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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第二部:神戸・再び動き出す神隠し

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神社へ誘う老人

 翌朝。


 俺たちはホテルの朝食会場に集まっていた。


 昨夜の出来事があったせいか、四人の表情にはどこか疲れが見える。


 ホテルの窓に何度も小石が投げつけられた。


 犯人の姿は確認できなかったが、あれが偶然だったとは思えない。


 そして昨日、佳苗が車に轢かれそうになったことも気になっていた。


「ねえ、知也。本当に今日も調査を続けるの?」


 京子が少し不安そうな顔で尋ねてきた。


「ああ。ここまで来たんだ。昨日の役場での聞き取りだけじゃ、まだ分からないことが多すぎる」


「でも、昨日のこともあるし……」


「分かってる。だから、昨日みたいに皆で行動する。無理はしない」


 俺がそう答えると、佳苗も小さく頷いた。


「私も、できればもう少し調べたいです。せっかく見つけた手掛かりですから」


「佳苗まで……。もう、二人とも本当に大丈夫なの?」


 京子は呆れたように息を吐いた。


「心配なのは分かる。でも、何も分からないまま帰るわけにもいかないだろ」


「それはそうだけど……」


 そんなやり取りをしていると、健三が箸を置いた。


「拙者は、本日少々別行動を取りたいのでござる」


「別行動?」


 俺は健三に視線を向けた。


「何か調べたいことでもあるのか?」


「うむ。昨日の資料を見て、少々気になることができましてな。拙者なりに調べてみたいのでござる」


「一人で大丈夫か?」


「心配ご無用。何かあれば、すぐに連絡するでござるよ」


 健三はいつもの調子で笑った。


「位置情報アプリもあるしな。お互いの居場所は確認できる。何かあったらすぐ連絡しよう」


「そうでござるな。あのアプリがあれば、万が一の際にも安心でござる」


 以前、俺たちで作った仲間の位置情報を確認できるアプリだ。


 スマホさえあれば、お互いがどこにいるのか確認できる。


 もちろん、通信環境によっては位置情報が更新されないこともあるが、何もないよりはずっと心強い。


「分かった。じゃあ、今日は別行動にしよう。ただし、何かあったらすぐに連絡すること」


「承知したでござる!」


 こうして健三は、俺たちより先にホテルを出ていった。


 残った俺たち三人も朝食を済ませ、再び役場へ向かうことにした。


 ◇◇◇


 役場に到着すると、昨日対応してくれた職員に声をかけた。


「昨日はありがとうございました。もう少し詳しく調べたいことがあって、また来ました」


「そうでしたか。何か新しいことが分かりましたか?」


「いえ、まだ何とも。ただ、過去の二つの神隠し事件について、ほかに記録が残っていないか確認したいんです」


 俺は、図書館で見つけた新聞記事の内容を説明した。


 約百年前と五十年前。


 どちらの事件も、子供が帰宅途中に行方不明になっている。


 さらに、失踪する直前に、誰かが子供に近づいていたという証言も残されていた。


「なるほど……。確かに、二つの事件には共通点があるようですね」


「当時の関係者や、事件について詳しく知っている方はいませんか?」


「そうですね。かなり昔のことですから、当時を知る方も少なくなっています。役場に残っている資料にも限りがありますし……」


 職員は申し訳なさそうに答えた。


 やはり、昨日と同じように有力な情報は得られそうにない。


「何か思い出したことや、新しい資料が見つかったら、連絡をいただけませんか?」


「もちろんです。ご滞在先を教えていただければ、何か分かった際にはご連絡します」


 俺たちはホテルの名前と連絡先を伝えた。


 これで役場での聞き取りは一段落した。


「やっぱり、簡単にはいかないわね」


 役場を出たところで、京子が肩を落とした。


「まあ、百年も前の事件だからな。すぐに答えが見つかるとは思っていなかったよ」


「でも、何か手掛かりが欲しいですね」


 佳苗も少し残念そうだった。


 俺たちが次にどうするか考えていると、背後から穏やかな声が聞こえた。


「あの、少しよろしいでしょうか?」


 振り返ると、そこには一人の老人が立っていた。


 白く長い髪を後ろにまとめ、白い着物の上に濃紺の羽織を着ている。


 年齢は七十代くらいだろうか。


 目元には優しさがあり、柔和な表情を浮かべていた。


「失礼ですが、先ほどから神隠しの事件についてお話しされていましたね?」


「ええ。そうですが」


 俺が答えると、老人はゆっくりと頷いた。


「私は黒川和夫と申します。この辺りで長く暮らしている者です」


「黒川さんですか。初めまして。俺は速水知也です。こちらは仲間の京子と佳苗です」


「初めまして」


「よろしくお願いします」


 二人も軽く頭を下げた。


「実は、昔の神隠しについて、私も少しばかり知っていることがあるのです」


「本当ですか?」


 俺は思わず身を乗り出した。


「ええ。昔からこの土地に伝わる話でしてね。詳しいことを知っている人間は、今ではずいぶん少なくなりましたが」


「どんなことをご存じなんですか?」


 京子も興味を示した。


「ここでは少し話しにくいこともあります。よろしければ、神社までご案内しましょう。あそこには、昔の出来事に関係するものが残されているのです」


「神社に?」


「はい。実は、神隠しに遭った方が残した資料があるのです」


 その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


「被害者が残した資料……ですか?」


「ええ。長い間、人目につかないように保管してきました。古いものですから、傷んでいるかもしれませんが、皆さんのお役に立つものがあるかもしれません」


 思いがけない話だった。


 図書館や役場で調べても見つからなかった資料が、神社に残されている。


 もし本当なら、これまでの調査を大きく前進させる手掛かりになるかもしれない。


「どうする? 知也」


 京子が俺の顔を見た。


 警戒しているのだろう。


 昨日の車の件や、ホテルへの投石があったばかりだ。慎重になるのも当然だと思う。


「黒川さん、その資料は今でも見ることができるんですか?」


「もちろんです。皆さんにお見せしても構いません。好きにご覧になってください。私は上で待っていますから、ゆっくり調べていただければと思います」


「それはありがたいです」


 俺は礼を言った。


 佳苗も資料に興味があるようで、黒川さんの話を真剣に聞いていた。


「ただ、少し古い神社ですので、足元には気をつけてくださいね」


「分かりました」


 京子はまだ少し迷っているようだったが、俺たち三人は黒川さんの案内を受けることにした。


 ◇◇◇


 役場からしばらく歩いたところに、その神社はあった。


 周囲には大きな木々が立ち並び、境内にはほとんど人影がない。


 古くからこの土地を見守ってきた神社なのだろう。


 石段を上がり、境内を抜ける。


「こちらです」


 黒川さんは社殿の脇を通り、建物の裏手へと進んでいった。


 そこには、周囲の景色に溶け込むように古い扉があった。


「ここに地下への入口があるのです」


 黒川さんが扉に手をかける。


 ギイ……。


 長い間、開かれていなかったかのような音を立てて扉が開いた。


 その向こうには、石造りの階段が下へと続いていた。


「地下に保管しているんですか?」


「ええ。大切なものですから、昔からここに置いてあるのですよ」


 階段の下から、ひんやりとした空気が流れてくる。


 少し湿った土の匂いもした。


「暗いので、足元に気をつけてください」


 黒川さんはそう言って、俺たちを先に進ませた。


 俺はスマホのライトを点け、慎重に階段を下りていく。


 京子と佳苗も、その後に続いた。


 階段を下りきると、そこには思っていたよりも広い空間があった。


 石積みの壁に囲まれた、古い地下倉庫のような場所だ。


 壁際には木製の棚が並び、いくつもの木箱が置かれている。


 長い年月を経たせいか、ところどころに傷みも見られた。


「ここにあるものが、神隠し事件に関係する資料です」


 黒川さんが棚の一角を指さした。


 そこには古びた手帳や紙の束、箱に収められた書類らしきものが並んでいた。


「こんなに残っていたんですね……」


 京子が驚いたように呟いた。


「本当に、被害者の方が残したものなんですか?」


 佳苗が尋ねる。


「そう聞いております。私もすべてを把握しているわけではありませんが、昔から大切に保管されてきたものです」


 俺は棚に近づき、手帳の一冊を手に取った。


 表紙は色あせ、角も擦り切れている。


 それでも、長い年月を経てここに残されていたことは間違いなさそうだった。


「黒川さん、これを読んでも構わないんですよね?」


「ええ。どうぞ、ご自由にご覧ください」


 老人は穏やかに微笑んだ。


「それでは、私は上で待っています。何かありましたら、遠慮なく声をかけてください」


「ありがとうございます」


 黒川さんは階段へ向かい、ゆっくりと上がっていった。


 俺たちは手元の資料に視線を戻した。


 百年前と五十年前の神隠し事件。


 あの二つの事件には、まだ俺たちの知らない何かが隠されている。


 その答えが、ここにあるかもしれない。


「よし。まずは手分けして調べよう」


「分かったわ」


「はい」


 俺は手にした古い手帳を開いた。


 そこには、見慣れない文字と日付が記されていた。


 そして、その最初のページには、俺たちがこれまで調べてきた神隠し事件と関係がありそうな言葉が残されていた。


 俺は思わず息を呑んだ。


 ようやく、何かが見つかるかもしれない。


 そんな期待を胸に、俺は次のページをめくった。

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