図書館に眠る神隠しの記録
翌朝。
俺たちはホテルで朝食を済ませ、神隠し事件の手掛かりを探すため、地元の図書館へ向かうことにした。
昨日、お好み焼き屋の店主から聞いた話は気になっていた。
約100年前、帰宅途中の若者が行方不明になったこと。
そして、その直前に青白い光が目撃されていたこと。
さらに、約50年前にも同じような失踪事件があったという。
まずは古い新聞や郷土資料を調べ、当時の記録が残っていないか確認するつもりだった。
「よし、今日はいよいよ本格的な調査だな」
俺がそう言うと、京子が隣から冷たい視線を向けてきた。
「昨日も調査する気だったんじゃないの?」
「そ、それはそうだけどさ」
「お好み焼きの話を聞いた途端、食べに行こうって言い出したのは誰だったかしら?」
「もう、その話はいいだろ!」
「ふふっ。知也さん、昨日のお好み焼き、美味しかったね」
佳苗が笑顔で話に加わる。
「確かに美味しかったでござるな。拙者も満足でござる!」
健三まで満足そうに頷いた。
「ほら、健三もそう言ってるじゃないか」
「健三は関係ないでしょ!」
京子の一言で、俺は黙るしかなかった。
そんなやり取りをしながら、俺たちは図書館へ向かって歩き始めた。
しばらく歩いたところで、健三が突然立ち止まった。
「むむっ! 知也殿、少々寄りたい場所があるのでござる!」
「ん? どうしたんだ?」
健三が指差した先には、小さなおもちゃ屋があった。
「おもちゃ屋?」
「左様でござる! あの店に少々用事があるのでござる!」
「ちょっと待ってよ。私たちは遊びに来たんじゃないのよ?」
京子が呆れたように言った。
「いやいや、ほんの少しだけでござる。すぐに戻るゆえ!」
「本当にすぐよ?」
「もちろんでござる!」
健三はそう言うと、嬉しそうにおもちゃ屋の中へ入っていった。
俺たち三人は、仕方なく店の外で待つことにした。
「健三さん、おもちゃが好きなんだね」
佳苗が店の中を覗きながら言った。
「まあ、あいつには昔から妙なこだわりがあるんだよ」
「妙なこだわりっていうか、子供っぽいだけでしょ」
京子は腕を組み、ため息をついた。
それから数分後。
店の扉が開いた。
出てきた健三の顔を見て、俺は思わず目を疑った。
満面の笑み。
まるで宝物を見つけた子供のような顔をしている。
「おおお! これは運命の出会いでござる!」
「な、何があったんだよ?」
「見つけたのでござる! 魔女っ子ルルリの御当地限定グッズを!」
健三は手にした袋から、商品を取り出して俺たちに見せた。
そこには、魔女っ子ルルリの可愛らしいイラストが描かれた神戸限定グッズがあった。
「おお、そんなものがあるのか!」
俺は思わず感心した。
「しかも神戸限定! ここでしか手に入らぬ貴重な逸品でござるぞ!」
健三は目を輝かせながら、商品の魅力を語り始めた。
「この衣装の色使い、そしてこの表情! まさに至高の造形美でござる! 拙者、感動のあまり言葉も出ないでござる!」
「いや、十分しゃべってるじゃないか」
俺が突っ込むと、健三はさらに熱を込めて説明を続けた。
「知也殿、これは分かっておらぬ! 魔女っ子ルルリの魅力は、単なる可愛らしさだけではないのでござる!」
「はいはい、分かったから」
「もういい加減にしなさい!」
京子の声が響いた。
健三がびくりと肩を震わせる。
「私たちは神隠しの調査に来てるのよ! いつまで浮かれてるつもりなの!」
「し、しかし、これは神戸でしか手に入らぬ限定品でござるぞ!」
「そんなこと知らないわよ!」
京子の怒りは収まりそうになかった。
俺は思わず笑ってしまった。
「知也! アンタも笑ってないで行くわよ!」
「わ、分かったよ!」
すると健三が、何かを思い出したように声を上げた。
「そうそう! もう一つ大事なことを忘れていたでござる!」
「今度は何よ……」
京子がうんざりした顔を向ける。
健三は、もう一つの袋を取り出した。
「こちらは美穂殿へのお土産でござる!」
「えっ? 美穂に?」
京子の表情が少し変わった。
「左様でござる。美穂殿も魔女っ子ルルリを愛する同志。神戸限定の品を見つけたからには、買って帰らぬわけにはいかぬのでござる!」
健三は袋を京子に差し出した。
「京子殿、申し訳ないが、美穂殿に渡していただけるでござるか?」
京子は袋を受け取り、中身を確認した。
そこには健三が持っているものと同じ、魔女っ子ルルリの神戸限定グッズが入っていた。
「……もう。最初からそう言ってくれればいいのに」
京子は小さくため息をついた。
さっきまでの怒りも、少しは収まったようだ。
「まったく、仕方ないわね。美穂もきっと喜ぶと思うわ」
「それは何よりでござる!」
「なんだよ。京子も結局、健三に甘いんじゃないか?」
「違うわよ! 美穂へのお土産を預かっただけ!」
「ははっ、そうかそうか」
「知也!」
「はい!」
佳苗はそんな俺たちを見て、くすくすと笑っていた。
健三は満足そうに自分の袋を大切そうに抱えた。
「では、そろそろ参るとするでござる!」
「今度こそ寄り道はなしだからね!」
京子に念を押され、健三は大きく頷いた。
「承知したでござる!」
こうして俺たちは、ようやく図書館へ向けて歩き出した。
◇◇◇
図書館に到着すると、俺たちは受付で古い新聞や郷土資料を閲覧できる場所を尋ねた。
職員の案内で資料室へ向かう。
そこには、年代ごとに整理された新聞の縮刷版や、地域の歴史をまとめた書籍が並んでいた。
「まずは約100年前の事件から調べてみよう」
俺の提案に、京子と佳苗が頷いた。
健三も先ほどまでの浮かれた様子を引っ込め、真剣な表情で資料を探し始めた。
俺たちは手分けして、当時の新聞記事を調べることにした。
しばらくして、京子が一枚の記事を見つけた。
「知也、これじゃない?」
「どれ?」
俺は京子の隣に座り、記事を覗き込んだ。
そこには、帰宅途中だった子供が行方不明になったという内容が記されていた。
記事によると、子供は夕方、自宅へ戻る途中で姿を消したらしい。
家族や近隣住民による捜索が行われ、警察も調査にあたったが、行方は分からなかった。
さらに、記事の後半に気になる記述があった。
「この子供、失踪する少し前に、ある人物から何度も声を掛けられていたみたいだな」
俺が読み上げると、京子が眉を寄せた。
「親しげに話しかけてくる人物がいたってこと?」
「ああ。近所の人が、その様子を見ていたらしい」
「その人物が、子供を連れ去った可能性はないのかな?」
佳苗が不安そうに尋ねた。
「可能性はあると思う。でも、記事にはその人物の名前も、詳しい特徴も書かれていない」
俺は記事を読み直した。
その人物が誰なのか。
子供に何を話していたのか。
そして、失踪と関係があったのか。
肝心なことは何も分からなかった。
「警察はどう判断したのでござるか?」
健三が尋ねる。
記事の最後には、当時の警察の見解が記されていた。
捜査の結果、事件性を確認できる証拠は見つからなかった。
誘拐や連れ去りを裏付けるものもなく、原因不明の行方不明として扱われたようだった。
「事件性は確認されなかった、か……」
俺は小さく呟いた。
「でも、子供が突然いなくなったことに変わりはないわよね」
京子の言葉に、俺は頷いた。
「ああ。だからこそ、もう一つの事件も調べる必要がある」
俺たちは続けて、約50年前の新聞記事を探した。
そして、しばらくして佳苗が別の記事を見つけた。
「ありました! こちらも帰宅途中に子供が行方不明になった事件です」
俺たちは佳苗の周りに集まった。
記事の内容を確認すると、約100年前の事件とよく似ていた。
帰宅途中に子供が姿を消したこと。
失踪する前に、親しげに話しかけてくる人物がいたという目撃証言があったこと。
そして、警察の捜査でも事件性を確認できなかったこと。
「これは……偶然なのかな?」
佳苗が二つの記事を見比べながら呟いた。
「二つの事件に共通点があるのは間違いないでござるな」
健三も真剣な表情で記事を見つめている。
「どちらの子供にも、失踪する前に近づいていた人物がいた。しかも、警察は事件性を確認できなかった」
京子が指先で記事をなぞった。
「その人物が同じ人だったとは考えられないのかな?」
「約50年も離れているんだ。同じ人物だとすれば、年齢の問題もある」
「そうね。でも、別人だったとしても、同じようなことが二度起きているのは気になるわ」
俺は二つの記事を机の上に並べた。
約100年前と約50年前。
どちらも帰宅途中の子供が姿を消している。
そして、失踪する前には、子供に親しげに接近していた人物がいた。
それが単なる偶然なのか。
それとも、失踪事件に関係する何かがあったのか。
まだ判断することはできなかった。
「ところで、昨日のお好み焼き屋の店主が話していた青白い光は、どちらの事件に関係しているのでござろうか?」
健三が尋ねた。
「店主の話では、約100年前の事件だったはずだ」
「ということは、こちらの記事の事件でござるな」
「ああ。ただ、新聞記事には光のことは書かれていない」
「当時の新聞に載らなかっただけかもしれないわね」
京子の言葉に、俺は頷いた。
地元の人々の間で語り継がれてきた話と、新聞に残された記録。
それぞれを照らし合わせれば、何か分かるかもしれない。
「図書館で調べられることは、ひとまずここまでかな」
俺は資料を整理しながら言った。
「次は役場ね。当時の記録が残っていれば、もっと詳しいことが分かるかもしれない」
京子がそう提案した。
「そうだな。失踪した子供の記録や、当時の捜査に関する資料が残っているかもしれない」
「では、役場へ向かうでござる!」
健三が立ち上がる。
佳苗も資料を片付けながら頷いた。
「何か手掛かりが見つかるといいね」
俺たちは図書館を後にし、役場へ向かうことにした。
◇◇◇
役場へ向かう道中。
俺たちは調査で分かったことについて話し合いながら歩いていた。
「それにしても、二つの事件で同じような証言が残っているのは不自然よね」
京子が言った。
「そうだな。子供に近づいていた人物が、何かを知っている可能性はある」
「しかし、警察が事件性を確認できなかった以上、確かな証拠はなかったのでござろうな」
「だからこそ、役場で当時の記録を調べたいんだ」
俺がそう答えた、その時だった。
隣を歩いていた佳苗が、道路側へ少し寄った。
その瞬間。
キキィィィッ!
突然、車の急ブレーキの音が響いた。
「佳苗、危ない!」
俺は反射的に叫んだ。
佳苗が驚いて振り向く。
目の前には、こちらへ迫ってくる車があった。
――危ない!
俺は咄嗟に佳苗の方へ手を伸ばした。
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