第14話_星と灯り
無力化した敵の一機を連邦が回収したが、パイロットは何も喋らなかった。記録もない。認識票もない。機体の製造番号は潰されていた。
「所属を消した機体、か」と、報告を聞いたガルムが通信の向こうで言った。低い声だった。「停戦中に、連邦の政治家の船を、名無しが沈めに来る。……きな臭くなってきたな」
「誰の得になるんですか、これは」
「戦争をもう一度始めたい奴の得だ」とガルムは言った。「そういう奴は、どっちの側にもいる」
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医務室に呼ばれたのは、二時間後だった。
ベッドの上の彼女は、上体を起こしていた。年の頃は俺と同じくらい。減圧障害の治療痕が首筋に残っていたが、顔色はもう戻り始めている。そして、瀕死から二時間の人間とは思えないほど、落ち着いていた。
あの静かな色が、間近にあった。灯は、もう細くなかった。
「助けてくれたのは、あなたね」
「依頼通りです」
「そう。依頼通り」と彼女は少し笑った。「ポッドの小窓から、外が見えていたの。弾の中で、機体が盾になるのが。……装甲、ずいぶん食われたでしょう。依頼通りの範囲かしら、あれ」
観察している。瀕死のポッドの中から、この人は俺の戦い方を見ていた。
「修理費は報酬に含まれます」
「そう」と彼女はまた笑った。それから、少しだけ首を傾げて、俺を見た。
「ひとつ、聞いていいかしら。あなた、視えているのね」
「……何がですか」
「私を拾う前から、私がどこにいるか知っていた。船のどの区画が破損したかより先に、どのポッドを守るべきかを決めていた。随伴機の記録を見せてもらったの。あなたの機動は、ポッドが射出される前から、あの区画に寄っていた」
正確だった。恐ろしく正確な観察だった。俺は答えを探して、見つける前に、彼女が続けた。
「答えなくていいわ。詮索する趣味はないの。ただ——」
彼女は少しだけ言葉を選んだ。選んでから、静かに言った。
「深くまで潜っては、だめよ」
「……どういう意味ですか」
「わからない」と彼女は正直に言った。「祖母から聞いた、家の古い言い伝えなの。視える者は、深くまで潜ってはいけない。意味は、私も全部は知らない。ずっと、ただの迷信だと思っていた。でも——あなたを見ていたら、なぜか思い出したの」
静かで、古い色が、静かに俺を見ていた。
「覚えておきます」
「ええ、覚えておいて」と彼女は言った。「命の恩人に返せるものが、古い言い伝えひとつしかなくて、ごめんなさいね」
「十分です」
なぜそう答えたのか、自分でも分からなかった。ただ、十分な気がした。
「名前を聞いてもいいかしら」
「燈です」
「トウ。……どんな字」
「灯りの、燈です」
「いい名前ね」と彼女は言った。「私はステラ。古い言葉で、星という意味よ。——星と灯り。似た者同士かしら」
「どうでしょうか」
「そういうところは素っ気ないのね」とステラは笑った。
退出間際、視察団の代表——彼女の祖父だという白髪の政治家が、廊下で深く頭を下げた。孫娘の命の礼と、正式な謝礼の申し出。俺は依頼の範囲だと答えた。祖父は俺の顔をしばらく見て、「連邦は、あなたの名前を覚えておきます」と言った。
それが良いことなのか、俺にはまだ分からなかった。
別れ際、医務室の戸口で、ステラが言った。
「また会う気がするわ」
「なぜですか」
「勘よ」と彼女は言った。「私の勘は、当たるの」
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帰投の航路で、λが口を開いた。
「ほう、こく、が、あり、ます」
「なんだ」
「せん、とう、ごと、の、せい、たい、ふ、か、を、じ、けい、れつ、で、かい、せき、し、ました。……ぞう、か、けい、こう、です。かい、ふく、まえ、に、つぎ、の、せん、とう、が、はい、る、と、ふ、か、は、るい、せき、し、ます」
「累積するとどうなる」
「でー、た、が、あり、ま、せ、ん。……です、が、よく、ない、と、おも、い、ます」
思います。λがまた、新しい言い方をした。俺は指摘せず、了解とだけ返した。
深くまで潜っては、だめよ。
ステラの言葉が、λの警告の隣に、静かに並んだ。
その時、端末が鳴った。モスからだった。
『燈さん! 店、確定しました! 商業区の外れ、地球出身のオーナー、本物のスパイス、間違いないです! 次の休み、全員で行きますからね!』
通信の向こうの声が、宙港中に聞こえそうなくらい弾んでいた。
俺は少し笑って、返信を打った。
——約束だ。
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