第13話_名無しの部隊
——Aster
どこかの、名前のない整備場。
八機のLIM Frameの周りで、兵たちが作業をしていた。部隊章を外す。機体の記章を削る。製造番号の刻印を潰す。認識票を回収箱に落とす。手慣れた作業だった。初めてではない者の手つきだった。
「確認する」と指揮官が言った。「今日から我々は、どこの誰でもない。所属はなく、記録はなく、帰る場所の名前もない」
誰も返事をしなかった。返事をする所属が、もうなかった。
「標的は連邦の視察船一隻。生存者の有無は問わない」
作業の音だけが続いた。回収箱の中で、認識票が音を立てて重なった。
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「連邦軍部から、名指しの依頼だ」
ガルムが依頼書を寄越した。要人護衛。連邦の視察団が小惑星帯の採掘拠点を回る、その船の護衛だった。乗員リストは非公開。「政治家一族が乗る」とだけ書いてある。
「E-4とF-9の実績を買われたな」とガルムは言った。「言っておくが、名指しってのは、いいことばかりじゃない。便利に使われ始めたってことでもある。断れない依頼が増えて、断れない相手が増える。気をつけろ」
「はい」
「報酬は良い。護衛対象から離れるな。以上だ」
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視察船は白く、大きく、戦場に不釣り合いなほど綺麗だった。
合流して並走に入る。護衛は俺一機と、連邦正規軍の随伴が二機。俺は後方上位置についた。
「λ、船内の生体反応は」
「よん、じゅう、なな、めい、です。い、じょう、は、あり、ま、せ、ん」
四十七の生体の魔力波が、船体越しに淡く見えた。人の色は機体ほどはっきりしない。緊張、退屈、眠気。視察団の色は平和だった。
その中に、ひとつだけ、違う色があった。
金じゃない。青白でもない。灰色でもない。静かで——古い色だった。強いのに、少しも主張しない。灯りを絞ったランプみたいに、静かに、そこにある。
見たことのない色だった。
「λ。船内中央部、生体反応にひとつ、他と違うのがいる」
「けん、しゅつ、でき、ま、せ、ん。すべ、て、じん、るい、の、はん、のう、です」
λのセンサーには映らない。俺の目にだけ、その色は見えていた。誰なのかを確かめる方法はない。俺は位置だけ覚えて、護衛に集中した。
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襲撃は、航路の中間点で来た。
「てき、せい、はん、のう。はち、き。……しょ、ぞく、しき、べつ、ふ、か、です」
八機。岩塊の影から展開してくる機影に、記章がなかった。
兵装の色を読む。電磁加速砲が三つ、爆裂弾が三つ、ビームが二つ——どれも軍の制式の色じゃない。市場に流れている民生流用品の、ばらばらの色だ。機体も混成。中古の寄せ集め。書類の上では、海賊にしか見えない構成だった。
だが、動きが違った。
散開の間隔が正確だった。射線の分担に無駄がなかった。海賊は群れで動く。こいつらは編隊で動いていた。
「装備は民間、練度は正規軍。……所属を消してきてるな」
『傭兵機、状況を報告せよ』と随伴機から通信。
「敵性八機。所属不明——というより、所属を消した部隊だ。視察船を最優先で下げろ。俺が前に出る」
停戦中の宙域で、連邦の政治家の船を、名無しの部隊が沈めに来る。沈めば、誰の仕業でもない事故になる。あるいは、誰かのせいに、できる。
考えるのは後だ。俺の中で、何かが一段、深く沈んだ。
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前衛の三機を四十秒で無力化した時、後衛が狙いを変えた。
俺じゃない。視察船だった。
爆裂弾の三機が、俺を無視して船へ直行する。護衛と撃ち合うつもりが最初からない。損害を無視して、船だけを取りに来る動き。生存者の有無は問わない、という動きだった。
随伴の二機が割って入って、一機が中破した。視察船の側面に至近爆発。装甲は保ったが、衝撃で船体が揺れ、区画のどこかが破損した——
そして、脱出ポッドが一つ、船から零れた。
誤射出だ。破損の衝撃で射出機構が作動したらしい。ポッドは推進を持たないまま、ゆっくりと回転しながら漂流を始めた。その軌道の先を、俺は反射的に読んだ。
交戦域のど真ん中。三十秒後、流れ弾の交差点。
そして、ポッドの中の色が見えた。
あの色だった。静かで、古い色。それが——弱っていた。減圧か、負傷か。灯りを絞ったランプの、その灯が、揺れて細くなっていく。
「λ、ポッドの軌道と全射線の交差予測」
「けい、さん、ずみ、です。……かい、ひ、ふ、か、です。ポッド、じ、しん、に、すい、しん、が、あり、ま、せ、ん」
ポッドは避けられない。なら、弾の方を止めるか、盾を置くか。
俺は盾を選んだ。
機体をポッドと射線の間に滑り込ませる。最初の流れ弾が右肩装甲を削った。衝撃で視界が揺れる。二発目、背部。三発目は撃った奴の砲口を先に潰して止めた。ポッドを左腕で抱え込む。墓場で拾った、λのフレームの左腕で。
『護衛機が——ポッドを庇いながら戦ってる? 馬鹿な、あの位置は的だぞ』
的でいい。的の位置が、一番早い。
抱えたまま、残る三機と撃ち合った。機動は半分死んでいる。読める射線だけを最小の動きで外し、外せない分は装甲で受けた。警告灯が三つ点いた。四つ目が点く前に、最後の一機の推進器を撃ち抜いた。
残敵、撤退。深追いはしなかった。腕の中の灯が、まだ細いままだった。
「λ、ポッド内の生体は」
「じゃっ、か、して、い、ます。てい、たい、おん、と、げん、あつ、しょう、じょう、です。いそ、いで、くだ、さい」
視察船の医療区画へ、最短で飛んだ。




