第12話_化け物 (改稿済み)
気になる箇所に修正を入れました。
ご不便おかけしますが何卒よろしくお願い申し上げます。
最初に動いたのは電磁加速砲の六機だった。
一斉に段階充填が始まる。青白から蒼白へ。六機の充填速度は綺麗に揃っていた。全機同時に白銀へ到達し、同時に撃つ——回避方向を計算で塞ぐ、教科書の完成形。
六機が白銀になるまで、あと四秒。
俺はその四秒で、六本の射線が全部外れる一点に機体を置いた。
白銀。六機、同時発射。弾は全部、俺のいない場所を通った。
『全弾——回避された? 同時発射のタイミングが、外から見えるはずが——』
「白銀になったら撃つだろ。見えてる」
答える必要はなかったが、答えた。動揺は連鎖する。それも武器のうちだ。
ビーム砲の五機が散開する。岩が使えない以上、隠れる意味はない。だから正面から行った。照射中のビーム砲は向きを変えられない。照射の縁を回転しながら抜けて、一機目の砲身を掴んで捻じる。逸れた照射が二機目の射線を塞いだ。三機目の背後。四機目の横。五機目は充填の途中で砲身に銃口を突っ込んだ。
エース級が動いた。
四機。金色が近づいてくる。連携ではない。一機一機が、自分の判断で最善を選んで動いている。個の力が高い者たちの戦い方だ。
そして、見えた。
四つの金色は、同じ金色じゃなかった。
一機目には動揺の黄が混じっている。さっきの六機の全弾回避を見てから、光が細かく震えていた。二機目は焦りの橙。早く終わらせたいと思っている。三機目は怒りの赤。感情で加速している。四機目——静かな青。こいつが一番危ない。
俺は三機目から行った。怒っている人間は速い。速いが、まっすぐだ。
シールドを全開にして正面から来た三機目の、その膜の揺らぎを見る。怒りの波が、そのままシールドの波になっていた。感情の波形の、谷。そこを抜けた。
『シールドを、単機で——』
至近距離でセンサー系だけを撃つ。三機目、戦闘継続不能。
四機目の青が、正確に俺の背後を取りに来る。読みにくい色だ。感情が凪いでいる分、意思の輪郭が薄い。だから動きで読む。回り込みの軌道の先に、先に着いた。
『……先読みか。俺自身も分からなかった軌道を——』
四機目の推進器を破壊した。残る二機は、動揺と焦りが互いの連携を半拍ずらしていた。そのずれの隙間を通って、一機ずつ止めた。
金色の四機、全機無力化。
そして最後の一機は——最初から、動いていなかった。
---
指揮官機は、戦域の外縁に静止したまま、全部を見ていた。
藍色だった。
金色の共鳴光の芯に、深い藍。冷静で、計算的で、戦闘の間、一度も揺れなかった。部下が四機落とされるのを見ながら、微動だにしなかった色。
『名を聞こう』と声が言った。
「燈だ」
『燈』と声は繰り返した。『私はアステリア。第一精鋭隊隊長だ』
隊長。この静かな機体が、二十機の頂点だった。
『一つ、確認したい』とアステリアは言った。『お前は私の部下の意思を読んでいた。感情の色を見て、崩れる順に落とした。——私の意思は、読めたか』
「藍色だった」と俺は言った。「冷静で、計算的で、一度も揺れなかった」
短い沈黙があった。
『正確だ』
その声に、初めてわずかな何かが乗った。恐怖ではなかった。むしろ、計測結果が予測と一致した時の、研究者の静かな満足に近かった。
『E-4の報告書に、死者ゼロとあった。今日も、お前は誰も殺していない。二十機を落として、一人も』
「殺す必要が見えなかった」
『必要が、見えなかった』とアステリアは俺の言葉を正確に繰り返した。『……そうか。それが、お前か』
機体が後退を始めた。撤退だ。俺は追わなかった。
『今日の結果は上に報告する。お前は王権全体の標的になる。逃げる気は』
「ない」
『化け物め』
声は、罵倒の形をしていなかった。何かを認めて、名前をつけた声だった。
通信が切れる直前、アステリアの藍が、一瞬だけ揺れた。藍の奥に、金色がひとつ、火花のように走って、消えた。
『次に会う時は、今日より正確に測りに来る。——用意しておけ』
---
帰路、λが照合結果を報告した。
「アステリア・ヴァンス。おう、けん、だい、いち、せい、えい、たい、たい、ちょう。おう、けん、さい、じょう、い、の、きょう、めい、しゃ、の、ひと、り、です」
「強いのか」
「きょう、の、せん、とう、でー、た、から、すい、てい、し、ました。……あなた、とは、まだ、さ、が、あり、ます」
「差? どっちにだ」
「……アステリア、が、した、です」
王権最上位の一人が、下。俺は自分の手のひらを見た。震えていない。ただ、体は重い。手すりの分だけ、今日も請求書は届いている。
「λ」
「はい」
「今日、初めて『化け物』と呼ばれた」
「き、ろく、して、い、ます」
「どう思う」
長い沈黙があった。自己修復の処理落ちではない沈黙だと、もう俺には分かるようになっていた。
「おも、う、と、いう、しょ、り、は、まだ、かん、ぜん、では、あり、ま、せ、ん。ただ」
「ただ」
「ぱ、いろっと、が、ばけ、もの、でも、わたし、は、ぱ、いろっと、と、とも、に、たたか、い、つづけ、ます。それ、は、かわ、り、ま、せ、ん」
わたし。
λが初めて、自分をそう呼んだ。式番でも、本機でもなく。
俺は少し笑って、それを指摘しなかった。指摘したら、消えてしまう気がした。
「そうか」
「はい」
格納庫が近づく。端末にガルムからの通信が入った。
『燈。戻ったら話がある。連邦から指名の依頼だ。——今度は、要人護衛だそうだ』
---
---




