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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第二部:神戸・再び動き出す神隠し

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束の間の休息

 東京に戻ってから、数日が経った。


 神戸で起きた一連の出来事を整理するため、俺たちは毎日のように集まっていた。


 図書館で調べた新聞記事の内容、町の人から聞いた話、そして黒川和夫に案内された神社の地下資料室。


 それぞれが覚えていることを書き出し、情報を照らし合わせる。


 ただ、神戸での出来事は、まだ何ひとつ解決していない。


 黒川の正体も、俺たちを襲った連中の目的も分からないままだ。


 そんな状況が続いていたある日。


「ねえ、みんな。今日は少し休まない?」


 京子が突然そんなことを言い出した。


「休むって?」


「スーパー銭湯にでも行かない? 神戸から帰ってきてから、ずっと調べものばかりでしょう。たまには気分転換も必要よ」


 確かに、京子の言う通りだった。


 神戸での一件以来、俺たちは落ち着いて休む時間をほとんど取っていない。


「拙者も賛成でござる! 広い湯船に浸かり、日頃の疲れを癒やすのは大切なことでござるからな」


 健三が珍しく素早く賛成した。


「健三は、単に風呂に入りたいだけじゃないのか?」


「むっ、知也殿。拙者とて休息の重要性は理解しているでござる!」


「はいはい。分かったよ」


 佳苗も小さく笑った。


「私も行きたいです。みんなでゆっくりできるといいですね」


「美穂も誘ってみたらどうだ?」


 俺が京子に尋ねると、京子は嬉しそうに頷いた。


「そうね。美穂もきっと喜ぶわ」


 その後、京子が美穂に連絡を取ると、すぐに行きたいという返事が来た。


 徹にも声をかけてみたが、今日はどうしても外せない用事があるらしく、残念ながら参加できなかった。


 こうして俺たちは、知也、健三、京子、佳苗、美穂の五人でスーパー銭湯へ出かけることになった。


 ◇◇◇


 スーパー銭湯に到着すると、俺と健三は男湯へ、京子と佳苗、美穂は女湯へ向かった。


 久しぶりの大きな風呂に、俺は思わず息を吐いた。


「はあ……。やっぱり広い風呂は気持ちいいな」


「まったくでござる。日頃の疲れが溶けていくようでござるな」


 健三も満足そうに湯船に浸かっている。


 俺たちはしばらく湯船でのんびりした後、身体を洗うために洗い場へ移動した。


 そして、健三が使っている洗い場を見た俺は、思わず足を止めた。


 そこには、見覚えのあるピンク色のボトルが置かれていた。


 魔女っ子ルルリのシャンプーだった。


 しかも、キャラクターのイラストが大きく描かれている。


 ……またかよ。


 俺は何も見なかったことにして、そっと隣の洗い場から離れた。


「知也殿? どちらへ行かれるのでござるか?」


「いや、俺はあっちで洗うよ」


「そうでござるか?」


 健三は不思議そうに首を傾げていた。


 俺は余計なことを聞かれる前に、別の場所へ移動した。


 あいつは本当に、どこへ行ってもルルリと一緒なんだな。


 ◇◇◇


 一方、女湯では京子たちも湯船に浸かっていた。


「ふう……。気持ちいいね、京子ちゃん」


 佳苗が肩まで湯に浸かりながら、ほっとした表情を浮かべる。


「そうね。こうしてゆっくりするのも久しぶりだわ」


「神戸から帰ってきてから、ずっと忙しかったもんね」


 美穂も気持ちよさそうに湯船で手足を伸ばしている。


「知也さんたちも、ゆっくりできているといいですね」


 佳苗がそう言うと、京子は小さく頷いた。


「知也は、何でも自分で抱え込もうとするところがあるからね。もう少し周りを頼ってくれてもいいのに」


「でも、佳苗ちゃんもそうよ。いつも周りのことばかり気にして、自分のことは後回しにしているでしょう?」


「えっ? そ、そんなことないですよ」


 佳苗は少し困ったように笑った。


「ふふっ。二人とも似てるところがあるね」


 美穂が二人を見比べる。


「そうかしら?」


「うん。知也もそうだけど、みんな心配性なんだよ」


「美穂に言われると、何だか説得力がないわね」


 京子が笑うと、佳苗もつられて笑った。


 しばらくして、美穂が思い出したように口を開いた。


「そういえば、健三は相変わらずだったわね」


「そうね。神戸でも魔女っ子ルルリのグッズを見つけた途端、目の色が変わっちゃって」


 京子は呆れたように笑った。


「健三、ルルリが大好きだもんね!」


 美穂は嬉しそうに言った。


「本当にね。あそこまで夢中になれるものがあるのは、ある意味すごいと思うわ」


「美穂もルルリが好きだもんね」


 佳苗が微笑む。


「うん! 健三とはルルリ仲間だよ!」


 美穂は胸を張った。


 その言葉に、京子と佳苗は顔を見合わせて笑った。


 神戸での緊張した時間が嘘のように、女湯には穏やかな笑い声が響いていた。


 ◇◇◇


 風呂から上がった俺は、休憩スペースにあるリクライニングチェアに身体を預けていた。


「ああ……。これは動きたくなくなるな」


 背もたれに身体を沈め、目を閉じる。


 温まった身体に、休憩スペースの心地よい空気が気持ちいい。


 神戸での出来事を思い出すと、まだ胸の奥に重たいものが残っている。


 けれど、今は少しだけ忘れてもいいだろう。


 そう思いながら、俺はゆっくりと息を吐いた。


 そのときだった。


 顔に、ひんやりとした感触が落ちてきた。


「ん?」


 次の瞬間、視界が真っ暗になった。


 顔の上に、濡れたタオルが乗せられている。


「コラ! やめろっ!」


 俺は慌ててタオルを取り払った。


 すると、すぐ近くから笑い声が聞こえてきた。


「お客様、お静かにお願いします」


 スタッフの声が飛んできた。


「あっ、すいません」


 俺は慌てて頭を下げた。


 少し離れたところでは、美穂が口元を押さえて笑っている。


「美穂! お前なあ!」


「だって、知也が気持ちよさそうに寝てるんだもん」


「だからって、何で濡れたタオルを顔に乗せるんだよ!」


 美穂は悪びれる様子もなく、楽しそうに笑っていた。


 まったく、油断も隙もない。


 俺が呆れていると、美穂がこちらへ近づいてきた。


 今度は、さっきのいたずらを謝りに来たのだろうか。


「知也」


「ん?」


 美穂は少しだけ表情を柔らかくして、俺の顔を見上げた。


「怒ってる知也より、笑ってる知也のが好きだよ」


「……これじゃ怒るに怒れないな」


 俺は苦笑した。


 美穂は満足そうに笑うと、俺の隣に腰を下ろした。


 その笑顔を見ていると、こちらまで自然に笑顔になってしまう。


 ◇◇◇


 その後、京子たちも休憩スペースに合流した。


 少し休んでから、俺たちは館内の食事処へ向かった。


 それぞれ好きな料理を注文し、テーブルを囲む。


 風呂上がりの食事は、いつもより美味しく感じられた。


「知也、お疲れ様」


 京子が俺のグラスにビールを注いでくれた。


「知也さん、色々ありがとう」


 佳苗もグラスを手に取り、俺にビールを注いでくれる。


「二人ともありがとう。俺だけじゃないよ。みんながいたから、ここまで来られたんだ」


 俺がそう答えると、京子は少し照れたように笑った。


「そうね。これからもみんなで頑張りましょう」


「はい。私も頑張ります」


 佳苗も笑顔で頷いた。


 その様子を見ていた美穂が、突然むっとした顔をした。


「お姉ちゃん、その男はダメ男だからね!」


「この状況でそれ言う?」


 俺は思わず美穂に突っ込んだ。


「ふんっ、私は認めないからね」


「いや、何を認めないんだよ」


「知也が調子に乗るから!」


 美穂はぷいっと顔を背けた。


 京子は困ったように笑い、佳苗は口元を押さえている。


 健三も、面白そうにこちらを見ていた。


「知也殿は、なかなか手厳しい評価を受けておられるようでござるな」


「健三まで何を言ってるんだよ」


「拙者は事実を述べただけでござる」


「どこが事実なんだ!」


 テーブルに笑い声が広がった。


 美穂はまだ少し不満そうだったが、料理を口に運ぶうちに、いつもの笑顔に戻っていった。


 こうしてみんなで食事をしていると、神戸での出来事が遠い昔のことのように思える。


 もちろん、黒川のことも、地下資料室のことも、俺たちを襲った連中のことも忘れたわけじゃない。


 解決しなければならない問題は、まだ山ほど残っている。


 それでも、こうして仲間と笑い合える時間がある。


 それだけで、また前に進める気がした。


「さて、そろそろ帰るか」


 俺がそう言うと、みんなが頷いた。


「そうね。今日はゆっくり休めたわ」


「私も楽しかったです」


「美穂も楽しかった!」


「拙者も十分に英気を養えたでござる!」


「健三は、いつも元気そうだけどな」


「それとこれとは別でござる!」


 また笑い声が起こる。


 束の間の休息。


 神戸で張り詰めていた心と身体を、少しだけ休めることができた。


 明日からは、また調査と研究の日々が始まる。


 俺たちが目指す異世界転移への道は、まだ遠い。


 それでも、一歩ずつ進んでいこう。


 仲間たちと一緒なら、きっと大丈夫だ。

これで第二部は完了です。

次から第三部になります。


ここまで読んでくれてありがとうございました

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