閑話 健三の追跡
別行動していた健三のエピソードです
あの日の朝、拙者は知也殿たちに別行動を取ると告げた。
「拙者には、少々調べたいことがあるのでござる。今日は別行動とさせていただきたい」
「そうか。何か分かったら連絡してくれよ」
「承知したでござる!」
知也殿たちと別れた拙者は、さっそく目的地へと向かった。
向かった先は、大阪でござる。
もちろん、神隠しの調査などではない。
拙者には、どうしても手に入れたいものがあったのでござる。
それは、魔女っ子ルルリの限定グッズ!
神戸まで来たのだから、大阪にも足を延ばさぬ手はない。期間限定の商品も販売されていると聞き、居ても立ってもいられなかったのでござる。
店に到着した拙者は、商品棚を見て思わず息をのんだ。
おおっ!
これは素晴らしい!
限定アクリルスタンドに、缶バッジ、キーホルダー、クリアファイル。そして、今回の目玉である限定ヘアピン!
どれもこれも、拙者の心をくすぐる逸品ばかりでござる。
気がつけば、手に取った商品はどんどん増えていた。
あれも欲しい。これも欲しい。
いや、こちらも見逃せぬ!
結局、拙者は両手に紙袋を抱えるほどの買い物をしてしまった。
もちろん、すべてを持ち歩くわけにはいかぬので、いくつかは普段から持ち歩いているリュックに詰め込んだ。
そして、今回の一番の収穫。
限定ヘアピンでござる。
これは実に貴重な品。大切に保管せねばならぬ。
拙者はヘアピンを傷つけぬよう、慎重にリュックへしまった。
その後は、近くのネットカフェへ向かった。
購入したグッズを眺めながら、漫画を読んだり、動画を見たりして過ごす。
ああ、至福の時間でござる。
知也殿たちには申し訳ないが、たまにはこういう時間も必要なのでござる。
そう自分に言い聞かせながら、拙者はしばし趣味の世界に没頭していた。
◇◇◇
夕方になり、拙者はホテルへ戻った。
部屋に荷物を置き、知也殿たちが戻っているか確認する。
しかし、部屋には誰もいなかった。
まだ帰っていないのでござるか?
拙者はスマホを取り出し、知也殿に電話をかけた。
……出ない。
続けて京子殿、佳苗殿にも電話をかけてみたが、誰も応答しなかった。
おかしい。
普段なら、誰か一人くらいは電話に出るはずでござる。
拙者の胸に、嫌な予感が広がった。
そのとき、ふと思い出した。
そうでござる。位置情報アプリがある!
あのアプリは、拙者が自分で開発したものでござる。仲間同士の位置を確認できるように作ったもので、今回の神戸行きでも役に立つと思い、三人にも使ってもらっていた。
拙者は急いでアプリを起動した。
画面に表示された三人の最後の位置情報を確認する。
場所は……神社付近。
あの老人、黒川和夫殿に案内された神社でござる。
しかも、位置情報の更新が止まっている。
最後に記録された時刻から、かなり時間が経過していた。
地下にいるのかもしれぬ。
地下であれば、電波が届かず、位置情報が更新されなくなる可能性もある。
もちろん、それだけで三人の状況を断定することはできない。
だが、電話にも出ない。位置情報も止まっている。
そして、最後にいた場所は、あの神社。
偶然とは思えなかった。
「まさか……何かあったのでござるか!」
拙者はリュックを背負い、紙袋を部屋に置くと、急いで神社へ向かった。
◇◇◇
神社に到着した拙者は、境内をくまなく調べた。
しかし、三人の姿は見当たらない。
黒川殿の姿もなかった。
あの老人は、いったい何者なのでござろうか。
拙者は三人が最後にいた場所を思い出しながら、社殿の周囲を調べた。
すると、建物の裏手に、周囲の景色に溶け込むような不自然な箇所を見つけた。
近づいて確認すると、そこには隠し扉があった。
まさか、ここが……!
扉に手をかけてみたが、びくともしない。
どうやら、しっかりと施錠されているようでござる。
拙者はリュックからノートPCを取り出した。
扉の構造や古い建物の仕組みについて調べ、何とか開ける方法がないか考える。
時間だけが過ぎていく。
知也殿たちは、この先にいるかもしれぬ。
急がねばならない。
そのとき、リュックの中にしまっていたものが目に入った。
限定ヘアピン。
今日、苦労して手に入れたばかりの大切な品でござる。
これだけは、何としても守りたい。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
「すまぬ……ルルリ殿!」
拙者は覚悟を決めた。
大切なヘアピンを犠牲にして、何とか扉を開けることに成功したのでござる。
ヘアピンには傷がつき、もう元の状態ではない。
だが、後悔はしていない。
仲間の命には代えられぬ。
拙者は扉の向こうに続く階段を下りていった。
地下はひんやりとしており、石壁に囲まれた通路が続いていた。
周囲には古い木箱や棚が並び、長い年月が経過していることが分かる。
ここが、あの地下資料室なのでござるか。
拙者は慎重に進んだ。
すると、奥の方からかすかな音が聞こえてきた。
水の流れる音。
そして、人の声。
誰かいる!
拙者は足を速めた。
そのときだった。
「……健三!」
水の音に混じって、かすかに声が聞こえた。
「……健三! そこにいるのか!」
間違いない。知也殿の声でござる!
「知也殿! ここでござる!」
拙者は声のした方へ向かって駆け出した。
通路の奥から、さらに水の流れる音が聞こえてくる。
急がねば!
「今、助けに行くでござる!」
拙者はリュックを背負い直し、必死に走った。
やがて、重厚な鉄の扉が見えてきた。
扉の向こうから、三人の声が聞こえる。
「健三! 早く開けてくれ!」
「知也殿、今行くでござる!」
扉を確認すると、外側にはかんぬきが設けられていた。
内側からは開けられない構造になっているようでござる。
拙者は急いでかんぬきを外した。
ガタン!
重い音が地下通路に響く。
扉を押し開けると、そこには水浸しになった知也殿、京子殿、佳苗殿の姿があった。
「三人とも、大丈夫でござるか!」
「健三!」
知也殿がこちらを振り向いた。
三人とも、かなり疲れ切った様子でござる。
拙者はすぐに三人のもとへ駆け寄った。
「もう大丈夫でござる。さあ、早くここから出るのでござる!」
こうして、拙者は何とか三人を救出することができた。
◇◇◇
地下から脱出した後、四人で神社の境内まで戻った。
濡れた服が肌に張りつき、三人の顔には疲労の色が濃く残っている。
それでも、全員無事で本当によかった。
拙者が胸をなで下ろしていると、京子殿がこちらを見た。
「それにしても、健三。どうしてここが分かったの?」
「位置情報アプリでござるよ。拙者が作ったアプリで、三人の最後の位置がこの神社付近だと分かったのでござる」
「そっか。あのアプリね」
京子殿は納得したようにうなずいた。
しかし、すぐに表情を変える。
「でも、もっと早く助けに来てくれてもよかったんじゃないの?」
「うっ……」
痛いところを突かれたでござる。
「そ、それは……拙者にも、いろいろと事情がございまして……」
「事情って何よ?」
「いや、その……」
まさか、大阪でルルリグッズを買い漁っていたなどと言えるはずがない。
しかも、紙袋いっぱいの買い物をして、ネットカフェでのんびり過ごしていたのでござる。
京子殿の追及を受ければ、間違いなく怒られるであろう。
「まあまあ、京子。健三が来てくれなかったら、俺たちはどうなっていたか分からない。助かったんだから、まずは礼を言おうぜ」
知也殿が間に入ってくれた。
「それはそうだけど……」
京子殿はまだ納得していない様子だったが、それ以上は追及してこなかった。
「健三さん、本当にありがとうございました」
佳苗殿が丁寧に頭を下げた。
「いやいや、佳苗殿。仲間を助けるのは当然のことでござる!」
拙者は胸を張って答えた。
しかし、心の中では別のことを考えていた。
リュックの中には、まだ大切なルルリグッズが入っている。
そして、あの限定ヘアピンは……。
ああ、ルルリ殿。
せっかく手に入れた宝物を犠牲にしてしまったでござる。
だが、後悔はない。
知也殿、京子殿、佳苗殿。
三人が無事だったことが、何よりも大切なのでござる。
それにしても、あの地下室はいったい何だったのでござろうか。
黒川和夫殿は、なぜ拙者たちをあそこへ案内したのか。
そして、なぜ三人を閉じ込めたのか。
まだ分からないことばかりでござる。
拙者たちの神隠しの調査は、思いもよらぬ方向へ進み始めていた。
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