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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第二部:神戸・再び動き出す神隠し

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神戸に潜む不穏な影

「佳苗、危ない!」


 俺は咄嗟に佳苗の腕をつかみ、力いっぱい自分の方へ引き寄せた。


 キキィィィッ!


 けたたましいブレーキ音が響き、車が俺たちの目の前で停止した。


「きゃっ!」


 佳苗の身体が俺の方へ倒れ込む。


 なんとか支えることができたが、あと一瞬遅れていたらと思うと、背筋が凍った。


「佳苗! 大丈夫か?」


「う、うん……。知也さん、ありがとう」


 佳苗は驚いた表情のまま、小さく頷いた。


「ちょっと! 今の危ないじゃない!」


 京子が車に向かって声を上げた。


 俺も運転席に目を向ける。


「おい! 危ないだろ! ちゃんと前を見て運転しろよ!」


 しかし、運転手から返事はなかった。


 車の窓は閉じられたまま。


 運転手の顔もよく見えない。


 俺たちが声を掛けているにもかかわらず、車はしばらく停止した後、何事もなかったかのように再び走り出した。


「おい! 待てよ!」


 俺が声を上げても、車は速度を上げて走り去ってしまった。


「何なのよ、あの運転手! 人を轢きそうになっておいて、謝りもしないなんて!」


 京子は怒りを露わにしていた。


「まったく、危ないところでござったな」


 健三も走り去った車を見つめている。


「佳苗、本当に怪我はないか?」


「うん。大丈夫だよ。知也さんが助けてくれたから」


 佳苗はそう言って笑顔を見せたが、まだ少し顔色が悪い。


 俺はもう一度、走り去った車の方向を確認した。


 あの車の動きは、本当にただの不注意だったのだろうか。


 佳苗が道路側を歩いていたことを考えれば、危険な状況だったのは間違いない。


 それに、運転手は俺たちの声を聞いていたはずなのに、まったく反応しなかった。


 故意に車を近づけたのではないか。


 そんな疑念が頭をよぎる。


 だが、証拠は何もない。


「知也、どうしたの?」


 京子の声で我に返った。


「いや……。何でもない」


「何でもないって顔じゃないわよ」


「もしかしたら、わざとだったんじゃないかと思ってさ」


「わざと?」


 京子の表情が険しくなる。


「確証はないよ。ただ、あの運転手の態度が気になってな」


「確かに、普通なら一度くらい謝るわよね」


 佳苗が心配そうに俺を見た。


「でも、偶然かもしれないよ。私がちゃんと周りを見ていなかったのも悪かったし……」


「佳苗が悪いわけじゃないだろ」


 俺はすぐに答えた。


「危険な運転をした方が悪いんだ。あまり気にするな」


「うん……」


 佳苗は小さく頷いた。


「とにかく、これからは十分に気をつけるでござる。特に道路の近くを歩くときは注意するのでござるぞ」


 健三の言葉に、俺たちは頷いた。


 せっかく見つけた神隠し事件の手掛かりだ。


 ここで調査を中断するわけにはいかない。


 俺たちは気持ちを切り替え、役場へ向かうことにした。


 ◇◇◇


 役場に到着すると、俺たちは受付で過去の神隠し事件について調べていることを伝えた。


 担当してくれた職員は、最初こそ丁寧に対応してくれた。


 しかし、約100年前と約50年前の失踪事件について尋ねても、詳しい情報はなかなか得られなかった。


「申し訳ありません。かなり古い出来事ですので、こちらに残っている資料も限られております」


「そうですか……。当時の捜索記録や、失踪した方の詳しい情報などは残っていませんか?」


 俺が尋ねると、職員は手元の資料を確認した。


「現在、すぐにお見せできるものはありませんね。古い記録については、別の場所に保管されているものもありますので」


「その資料を確認することはできないでしょうか?」


「確認には少し時間が必要になると思います。すぐにお答えするのは難しいですね」


 京子が少し身を乗り出した。


「当時の事件について、何か覚えている方はいらっしゃいませんか? 例えば、目撃者や関係者のご家族など」


「そうですね……。当時のことを知っている方は、かなり少なくなっていると思います」


 職員は申し訳なさそうに答えた。


 それからもいくつか質問をしてみたが、新しい情報はほとんど得られなかった。


 図書館で見つけた新聞記事以上の手掛かりは、今のところ見つからない。


「分かりました。では、もし何か思い出したことや、新しい資料が見つかった場合には、教えていただけませんか?」


「もちろんです。ただ、こちらから連絡するためには、皆さんの滞在先を教えていただく必要がありますが」


「今は近くのホテルに泊まっています。こちらがホテルの名前と場所です」


 俺はスマホでホテルの情報を表示し、職員に伝えた。


「ありがとうございます。何か分かりましたら、ホテルへご連絡するようにいたします」


「よろしくお願いします」


 俺たちは職員に礼を言い、役場を後にした。


「結局、あまり収穫はなかったわね」


 京子が残念そうに言った。


「ああ。やっぱり古い事件だから、資料も少ないんだろうな」


「でも、図書館で見つけた記事は重要だと思うよ」


 佳苗がそう言った。


「うん。あの二つの事件に共通点があったのは確かだ。役場で何か分かるかもしれないし、もう少し調べてみよう」


「そうでござるな。焦らず、一つずつ手掛かりを探すのでござる」


 俺たちはホテルへ戻ることにした。


 その日の夜。


 俺と健三が部屋でくつろいでいると、突然、窓の方から小さな音がした。


 コンッ。


「ん?」


 最初は何かが風で飛んできたのかと思った。


 しかし、すぐにまた音がした。


 コンッ。


「今のは何でござるか?」


 健三も窓の方を見た。


 コン、コンッ。


 今度は続けて二回。


「何だろうな。ちょっと見てくる」


 俺は窓に近づき、カーテンを少し開けた。


 外は暗く、街灯の明かりがわずかに周囲を照らしているだけだった。


 そのとき、また音が響いた。


 コンッ!


「誰だ!」


 俺は窓を開けて外に向かって声を上げた。


「何度も石をぶつけるな! 危ないだろ!」


 しかし、返事はない。


 暗い道路の向こうに人影らしきものが見えた気がしたが、すぐに見えなくなった。


「おい! 待て!」


 俺が外を確認しようとしたときには、すでに誰もいなかった。


 窓の下を確認すると、小さな石がいくつか落ちていた。


「やっぱり、石を投げられていたのでござるな」


「ああ。間違いない」


 健三も窓の外を見た。


「しかし、誰がこんなことを……」


「分からない。暗くて顔も見えなかった」


 俺は窓を閉め、カーテンを引いた。


 その後、京子と佳苗にも連絡し、俺たちの部屋に集まってもらった。


「何ですって? 窓に石を投げられた?」


 京子は驚いた顔をした。


「ああ。何度もぶつけられたんだ。窓を開けて注意したら逃げていった」


「顔は見えたの?」


「いや、暗くて分からなかった」


「それって、昼間の車と関係あるんじゃない?」


 京子の言葉に、俺はすぐには答えられなかった。


 車の接近。


 そして、今度はホテルへの投石。


 どちらも偶然とは思えないタイミングだ。


「誰かが俺たちの調査を邪魔しようとしているのかもしれないな」


 俺がそう言うと、佳苗は不安そうに俯いた。


「私たちが神隠し事件を調べていることを、誰かが知っているってこと?」


「可能性はあると思う」


「でも、どうして私たちが調べていることを知っているのかしら?」


 京子が疑問を口にした。


「図書館や役場で話を聞いていたからな。誰かに聞かれていた可能性はある」


「それにしても、こんなことをするなんて……」


 京子は窓の方を見つめた。


 健三も腕を組み、難しい顔をしている。


「拙者たちを追い払おうとしているのでござろうか」


「そうかもしれない」


 俺は窓の外に目を向けた。


 暗闇の向こうに、まだ誰かが潜んでいるような気がした。


「ねえ、知也」


 しばらく沈黙が続いた後、京子が口を開いた。


「もう東京に帰らない?」


「えっ?」


「今日の車のこともそうだし、今度はホテルに石を投げられたのよ。これ以上、危険な目に遭う必要なんてないじゃない」


 京子の言葉はもっともだった。


 佳苗が危険な目に遭ったばかりだ。


 それに、ホテルまで狙われるようなことがあれば、安心して眠ることもできない。


「京子の言うことも分かるよ」


「だったら、帰りましょうよ」


「でも、ここで帰ったら、何も分からないままだ」


 俺は京子を見つめた。


「図書館で見つけた二つの事件には、明らかな共通点があった。失踪する前に子供へ近づいていた人物がいたこと。それに、約100年前の事件では青白い光の目撃情報もある」


「それは分かってるわ。でも、私たちの安全の方が大切でしょ?」


「ああ。それは分かってる。だから、無理はしない。夜に一人で出歩かないし、行動するときも必ず複数で動く。何かあればすぐに警察に相談する」


「でも……」


「今回の出来事が、調査をやめさせるための警告だったとしても、俺たちにはまだ何も分かっていない。誰が何のためにやっているのかもな」


 京子は黙って俺を見ていた。


「ここまで来たんだ。もう少しだけ調べさせてほしい。真相に近づくためにも、あと少し頑張りたいんだ」


 俺自身、危険がないとは思っていない。


 佳苗を助けたときの恐怖も、窓に石がぶつかったときの不気味さも、まだ頭から離れない。


 それでも、ここで引き返したくはなかった。


 神隠し事件の謎。


 そして、その背後にあるかもしれない何か。


 それを確かめるまでは、簡単に諦めるわけにはいかない。


「知也さん……」


 佳苗が小さく声をかけてきた。


「私も怖くないと言ったら嘘になるよ。でも、ここまで一緒に調べてきたんだもん。もう少しだけ頑張ってみたい」


「佳苗……」


「ただし、無茶はしないでね。みんなで一緒に帰ろう」


 佳苗の言葉に、俺は頷いた。


「もちろんだ」


 健三もゆっくりと立ち上がった。


「拙者も賛成でござる。ただし、警戒を怠ってはならぬ。何者かが我らの調査を妨害している可能性がある以上、慎重に行動する必要があるでござる」


「そうね……」


 京子は大きく息を吐いた。


「分かったわ。でも、次に何かあったら本当に帰るからね」


「ああ。約束する」


 こうして俺たちは、神戸での調査を続けることにした。


 しかし、俺たちはまだ知らなかった。


 今回の車の接近も、ホテルへの投石も、単なる嫌がらせではなかったことを。


 誰かが俺たちに、これ以上調べるなと警告していたのだ。


 それでも俺たちは、その警告の意味を理解できないまま、神隠しの謎を追い続けようとしていた。

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