後」とシドが言った。「……順番が、逆だろう。普通は」


「先に着く必要がある奴から、先に出た。それだけの話だ」とガルムは言った。「問題は——教団の連中が、何に先回りしてるつもりなのか、だ」


「俺たちの仕事は変わらん。船団を守って、着いたら現場を守る」と、ガルムは会議を締めた。「ただし、頭の隅に置いておけ。今度の現場じゃ——敵が誰なのかを、着くまで誰も知らん」


誰も、答えを持たなかった。持たないまま、盤面だけが見えていた。三つの勢力が、読めない記録の指す一点へ、それぞれの速度で進んでいる。一番速いのが、一番静かな船団だった。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。


続きが気になりましたら、ブックマークを。次回、迷わず戻れます。

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