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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第二部:神戸・再び動き出す神隠し

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神戸を後にして

 神戸での調査は、思いがけない結末を迎えた。


 黒川和夫という老人に地下室へ閉じ込められ、さらに正体の分からない集団に追い回された。


 警察に事情を説明しても、取り合ってもらえなかった。


 結局、俺たちの手元には何の証拠も残っていない。


 それでも、今回の出来事で分かったことはある。


 翌朝、ホテルの部屋に集まった俺たちは、東京へ戻る前に、これまでの調査内容をもう一度整理することにした。


「まず、神隠しの記録から確認しよう」


 俺がそう言うと、京子が手元のノートを開いた。


「百年前と五十年前。どちらの事件も、被害者は帰宅途中に姿を消しているわ」


「そして、どちらの事件にも、失踪する直前に誰かと接触していたという目撃情報があったのでござるな」


 健三が続ける。


「そうだ。相手は被害者に親しげに話しかけていたらしい。ただ、その人物が誰だったのかは分かっていない」


「百年前の事件では、青白い光を見たという証言もあったよね」


 佳苗がノートに目を落としながら言った。


「うん。でも、その光が何だったのかも分からない。神隠しと関係があるのかどうかさえ、まだ判断できないな」


 俺は一度、言葉を切った。


 分かっていることは少ない。


 二つの事件に共通点があることは確かだが、それだけで同じ原因だと決めつけるわけにはいかない。


「それに、黒川和夫のことも気になるわね」


 京子が表情を曇らせた。


「地下室に俺たちを閉じ込めたのは、間違いなくあの老人だ。しかも、あの後に現れた連中も、黒川と無関係とは思えない」


「お好み焼き屋の店主殿のお祖父様も、黒川には関わるなと何度も言っていたのでござるな」


「そう。でも、店主さん自身も詳しいことは知らなかった」


 俺は腕を組んだ。


 黒川が何者なのか。


 なぜ俺たちを地下室に閉じ込めたのか。


 そして、あの集団は何者だったのか。


 疑問ばかりが残っている。


「地下室にあった資料も、気になるところだね」


 佳苗が言った。


「せっかく見つけたのに、ほとんど確認できなかったからな」


「拙者たちが実際に目にしたものだけでも、記録しておくべきでござる」


 健三の提案に、俺はうなずいた。


「そうだな。覚えている範囲で書き出しておこう。見ていないものまで想像で補うのはやめておこう」


「それがいいわ。記憶が曖昧な部分は、曖昧なまま残しておきましょう」


 京子も賛成した。


 今回の調査は失敗だったのかもしれない。


 けれど、何も得られなかったわけではない。


 神隠しの記録、黒川という人物、地下室に保管されていた資料。


 それぞれが、これからの調査につながる手がかりになる可能性はある。


 俺たちはノートを閉じ、帰り支度を始めた。


 ◇◇◇


 ホテルをチェックアウトした俺たちは、神戸で助けてくれたお好み焼き屋の店主に挨拶するため、店へ向かった。


 店主は俺たちの姿を見ると、いつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「おお、来たんか。もう東京に戻るんやな」


「はい。今回は本当にお世話になりました」


 俺が頭を下げると、京子たちも続いて礼を言った。


「ええんよ。無事に帰れるんやったら、それが一番や」


 店主は少し心配そうな顔をした。


「けど、あんたら、あんまり無理したらあかんで。何があったんか全部は分からんけど、危ないことには変わりないんやろ?」


「はい。気をつけます」


「また神戸に来ることがあったら、いつでも寄っていき。お好み焼きくらい、いつでも焼いたるからな」


「ありがとうございます。次に来たときは、ゆっくり食べに来ます」


「おう。待っとるで」


 店主は笑顔で手を振ってくれた。


 俺たちも何度か振り返りながら、その場を後にした。


 神戸で出会った人の中で、店主は唯一、俺たちに手を差し伸べてくれた人だった。


 あの人が通りかからなければ、俺たちはどうなっていたか分からない。


 心から感謝している。


 ◇◇◇


 新幹線の車内。


 窓の外を流れる景色を眺めながら、俺は今回の神戸での出来事を振り返っていた。


「なんだか、あっという間だったわね」


 隣の席に座る京子が、窓の外を見ながらつぶやいた。


「そうだな。最初は図書館で資料を調べて、町役場にも行って……。まさか、あんなことになるとは思わなかった」


「黒川という老人、そして地下室から出た時にいた連中。どちらも正体が分からぬままでござるな」


 向かい側の席に座る健三が、腕を組んでいる。


「でも、今回のことで神隠しの調査を諦めるつもりはないよ」


 佳苗が静かに言った。


「もちろんだ。俺たちの目的は、神隠しの謎を解くだけじゃない。異世界転移の研究だって、まだ始まったばかりだからな」


「そうね。今回のことは一度整理して、次にどうするか考えましょう」


 京子の言葉に、俺はうなずいた。


 東京に戻ったら、まずは今回の調査記録をまとめ直そう。


 地下室で見た資料についても、記憶が新しいうちに書き残しておきたい。


 黒川のことも、警察の対応も、気になることは山ほどある。


 ただ、今は焦っても仕方がない。


 俺たちにできることを、一つずつ進めていくしかないのだ。


 やがて新幹線は東京駅に到着した。


 ホームに降り立つと、ようやく戻ってきたという実感が湧いてくる。


「やっぱり東京に戻ってくると、ほっとするわね」


 京子が大きく伸びをした。


「拙者も、ようやく落ち着いた気分でござる」


 健三も、いつもの調子を取り戻したようだ。


 佳苗も安心したように微笑んでいる。


 俺は皆に振り向いた。


「俺達は逃げてきたんじゃない。態勢を立て直す為に戻ってきたんだ!」


 決まった。


 自分でも惚れ惚れするセリフだぜ。


「カッコつけてるけど、チャック開いてるわよ」


「えっ!?」


 俺は慌てて自分のズボンに目を落とした。


 うそだろ……。


 こんな大事な場面で、まさかの失態かよ!


 俺は急いでチャックを閉める。


「くっ、そういう事は後で言えよ! 佳苗が感動してたのに」


「知也さん、感動してないよ」


 佳苗は困ったように笑った。


 京子は呆れた顔でため息をつき、健三は口元を押さえて必死に笑いを堪えている。


 そして、健三が一言。


「知也殿は最後まで決まらぬ男でござるな〜」


「うるさい!」


 俺の声が東京駅のホームに響いた。


 こうして、俺たちの神戸での調査は一旦終了した。


 しかし、神隠しの謎も、黒川の正体も、何一つ解決していない。


 今回の出来事は、むしろ新たな疑問を残しただけだった。


 それでも、俺たちは前に進む。


 東京で態勢を立て直し、もう一度調査を始めるために。


 そして、いつか必ず異世界への道を見つけるために。

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