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λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


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第3話_出撃

――Epiphaneia(エピファネイア)


出撃の朝、機体は別物になっていた。


左腕ブロックと胸部フレームは墓場で拾ったλの機体から移植した。装甲は元の《グレイ・ドッグ》のまま、中身の三割が王権の旧式という寄せ集めだ。クロムは「動くのが不思議なくらいだ」と言ったが、動いた。それどころか、関節の応答が前より速い。旧式のはずのフレームの方が、俺の機体より出来がよかった。


そして、コックピットの音声が変わった。


「き、どう、しー、けん、す、かん、りょう、です。かく、けい、とう、せい、じょう、です」


「λ、ひとつ聞いていいか」


「はい」


「三日前の夜、共鳴反応と言ったな。あれは何だ」


沈黙があった。自己修復に処理を食われている時の、いつもの間だと思った。


「で、ー、た、しょう、ごう、が、ふ、か、です。かい、ろ、そん、しょう、の、ため、せつ、めい、でき、ま、せ、ん」


「回路のせいか」


「……はい」


「そうか」


俺はそれ以上聞かなかった。直れば分かることだ。その時はそう思って、流した。


λの返事の前の沈黙が、いつもより半拍長かったことには、気づいていなかった。


ブリーフィングルームには五人いた。


ガルムが依頼書を机に投げる。


「ヘリオス連邦系の輸送船団護衛だ。小惑星帯C-7区画を抜ける。艦隊支援なし、うちから四機」


「艦隊はつけられないんですか」と俺は聞いた。


「予算がない。輸送任務に艦隊を割く余裕は、今の連邦にはない。だから俺たちに来る」とガルムは煙草を吹かした。「王権のエース機が出たら逃げろ。輸送船は見捨てる。それがこの依頼のラインだ」


割り切った言葉だった。傭兵の仕事とはそういうものだ。報酬は払われる。それで納得する。


「新入り、聞いたか。見捨てる時は見捨てる」とシドが言った。三十代半ば、《灰狼》で最古参のパイロットだ。左頬から顎にかけて古い傷跡がある。「先に決めておくんだ。迷う時間が一番人を殺す」


「はい」とモスが答えた。宇宙コロニー生まれの二十歳。うちで一番の新入りで、一番よく喋る。「でも見捨てたくないですね」


「見捨てたくないから先に決めるんだ」と言ったのはジンだった。


ジンは《灰狼》に来て五年になるベテランだ。無口で、食堂ではいつも端の席に座って静かに食べている。モスに機体の扱いをよく教えているのを見かける。一度だけ、故郷に恋人がいると話してくれたことがある。それ以上は聞いていない。


「ジンさんも見捨てたことあるんですか」とモスが聞いた。


「ある」とジンは言った。それだけだった。モスはそれ以上聞かなかった。


「出るぞ」とガルムが立ち上がった。「俺、シド、ジン、燈の四機。カレンとモスは母艦で待機だ」


C-7区画は、見慣れた戦場だった。


採掘権を巡る小競り合いが始まって三ヶ月。依頼人が変わっても、死ぬ奴が変わっても、宇宙の冷たさだけは変わらない。輸送船三隻を菱形に囲んで、俺たちは岩塊の間を進んだ。


「λ、周辺の熱源は」


「かん、し、ちゅう、です。ただし、せん、さー、はん、い、に、せい、げん、が、あり、ます。はん、けい、さん、ぜん、まで、です」


三千メートル。通常の索敵範囲の半分以下だ。回路の焼けた旧式は旧式か。


だが、俺には見えていた。


センサーより遠く、岩塊の影。微かに歪む空間の揺らぎ。潜んでいる機体が纏う魔力波の色が、岩の縁から滲むように漏れている。


十二機。


電磁加速砲の青白が四つ。腕部に内蔵して外装で隠している。ビーム砲の橙が三つ、腹部格納。爆裂弾の赤が五つ——うち三つが、隊列の後方に回り込んでいる。


外見はどれも標準的な量産機だ。センサーに映る熱源パターンまで偽装している。王権の准エース部隊のやり口だ。武器を特定させないことが優位を生む。普通の傭兵には、撃たれるまで分からない。


俺には最初から見えていた。そして、見えたから、分かってしまった。


後方の三機の爆裂弾が、充填を終えている。


射線の先を目で追った。光の筋が見えた。三本の軌道が収束する点に、ジンの機体がいた。


三秒後。


「総員散開! 後方から爆裂弾——ジン、上に——」


叫びながら、俺はもう機体を反転させていた。間に合わないと、叫ぶ前から分かっていた。三百メートル。俺の位置からジンまで、どう飛んでも二秒半。弾着まで、三秒はない。


それでも反転した。


オレンジ色の光が、視界の端で膨らんだ。


爆発が連鎖して、ジンの機体が光の中に消えた。直撃ではない。爆発の範囲に、巻き込まれた。


「なか、まの、き、たい、の、しょう、めつ、を、かく、にん、し、ました。せん、じゅつ、を、さい、こう、せい、し、ます」


λは淡々と告げた。死を、消滅と呼んだ。


俺は奥歯を噛んだ。怒りをぶつける相手は、まだ岩の影にいる。


ジンは五年生き延びたベテランだった。端の席で静かに飯を食う人だった。故郷に恋人がいた。見捨てたことがあると、今朝言った。その声を、俺は数時間前に聞いた。


三秒前に、見えていた。


「全機離脱!」とガルムの声が飛んだ。「輸送船は——」


「待ってください」


気づいたら、口から出ていた。


「燈、何を言ってる。十二機だ、准エース級の偽装部隊だぞ。艦隊支援なしじゃ——」


「一分ください」


「馬鹿野郎、一分あればこっちが——」


「一分で終わります」


通信の向こうでガルムが黙った。三秒の沈黙。


「……やってみろ」


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