神隠しの謎④
「……あったでござる!」
健三の声が部屋に響いた。
パソコンの前に座っていた健三は、画面を食い入るように見つめている。
「何か見つかったのか?」
俺が尋ねると、健三は椅子を少し回転させ、こちらを振り返った。
「100年前にも、同じ地域で子供が失踪した記録が見つかったでござる!」
「100年前だって?」
思わず京子と顔を見合わせた。
「それ、本当なの?」
京子が身を乗り出す。
「間違いないでござる。古い新聞記事を探していたら、地域の資料をまとめた記録にたどり着いたのでござるよ」
健三は画面を操作し、見つけた資料を表示した。
俺たちはソファから画面を確認する。
そこには、今から約100年前に起きた失踪事件について記されていた。
失踪したのは、14歳の女学生。
当時の高等女学校に通っていた少女だった。
彼女は学校からの帰宅途中に姿を消したという。
家族が帰宅しないことを不審に思い、周囲を探したが見つからず、警察や地域住民による捜索も行われた。
しかし、少女の行方は分からないまま、事件は未解決となっていた。
「100年前にも、こんな事件があったんだ……」
京子は画面を見つめながら、小さくつぶやいた。
「しかも、帰宅途中に失踪しているでござる」
健三が続けた。
「50年前の事件と同じだな」
俺は以前見つけた新聞記事を思い出した。
50年前に失踪したのは、小学四年生の男の子だった。
その子も学校からの帰宅途中に姿を消している。
そして現在、再び同じ地域で小学生が失踪した。
「ちょっと待って。これって……」
京子がテーブルの上に置かれた資料を並べ始めた。
100年前の女学生。
50年前の小学生。
そして、現在の小学生。
「発生した時期を並べると、ほぼ50年ごとになるんだよね?」
「そういうことになるでござるな」
健三がうなずいた。
俺も資料を見比べた。
100年前、50年前、そして現在。
偶然にしては、あまりにも奇妙な一致だった。
「でも、どうして50年なんだろう?」
京子が首をかしげた。
「どうして同じ地域で、こんな事件が繰り返されるの?」
「うーん……。今の資料だけでは、何とも言えないでござる」
健三は腕を組んだ。
「失踪した子供たちの年齢も性別も違う。共通しているのは、同じ地域で帰宅途中に姿を消したという点くらいでござるな」
「それだけでも十分不気味だけどな……」
俺は資料に目を落とした。
そのとき、京子がノートを手に取り、これまでに分かったことを書き始めた。
100年前の事件。
50年前の事件。
現在の事件。
発生時期や失踪した人物、状況などを整理しているようだった。
京子はペンを走らせながら、何度も資料を確認している。
その真剣な横顔を見ていると、俺はいつの間にか彼女に見入っていた。
普段の明るい表情とは違い、考え込むような顔もなかなか魅力的だ。
そんなことを考えていた、そのときだった。
「知也さん?」
耳元で佳苗の声がした。
「えっ?」
振り向いた瞬間、佳苗の指が俺の頬をつねった。
「いひゃい、いひゃい! 何するんだよ!」
「ふふっ。知也さん、さっきから何をそんなに真剣に見ていたのかな?」
佳苗は笑顔だった。
けれど、指には少し力がこもっている。
「いや、別に! 京子が真剣に調べているなと思って……」
「そうなんですね?」
ようやく指を離してくれた佳苗は、にっこりと微笑んだ。
俺はつねられた頬をさすった。
どうやら、余計なところまで見ていたらしい。
京子はノートに集中していて、こちらのやり取りには気づいていないようだった。
「ところで、健三さん」
佳苗が健三の方に目を向けた。
「そのリュックサックに付いているキーホルダー、可愛いですね!」
「おおっ! 気づいてくださったでござるか!」
健三は嬉しそうに、自分のリュックサックに付いているキーホルダーを手に取った。
そこには、魔女の衣装を着た女の子のキャラクターが付いていた。
「魔女っ子ルルリでござる! 某の大のお気に入りでござるよ!」
「魔女っ子ルルリっていうんですね。衣装も可愛いし、表情も素敵ですね」
「おお! 佳苗殿、分かってくださるでござるか! ルルリの魅力は見た目だけではないのでござる!」
健三は身を乗り出し、ルルリの魅力について熱く語り始めた。
「そして何より、ルルリは某の嫁でござる!」
「健三さん、それはないかな」
佳苗は笑顔のまま、少しだけ身体を引いた。
俺はその様子を見ていた。
どうやら、健三の愛情表現は佳苗には少々強烈だったらしい。
「な、なぜでござるか!? ルルリの魅力が分からぬとは!」
「いえ、可愛いキャラクターだとは思いますよ。うん……」
佳苗はそう言いながら、そっと視線をキーホルダーから外した。
俺は思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を押さえた。
健三はそんな佳苗の反応にも気づかず、ルルリの魅力を語り続けている。
なんとも平和な光景だった。
しかし、テーブルの上に並べられた資料に目を戻すと、再びあの奇妙な数字が頭に浮かんできた。
100年。
50年。
そして現在。
「ねえ、みんな」
京子がノートを閉じた。
「今のところ、三つの事件に共通するのは、同じ地域で帰宅途中に失踪していること。それから、ほぼ50年の間隔で起きていることだよね」
「そうでござるな」
「でも、どうして50年ごとなのかは分からない。そもそも、本当に三つの事件がつながっているのかも、まだ確証はないよね」
京子の言葉に、俺たちは黙ってうなずいた。
「もう少し調べたいけど、これ以上は今ある資料だけでは難しそうだね」
「確かに。古い記録も限られているでござるからな」
健三も納得したようにうなずいた。
俺は改めて三つの事件を振り返った。
100年前に失踪した女学生。
50年前に失踪した小学生。
そして、現在失踪している小学生。
本当に偶然なのだろうか。
それとも、俺たちがまだ知らない何かが、この地域には隠されているのだろうか。
「とりあえず、今回の調査はここまでにしようか」
京子がそう提案した。
「そうだな。今はこれ以上、無理に答えを出そうとしても仕方ない」
俺はそう答えた。
神隠しの謎は、まだ解けていない。
失踪した子供たちがどこへ行ったのか。
なぜ同じ地域で事件が繰り返されるのか。
そして、50年という間隔には何か意味があるのか。
分からないことばかりだった。
ただ、一つだけ確かなことがある。
この奇妙な出来事を、単なる偶然として片づけることはできない。
俺はテーブルの上の資料を見つめながら、そんなことを考えていた。
その後、俺たちは資料を整理し、今回の調査をいったん終えることにした。
神隠しの謎は、まだ俺たちの前に残されたままだ。
だが、今は少し頭を切り替えてもいいだろう。
みんなで食事にでも行こう。
そんな話が持ち上がったのは、それから間もなくのことだった。
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