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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第一部:異世界転移への挑戦

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異世界転移研究チーム、始動!

 喫茶店を後にした俺たちは、大森海岸駅前にある歩道橋の上に来ていた。


 佳苗とは喫茶店で別れた。帰り際まで何か言いたそうな顔をしていたが、結局、何も言わずに帰っていった。


 歩道橋の下では、車が途切れることなく行き交っている。時折、大きなトラックが通り過ぎると、道路から重低音が響いてきた。


 もちろん、お茶代は俺のおごりだ。年上だし、悩みも聞いてもらったからな。


 ただ一人、京子だけは俺に「ごちそうさま」の一言もなかった。まったく、あいつだけは忘れないからな。俺はこういう小さなことを、いつまでも覚えているタイプなんだ。……器の小さい男とは言わないように。


 佳苗が自分は異世界人だと言い出した件については、冗談として受け流した。


 そんな都合のいい話があるわけない。それに、あんなに迷子になる美少女が異世界人であるはずがないだろう。困ったときには魔法で何とかするはずだ。


 うん。素人の俺でも分かる推理だ。


「ねえ、知也。さっきの佳苗さんの話だけどさ」


 京子が、いたずらっぽい笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。


「なんだよ?」


「本当に信じてないの?」


「当たり前だろ。あれは冗談だよ、冗談」


「ふーん。知也って、異世界のことになると何でも信じそうなのにね」


「失礼な! 俺だって、信じるものと信じないものの区別くらいできるぞ!」


「それは初耳ですな」


 健三が眼鏡の位置を直しながら、横から口を挟んできた。


「お前らな……」


 俺は二人を睨みつける。


「それで、わざわざ私たちをここまで連れてきて、何をするつもり? 悩みでも叫ぶの?」


 京子が呆れたように尋ねてきた。


「違うわ! 俺はそんな青春ドラマみたいなことをするために来たんじゃない!」


「じゃあ、何よ?」


「もちろん! 異世界転移するためだ!」


「……は?」


「知也殿、それってまさか……トラックのやつですかな?」


「はっ、あんたにそんなことできるの? 失敗したら死ぬのよ?」


「で、でで、できらぁ! よし、見てろよ!」


「……本気で言ってるの?」


「知也殿、冗談で済む話ではありませんぞ」


 二人の表情を見て、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。


 俺だって、こんなことが簡単にできるとは思っていない。


 そもそも、異世界転移なんて本当に存在するのかさえ分からない。ライトノベルやアニメでは当たり前のように描かれているけれど、現実の世界でそんな現象が起きたという確かな証拠はない。


 それでも、俺は信じたかった。


 もし本当に異世界が存在するのなら、どうして誰もその方法を探そうとしないんだろう。いや、もしかしたら、誰かがすでに研究しているのかもしれない。


「知也、あんた本当に異世界に行きたいの?」


 京子の声で我に返る。


「当たり前だろ。俺はそのために会社まで辞めたんだからな」


「それは知ってるわよ。でも、行きたいっていう気持ちだけで何とかなるものじゃないでしょ?」


「……分かってるよ」


 そう答えたものの、俺自身、何も分かっていなかった。


 健三も腕を組み、難しい顔をしている。


「知也殿の気持ちは分かります。しかし、夢を叶えるためにも、まずは生きていなければなりませんぞ」


「健三……」


 普段はふざけたことばかり言っている二人が、今は真剣に俺のことを心配してくれている。


 それが、少しだけありがたかった。


 俺は道路を見下ろした。


 頭の中では、異世界へ行くことばかり考えていた。けれど、いざ現実を前にすると、恐怖が込み上げてくる。


 もし失敗したらどうなる?


 異世界に行ける保証なんてない。待っているのは、ただの死かもしれない。


 胸の奥がざわつく。さっきまでの威勢はどこへやら。俺の口からは、次の言葉が出てこなかった。


「知也、もうやめなさい」


 京子の声は、いつものからかうような口調ではなかった。


 健三も真剣な顔で俺を見ている。


 ……くそっ。何をやっているんだ、俺は。

 異世界に行きたいという気持ちは本物だ。でも、こんなところで終わってしまったら、元も子もないじゃないか。


 しばらくして、俺は大きく息を吐いた。


「……まあ、いいさ。異世界に行く方法は、これだけじゃない!」


「最初からそう考えなさいよ」


 京子が呆れたようにため息をついた。


「しかし、ほかに方法などあるのでござるか?」


「それを今から探すんだよ!」


「探すって、どうやって?」


「決まってるだろ。研究するんだ!」


「研究?」


「ああ。神隠しの記録、世界各地の伝説や神話、科学的に説明できない現象。異世界につながる手掛かりが、どこかに残っているかもしれないだろ?」


 俺は二人の顔を交互に見た。


「無茶なことをする前に、まずは情報を集める。仮説を立てて、検証する。そうやって異世界に行く方法を見つけるんだ!」


「……なんだか、急にまともなことを言い出したわね」


「拙者、そういう研究なら興味がありますぞ。パソコンを使えば、情報収集やデータの整理もできますからな」


「よし! 決まりだ!」


 俺は思わず拳を握りしめた。


「今日から俺たちは、異世界転移研究チームだ!」


「勝手に私までメンバーに入れないでよ!」


「まあまあ、京子殿。面白そうではありませんか」


「健三まで……」


 二人のやり取りを聞きながら、俺は思った。

 そうだ。まだ諦める必要なんてない。

 異世界への扉がどこにあるのか分からないなら、自分たちで探せばいい。


「ところで、研究すると言っても、何から始めるつもりなの?」


 京子が腕を組みながら尋ねてきた。


「それは……これから考える!」


「はぁ? 何も決めてないの?」


「うるさいな! 今、決めようとしてるんだよ!」


「相変わらず行き当たりばったりですな」


 健三まで余計なことを言ってくる。


「じゃあ、まずは異世界転移に関係ありそうな情報を集めよう。例えば、神隠しとか、突然姿を消した人の話とか!」


「なるほど。昔から世界各地に、突然人がいなくなったという伝承はありますな」


「そうそう! それだよ!」


 俺は思わず身を乗り出した。


「それに、昔話や神話にも不思議な世界へ迷い込む話があるじゃない。そういうものも調べてみたら?」


 京子が意外にもまともな意見を出してきた。


「おお! いいじゃないか!」


「ただし、伝説と事実は分けて考えること。何でも異世界転移に結びつけたら、研究にならないわよ」


「分かってるって!」


「本当に?」


 京子が疑わしそうな目を向けてくる。

 まったく、信用のないリーダーだ。


「拙者は情報を集める仕組みを作りますぞ。見つけた資料を分類して、みんなで共有できるようにしておきます」


「頼んだぞ、健三!」


「任せてくだされ」


 なんだか、少しずつ形になってきた気がする。

 最初は無謀な思いつきだったかもしれない。でも、こうして仲間と一緒に考えていると、本当に何かが見つかるような気がしてくる。


「では、まずは情報を整理するための共有フォルダを作りますかな」


 健三はそう言うと、さっそくスマートフォンを取り出した。


「ちょっと待って。まだ何も決まってないのに、もう始めるの?」


 京子が呆れた顔で健三を見た。


「何を言っているのですかな。こういうことは、準備が大切なのでござるよ」


「さすが健三! 話が分かるじゃないか!」


「知也まで……。もう、勝手にしてちょうだい」


 京子は大きなため息をついた。


 こうして俺たちの、異世界転移を目指す研究が始まろうとしていた。


 この何気ない思いつきが、やがて俺たちの想像もしなかった出来事につながっていくことを、このときの俺はまだ知らなかった。

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