久しぶりの再会
「それにしても、知也。神隠しの調査にはずいぶん熱心だったね」
京子がニヤリと笑いながら、俺の顔を覗き込んできた。
「えっ? そ、そうか?」
「だって、最初は異世界に行くための手掛かりを探すのが目的だったでしょ? いつの間にか、神隠しの謎そのものに夢中になっていたじゃない」
「そ、そんなことはないぞ!」
俺は慌てて否定した。
「本当に?」
京子は疑わしそうな目で俺を見る。
「もちろんだ! 俺の目的は、あくまでも異世界転移だからな!」
そう答えたものの、実際に神隠しの謎に興味を惹かれていたのは事実だった。
過去の事件を調べ、いくつもの共通点を見つけていくうちに、いつの間にか夢中になっていた。
「ふふっ。まあ、そういうことにしておいてあげる」
京子は楽しそうに笑った。
どうやら、俺の気持ちは完全に見透かされているらしい。
「ところで、みんな。ここまで付き合ってくれてありがとう。今日は俺がおごるよ!」
「えっ、本当でござるか!」
健三が身を乗り出した。
「もちろんだ。何か食べたいものはあるか?」
「それなら、焼肉がいいわね!」
京子がすかさず答えた。
「おお! 焼肉とは最高でござるな!」
健三も嬉しそうに声を上げる。
「焼肉か。いいね。じゃあ、決まりだな」
俺がそう言うと、佳苗が少し心配そうに尋ねてきた。
「でも、知也さん。お仕事を辞めたばかりなのに、お金は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって! たまにはみんなにごちそうしたいんだよ」
俺は自信満々に答えた。
もっとも、心の中では財布の中身が少し気になっていた。
退職したばかりの身で、焼肉をごちそうするのは、なかなかの出費だ。
だが、みんなにはこれまで協力してもらった。今日くらいは気前よくいこう。
「それじゃあ、行こうか!」
俺たちは焼肉屋へ向かうことにした。
◇◇◇
焼肉屋へ向かう途中、見覚えのある人物がこちらに歩いてくるのが目に入った。
「あれ? 徹じゃないか!」
俺が声をかけると、相手もすぐに気づいたようだった。
「おや、知也。久しぶりだね」
そこにいたのは、子供の頃からの友人、及川徹だった。
「本当に久しぶりだな! 元気にしてたか?」
「もちろん。知也も元気そうで何よりだよ」
徹は穏やかな笑顔を浮かべた。
徹とは小学校時代からの付き合いだ。俺と同じ二十五歳だが、大学院まで進み、現在は大学で物理学の研究をしている。
昔から頭が良く、勉強もよくできた。今もこうして研究を続けているあたり、徹らしいと思う。
「あれ? よく見たら及川さんじゃないですか! お久しぶりです。こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね」
京子が徹に気づき、笑顔で声をかけた。
「おお、京子さん。お久しぶりです」
徹も丁寧に挨拶を返した。
「なんだ、二人は知り合いなのか?」
俺が尋ねると、京子が答えた。
「うん。大学の友達が及川さんの研究グループに所属していて、それで知り合ったの」
「そうだったんだな」
「知也とは昔からの友人なんだ。大切な友人の一人だよ」
徹がそう紹介した。
「おいおい、そんな大袈裟な紹介はやめてくれよ」
俺は照れくさくなって、思わず苦笑いした。
「大袈裟なんかじゃないよ。僕は本当にそう思っているからね」
徹はいつもの落ち着いた表情で言った。
「ほら、また始まった。コイツ、こういうところが大袈裟なんだよ」
俺がそう言うと、徹は楽しそうに笑った。
そんな俺たちのやり取りを、京子は少し意外そうに眺めていた。
「大学で会ったときとは、ちょっと印象が違って面白かったよ」
「そうか? 昔からこんな感じだけどな」
「ふふっ。そうなんだ」
京子は納得したように笑った。
「それじゃあ、僕はこれで。久しぶりに話せてよかったよ」
「おう! またな、徹!」
「うん。またね、知也」
徹は軽く手を振り、その場を後にした。
「知也と及川さんって、本当に仲がいいんだね」
京子が感心したように言った。
「まあ、付き合いが長いからな」
「大学で会ったときは、もっと落ち着いた研究者って感じだったんだけどね」
「徹は昔からああいう奴だよ」
俺たちはそんな話をしながら、再び焼肉屋へと向かった。
◇◇◇
店に到着すると、さっそく席に案内された。
テーブルに並ぶ肉を見て、健三の目が輝いている。
「おお! これは美味しそうでござるな!」
「健三、そんなに慌てなくても肉は逃げないわよ」
京子が呆れたように言った。
「いやいや、焼肉は焼きたてが一番でござる!」
健三は早速、網の上に肉を並べ始めた。
俺たちもそれぞれ肉を焼きながら、楽しい食事の時間を過ごした。
しばらくして、俺はビビンバを口に運んだ。
「うん! このビビンバ、うまいな!」
思わず声が出た。
「そうなんですね。じゃあ、今度再現してみますね」
佳苗が興味深そうに言った。
「佳苗ちゃんの料理なら、きっと美味しくできるわね」
京子が笑顔で褒める。
「佳苗殿の料理は、いつも絶品でござるからな!」
健三も大きく頷いた。
「まあ、俺の佳苗は料理上手だからな!」
なぜか俺は、得意げに胸を張った。
すると、京子がすかさず口を挟んだ。
「知也の彼女じゃないって聞いたけど?」
「そ、それはそうだけど……」
佳苗はクスクスと笑いながら、俺の顔を見た。
「ふふっ。知也さんとは、まだ仲のいいお友達ですよ。勘違いしないでくださいね」
「うっ、わ、分かってるよ!」
すると、健三が突然、身を乗り出した。
「知也殿、ルルリの妹を紹介するでござるよ!」
「二次元の嫁はいらん!」
俺が即座に断ると、京子も呆れたように口を開いた。
「確かに、二次元はないわね」
「ふふっ、そうですね」
佳苗まで京子に同意する。
「そ、そんな〜! 皆さん、酷いですぞ!」
健三の嘆きに、俺たち三人は思わず笑い出した。
こうして、久しぶりに四人で過ごす食事の時間は、賑やかに過ぎていった。
◇◇◇
焼肉を食べ終え、店を出る頃には、すっかり満腹になっていた。
「今日はごちそうさまでした、知也さん」
佳苗が笑顔でお礼を言った。
「いやいや、みんなに喜んでもらえてよかったよ」
そう答えながら、俺は財布の中身を思い出していた。
やっぱり、ちょっと使いすぎたかな……。
まあ、たまにはいいか。
今日の食事で、みんなとの距離がまた少し縮まった気がした。
神隠しの謎は、まだ解けていない。
けれど、今は無理に答えを追いかける必要はないだろう。
俺たちが本当に目指しているのは、異世界への転移だ。
神隠しの調査で得た知識や発見も、いつかその手掛かりになるかもしれない。
これからは、科学的な理論や物理現象を一つずつ調べ、異世界転移の可能性を探っていこう。
まだ道筋は見えていない。
それでも、俺たちならきっと何かを見つけられるはずだ。
俺はそんなことを考えながら、みんなと一緒に帰路についた。
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