隣人は謎の美少女!?
目が少し吊り上がった美少女の名は、八重樫佳苗。
俺の住んでいるマンションの隣の部屋に住んでいる女性だ。
二年ほど前、近所で迷子になっていた佳苗に親切にしたことがきっかけで、なぜか懐かれてしまった。しかも、偶然にも隣の部屋に住んでいることが分かり、それ以来、仲良くなった。
たまにご飯を作ってくれたり、掃除や洗濯まで手伝ってくれたりする。独身男の俺にとっては、非常にありがたい存在なんだ。
そんな佳苗が怒っている理由は、すぐに分かった。
どうやら、今日の待ち合わせをすっかり忘れていたことが原因らしい。
どうすれば怒りを鎮められるか考えていると、佳苗が腕を組み、俺を睨みつけてきた。
「知也さん、いくら待っても待ち合わせ場所に来ないし、チャットしても反応がないから心配して探してみたら、まさか他の女とイチャイチャしてたなんて。これはトラウマ級のお仕置きが必要なようね」
いきなり先制口撃を食らってしまった。
まずい。このままでは完全に防戦一方だ。
とりあえず、何か言わないと……。
「ちょっと待て、落ち着いてくれ、佳苗。こ、これはオフ会なんだ。ちょっと話に夢中になっていて、時間を忘れていたことについては謝るから! すまん、許してくれ。いや、許してください!」
「嘘おっしゃい! 男女二人っきりのオフ会なんて聞いたことがないわ。それはね、デートって言うのよ!」
言い終わるやいなや、佳苗が素早く俺の隣に回り込んできた。
次の瞬間、耳をつかまれ、思いきり引っ張られる。
「いててて! ホントに痛いから止めてくれー!」
「私に嘘を言うからそんな目に遭うの。分かった?」
「ホントだって! 嘘じゃないんだ! そ、それに他に男がいるんだよ。今はトイレに行ってる。マジだ。だから止めてくれー!」
俺は助けを求めるように京子をチラッと見た。
すると、この野郎……。
ワクワクした顔で、何も言わずに傍観者に徹してやがる。
完全にこの状況を楽しんでいるじゃないか!
後で覚えとけよ。
「ちょっと、私とお話ししているのに、そっちの女性を見たでしょ? もっとキツイお仕置きがお望みかしら?」
佳苗が物騒な言葉を吐き出した。
「い、いや、違うんだ! 誤解を解いてもらおうと思って……。京子、お前からも弁解してくれ。これは誤解なんだって!」
ようやく京子が口を開いた。
「そうね。このままではお店の迷惑になってしまうもんね。えっと、佳苗さんと言ったかしら? 知也の言った通り誤解なんです。二人きりじゃなくて、もう一人、健三って男の人がトイレに行っています。それに、私は知也に恋愛感情なんて全然ないので、安心してください」
京子は顔の前で手を左右に振り、恋愛感情がないことをアピールしている。
俺だってお前なんかに恋愛感情はないわ!
告白もしていないのに、勝手に振られたような気分になって腹が立ってくる。
「えっ? 本当なの?」
京子の言葉を信じたのか、佳苗はようやく俺の耳を解放してくれた。
俺は痛む耳を手で覆い、痛みが和らぐのを待った。
今まで佳苗に手をあげられたことなんて一度もなかった。どうやら、今回は本気で怒っていたらしい。
悪いことをしたとは思う。
でも、俺だって会社を辞めて、仲間たちと大事な話をしていたんだ。そこは少しくらい大目に見てほしい。
「とりあえず、知也の隣に座ったらどうかな? トイレに行ってる健三も、そろそろ帰ってくると思うし」
京子がそう提案すると、佳苗は素直に頷いた。
「はい、分かりました」
佳苗は俺の隣に腰を下ろした。
俺は健三が頼んでいたオレンジジュースを、戻ってきたときに飲みやすいよう席の前に置き直した。
ちょうどそのタイミングで、様子をうかがっていた店員が佳苗に水を運んできた。
佳苗はそれを一口飲むと、俺と同じアイスコーヒーを注文する。
ようやく落ち着いた雰囲気になったところで、間の悪い健三が戻ってきた。
何かを察したのか、健三は何も言わずに京子の隣に座った。
「健三が戻ってきたことだし、紹介しておくよ。こちらの女性は佳苗だ。俺の隣に住んでいて、仲良くさせてもらっている」
「八重樫佳苗です。お邪魔しちゃってごめんなさい」
佳苗は少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいのよ。それにしても、知也にこんな可愛い彼女がいたなんてね。ここ最近で一番衝撃を受けたわ」
「なんと! このお嬢さんは知也殿の思い人でござったか。拙者も驚いたでござるよ」
「いや、お前ら、もっと驚くことがあっただろうが!」
俺は思わず二人にツッコミを入れた。
「誤解してほしくないですけど、私たち付き合ってませんから。ねえ、知也さん?」
佳苗は俺の方を向いて、同意を求めてきた。
「ん? 確かにそうだけど、俺が三十歳になっても独身だったら貰ってくれるって言ったじゃん。結婚を前提にしたお付き合いだと思ってたんだけど、あれ嘘だったの?」
「それは嘘じゃないけど……。それまでに私がもっと素敵な男性と結婚するかもしれないでしょ。知也さんは素敵だけど、ちょっと頼りないっていうか、放っておくと何をするか分からないっていうか、ハラハラさせるのよ。これはきっと保護欲ね」
佳苗は少し困ったように笑った。
「うわぁ、何か分かる。会社辞めたって言ってたしね」
京子が納得したように頷く。
「へっ?」
佳苗の表情が一瞬で変わった。
「ええーっ! 知也さん、会社辞めちゃったの? なんで? どうして? ……まさか、私に養わせるつもりじゃないでしょうね?」
佳苗は驚いた顔で俺の両肩をつかむと、前後に激しく揺さぶってきた。
「わわわっ! ちょっと佳苗、落ち着け! 話ができんだろ!」
「だって、会社を辞めたって……これからどうするつもりなの?」
「それはこれから考える!」
「もう! 知也さんは本当に心配させてばっかりなんだから!」
佳苗は大きなため息をつくと、ようやく俺の肩から手を離してくれた。
「まあ、知也さんらしいと言えば、知也さんらしいけどね」
そう言って、佳苗は少しだけ笑う。
俺は痛む肩をさすりながら、ふと疑問に思った。
「そういえば佳苗、お前は異世界って信じるか?」
「えっ?」
「いや、実は俺たち、異世界に行く方法を探そうと思ってるんだ」
「異世界に行く方法……?」
佳苗は一瞬だけ黙り込んだ。
そして、俺の顔をじっと見つめる。
「ねえ、知也さん」
「ん?」
「もし、私が異世界人だと言ったら、知也さんはどうする?」
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