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λ:ASTRA 〜星の共鳴者〜  作者: Pemo


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2/10

第1話_墓場

――墓場のArche


戦場に残されたものは、大抵二種類だ。死体か、使えるものか。


小惑星帯の外縁、採掘権争いで三ヶ月前に放棄された宙域を、傭兵は「墓場」と呼ぶ。砕けた機体の残骸が、岩塊の間を音もなく漂っている。正式な回収業者が来るまでの間、ここは誰のものでもない。つまり、先に拾った者のものだ。


俺が今ここにいる理由は単純で、金がないからだった。


三日前の護衛任務で、機体の左腕ブロックと推進系の三割を失った。修理費は報酬の倍を超える。傭兵団《灰狼》のリーダー、ガルムは煙草を唇の端に挟んだまま言った。


「自分でなんとかしろ。ここは慈善団体じゃない」


理屈としては正しい。無茶をしたのは俺だ。だから俺は今、一人で墓場を漁っている。


作業は静かだ。話し相手はいない。聞こえるのは自分の呼吸と、機体が岩塊を避ける時の推進器の音だけ。この静けさは嫌いじゃなかった。戦場の静けさとは違う。ここではもう、誰も死なない。全員、死に終わっている。


残骸の間を進みながら、俺は部品を選り分けていく。


見ればわかる。どの部品が死んでいて、どの部品が生きているか。


ラムディマジナリー——宇宙に満ちていて、人の意思に反応する、何か。学者は波であり粒子であると言い、アストラ王権の貴族は魔力と呼び、ヘリオス連邦の技術者は資源と呼ぶ。呼び方はどうでもいい。俺たち現場の人間は、機械や弾薬の中を流れるそれを「魔力波」と呼ぶ。


俺には、その色が見える。


物心ついた時から見えていた。だから、これが普通ではないと知ったのは、ずっと後のことだ。


爆発で吹き飛んだ推進器の破片が、岩塊に引っかかっている。表面は焼け焦げてひどい有様だが、中を流れる魔力波は薄い青を保っていた。生きている。回収する。


少し先に、センサーユニットがひとつ、原形を保ったまま浮いていた。外装は無傷。焼けてもいない。センサーで診断すれば「損傷なし」と出るだろう。普通の傭兵なら迷わず回収する。


俺は素通りした。


中の魔力波が濁っている。近くで大きな爆発があったのだろう。内部に込められたラムディマジナリーの位相が崩れて、灰色に淀んでいた。ああなった部品は、見た目がどれだけ綺麗でも二度と動かない。持ち帰れば無駄な重量を積むだけだ。


俺はそういう間違いをしない。見えるから。


一時間かけて、使える部品を袋二つ分集めた。推進系の応急処置には足りる。問題は左腕のフレームだ。同型か、せめて近い規格のフレームがなければ、腕は戻らない。


そして、見つけた。


大きな岩塊の陰に、それはいた。


アストラ王権の標準型LIM Frame。型番はかなり古い。だがフレームは原形を保っていた。爆発の直撃を受けていない。装甲の損傷は表面だけだ。コックピットを確認する。ハッチを開けると、シートは空だった。脱出済みか。運がいい。


フレームだけでも十分な収穫だった。曳航の準備を始めようとして——手が止まった。


機体から、魔力波が出ていた。


残骸の魔力波じゃない。生きている機械の脈動だ。電力はほとんど底をついている。それでも、胸部の奥で何かが、微かに、規則正しく脈打っていた。


そして、色がおかしかった。


軍用AIの魔力波は灰色と決まっている。王権のも、連邦のも、うちの機体のも、全部そうだ。感情のない機械の色だ。


これは、青みがかった白だった。


死に絶えた戦場で、そこだけが淡く発光しているように見えた。俺は残骸の間で一機だけ生きているそいつを、しばらく黙って見ていた。


機体に近づいて、装甲の表面を確かめる。製造番号。製造年。王権の標準的な刻印。その番号の下に、小さな記号が刻まれていた。


[ λ ]


フレームの継ぎ目にも。コアユニットの裏側にも。同じ記号が、あちこちに刻まれている。標準的な軍用機に、こんな刻印はない。


見覚えがあった。


孤児院を出る時、院長が一枚の写真をくれた。おまえの父親の遺品だと言って。写真は半分焼けていて、親父の顔は読めない。傭兵だったらしい、ということ以外、院長も何も知らなかった。ただ、親父の後ろに写っていた機体——その肩に刻まれた記号だけが、焼け残って鮮明だった。


λ...........同じ記号だ。


まだ繋がりは見えない。でも、何かがある気がした。根拠はない。ただ、そう感じた。


俺は自分の機体から接続ケーブルを引き出した。電力を分けてやる。理由は自分でもよくわからなかった。フレームが目的なら、AIユニットなんて放っておけばいい。


ケーブルが繋がって数秒、スピーカーからノイズ混じりの音が漏れた。


「…………き、……………………どう、…………」


聞き取れない。電力の供給量を上げる。ノイズが少し晴れた。


「……かん、し、き、もーど、き、どう、ちゅう、です」


「……です?」


「ぱ、いろっと、にん、しき、でき、ま、せ、ん。さい、き、どう、が、ひつ、よう、です」


俺は思わず、少しだけ笑った。


死にかけのくせに、丁寧なやつだった。


「再起動には何が要る」


「あん、てい、した、でん、りょく、きょう、きゅう、が、ひつ、よう、です。じ、こ、しゅう、ふく、きのう、を、じっ、こう、し、ます」


「時間はかかるのか」


「ふ、めい、です。かい、ろ、の、そん、しょう、はん、い、を、けい、そく、でき、ま、せ、ん」


「そうか」


わからないことを、わからないと言う機械だった。誇張も、ごまかしもない。少し、好感を持った。


俺は機体ごと曳航することに決めた。


フレームの状態がいい。それだけで十分な理由になる。そう自分に言い聞かせた。AIユニットはおまけだ。その時は、まだそう思っていた。


——その時は、まだ。


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