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λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


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第24話_十四日ぶり

翌日、王権の侵攻が始まった。


警報は明け方に鳴った。防衛線の南翼。想定通りの薄い場所に、想定通りの圧力が来た。俺たちは火消しに投入された。


出撃は四機。俺が前衛、シドとカレンが二番手、ガルムが後詰め。南翼の防衛線では、連邦の正規部隊が既に王権の第一波と噛み合っていた。彼我の識別信号が空域に重なって、λの戦域図は光の点で埋まっていた。


「てきせいへんたい、だいには、きゅうき」とλが読み上げた。「へんたいこうぞう、せいきぐんの、ひょうじゅんじん、です」


南翼へ向かう航路には、第一波の残骸が既に漂っていた。連邦機のものも、王権機のものも。破片に残る魔力波の薄れ方で、撃たれてからの時間がわかる。どれも、まだ新しかった。


敵は王権の正規軍だった。統制が取れていて、無駄口がなく、動揺しない。識別信号すら切らない——偽装も欺瞞もなく、正面から国の名前で来る。名無しの部隊ともC-7の偽装部隊とも違う、戦争の本隊の顔だった。


九機の兵装の色を読む。電磁加速砲が四、ビームが三、爆裂弾が二。


「シド、カレン、右の三機を防衛線に近づけないでください。俺は中央を割ります」


「了解だ」


「りょーかい」


二人の応答が軽い。任せる部分と任せない部分の線引きが、もう共有できている。D-2の防衛戦で俺の機動に釣られて崩れた二人は、今は俺に合わせない戦い方を覚えていた。合わせないことが、連携だった。


中央の六機に正面から入る。三機、四機。撃墜。手は正確に動いた。感情は動かない。動かないことに、もう慣れ始めている自分がいた。


五機目が、隊列から離れた。


推進器の出力が落ち、機首が下がり、武装の魔力波が沈黙する。投降信号だった。全周波数に、降伏の符丁が流れた。


俺の指は、引き金にかかっていた。


射線は通っている。継ぎ目も見えている。撃てば、終わる。外す理由は——


見えるか。


一拍、指が止まった。


投降信号の向こうに、パイロットの色が見えた。恐怖の白。武装を切った機体の中で、ただ震えている、人間の色だった。


俺は照準を、ずらした。


推進器だけを撃った。機体が姿勢を崩して止まる。コックピットは、無傷だった。


手が覚えている軌道を、頭で押し曲げたような、不格好な一射だった。それでも、外した。


「……ひさしぶり、ですね」とλが言った。「いまの、うちかた」


「そうか」


「はい。じゅうよんにち、ぶり、です」


俺が外さなくなってからの日数を、λは数えていた。


残る三機は、投降機を見て後退に移った。深追いはしなかった。右翼ではシドとカレンが二機を止め、一機を取り逃がしていた。取り逃がした、と二人は報告したが、防衛線は破られていない。任務としては、それで満点だった。


戦闘は、二十分で終わった。撃墜が四機、無力化が五機。混ざった数字だった。綺麗な数字ではなかった。ただ、ゼロではない何かが、そこにあった。


格納庫で機体を降りると、シドが待っていた。


「見てたぞ。五機目」


「……はい」


「いい一射だった」とシドは言った。それだけ言って、自分の機体の整備に戻った。


いい一射。不格好で、ぎこちなくて、頭で押し曲げた一射を、シドはそう呼んだ。


格納庫の出口で、若い連邦のパイロットに呼び止められた。南翼で隣の空域を飛んでいた機体の乗り手だった。


「あんたが、例の……いや。助かった。それだけ、言いたくて」


敬礼とも会釈ともつかない動きをして、走って戻っていった。畏怖と感謝と、近寄りがたさの混ざった色をしていた。有名になるというのは、こういう距離のことなのだと思った。


---


夜、整備を終えて、俺は写真の前に立った。


空の椅子と、五枚の皿と、戦争を知らない顔。今日も、λに質問はしなかった。まだ、聞けない。聞けば、答えの中にモスの名前が出る。それを受け止める場所が、俺の中にまだ組み上がっていない。


代わりに、別のことを頼んだ。


「λ。今日の五機目の記録を、別の場所に置いてくれ」


「べつの、ばしょ」


「お前が、カレーの写真を置いている場所だ」


λは、少し黙った。


「……りかい、しました。ほぞん、します。きょうの、いっしゃは、わたしも、きろくして、おきたかった、です」


「お前もか」


「はい。じゅうよんにち、かん、わたしは、あなたの、しゃげきを、まいかい、きろく、していました。きょう、はじめて、ほぞんさきに、まよわない、きろくが、とれました」


保存先に迷わない記録。λの言い方は時々、人間の言い方より正確に痛いところを突く。


端末が鳴ったのは、その時だった。


基地の自動配信だった。火星北半球、居住区画の再編通知。避難勧告区域の一覧が、地図の上に赤く塗られていた。


その赤の中に、カレンの実家の区画があった。


カレンはもう自室に戻っている時間だった。この赤を、あいつは明日の朝に知る。


——いや。


俺は通知をガルムに転送した。ガルムの口から伝われば、カレンは一人で画面の赤を見なくて済む。それくらいしか、思いつかなかった。


俺は通知の画面を閉じて、閉じてから、もう一度開いた。閉じても、赤は消えなかった。



---


---



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークを。次回、迷わず戻れます。

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