健三の新発見
「みんな、少し聞いてほしいことがあるでござる!」
いつものように知也の家に集まった研究会のメンバー。
その中で、健三が珍しく真剣な表情を浮かべていた。
「どうしたんだよ、健三。そんなに改まって」
俺が尋ねると、健三は手にしていたファイルをテーブルの上に置いた。
「実は、以前から独自に調べていた神戸の神隠し事件について、新たな発見があったのでござる」
「神戸の事件って、50年前と100年前に起きたという、あの失踪事件のこと?」
京子がファイルに目を向ける。
「そうでござる。あの事件について、もう一度資料を洗い直していたのでござるよ」
「何か新しい情報が見つかったんですか?」
佳苗も興味深そうに身を乗り出した。
健三はファイルから数枚のコピーを取り出した。
「これは、当時行方不明になった子供たちの家族が残した日記や手記の一部でござる」
「家族の日記?」
「うむ。地元に残されていた古い記録を調べていたところ、事件当時の家族の日記や手記が、地域の歴史資料として保管されていることが分かったのでござる」
健三は一枚ずつ資料をテーブルに並べていく。
「新聞記事などには、子供が突然いなくなったという事実しか残されていない。しかし、家族の日記には、失踪する前の子供たちの日常が記されていたのでござる」
「それで、何が分かったの?」
京子が尋ねる。
「まずは、こちらを読んでほしいでござる」
俺たちは、それぞれ資料に目を通した。
そこには、子供たちの普段の様子が記されていた。
『誰もいない庭の方から、子供の声が聞こえると言っていた』
『家族には聞こえない小さな音を、あの子だけが聞き取っていた』
『誰かが後ろに立っていると言うので振り返ったが、そこには誰もいなかった』
『何かが起こる前に、いつも不思議なことを言い当てることがあった』
どれも、日常の何気ない出来事として書かれている。
「これって……」
佳苗が資料を見つめたまま呟いた。
「そうでござる。最初は何の関係もない記録だと思っていた。しかし、複数の家族の日記を比較してみると、ある共通点が浮かび上がってきたのでござる」
健三は指先で資料を軽く叩いた。
「行方不明になった子供たちは、ほかの子供たちと比べて、感覚が鋭かった可能性があるのでござる」
「感覚が鋭い?」
「例えば、普通なら気づかないような小さな音を聞き取ったり、わずかな変化を感じ取ったりする。あるいは、誰もいない場所に人の気配を感じるなどでござるな」
「それって、単に勘が鋭い子供だったってこと?」
京子が首を傾げる。
「そういう可能性もあるでござる。もちろん、日記に書かれていることだけで断定はできぬ。家族の記憶や当時の表現も含まれているので、慎重に考える必要があるでござるよ」
「でも、50年前と100年前の事件で、同じような特徴が見つかったんだよね?」
俺が確認すると、健三は大きく頷いた。
「そのとおりでござる。時代も違えば、記録を残した家族も違う。それなのに、似たような特徴を持つ子供たちが、どちらの事件にも登場するのでござる」
「偶然にしては、少し気になるわね」
京子が腕を組んだ。
「うん。もし本当に共通点があるなら、失踪した子供たちには何か理由があったのかもしれないね」
佳苗も資料を見ながら考え込んでいる。
俺は、日記に書かれた内容をもう一度読み返した。
普通の人には気づかない音や気配。
小さな変化を感じ取る感覚。
それらが、失踪した子供たちに共通していたというのか。
「もしかすると……」
俺の言葉に、全員の視線が集まった。
「誰かが、そういう特徴を持った子供たちを意図的に選んでいた可能性もあるんじゃないか?」
「意図的に?」
京子が聞き返す。
「まだ何の証拠もない。ただ、もし子供たちに共通する特徴があったのなら、そこに注目していた人物がいた可能性も考えられると思う」
「なるほど……。確かに、その視点はなかったでござるな」
健三は少し考え込んだ。
「しかし、これ以上は資料だけでは限界があるのでござる」
「というと?」
「実際に神戸へ行き、当時の事件が起きた場所を調べたいのでござる。地元に住む人たちから話を聞けば、資料には残っていない情報が見つかるかもしれぬ」
「神戸に行くってこと?」
京子が俺の方を見た。
「ああ。俺も賛成だ。これまで調べてきたことを確かめるには、現地に行くのが一番だと思う」
「拙者もそう考えているでござる」
健三は地図を広げた。
「今回、特に調べたい場所があるのでござる」
地図の上には、神戸市須磨区周辺の地名が記されていた。
「この辺りに、昔からの集落があったと聞いているのでござる。古い記録を調べるうえでも、まずはここを訪ねてみたい」
「じゃあ、そこを中心に調査するのね」
佳苗が地図を覗き込む。
「うむ。この辺りに、黒川村という集落があるのでござる。古い記録によれば、過去の事件とも何らかの関係があるかもしれぬ」
「黒川村か……。まずは、そこを訪ねてみるのがよさそうだな」
俺は地図に目を落とした。
そこに何が残されているのか。
そして、50年前と100年前の事件には、どんなつながりがあるのか。
実際に足を運んで確かめる必要がありそうだ。
「私は行くわよ。ここまで調べてきたんだから、途中でやめるわけにはいかないもの」
京子は迷いなく答えた。
「私も行きます。現地で記録を確認したり、聞き取りの内容をまとめたりすることなら、お手伝いできると思います」
佳苗も参加を表明した。
「よし。これで決まりだな」
俺がそう言うと、健三は満足そうに頷いた。
「ところで、徹さんはどうする?」
京子が尋ねた。
「大学の仕事があるから、今回は難しいと思う。資料を送っておけば、何か気づいたことを教えてくれるかもしれないな」
俺は徹に連絡を入れた。
しばらくして、返信が届いた。
『神戸に行くんだね。今回は大学の予定があって同行できないけど、資料を送ってくれれば僕も確認してみるよ。現地で何か気になることがあったら、いつでも連絡して』
「徹は今回は留守番だな。でも、資料の確認は手伝ってくれるそうだ」
「それなら心強いわね」
京子が頷いた。
そのとき、隣の部屋から美穂が顔を出した。
「ねえ、お姉ちゃん。今、神戸に行くって言った?」
「えっ? 聞いてたの?」
「聞こえたもん! 私も行きたい!」
美穂は京子のそばに駆け寄ると、期待に満ちた目で見上げた。
「ねえ、いいでしょ? 私も一緒に行く!」
「美穂、今回は調査だから遊びに行くわけじゃないのよ」
「分かってるもん! ちゃんとおとなしくするから!」
「そう言われてもね……」
京子は困ったように俺たちを見た。
美穂は引き下がる気配がない。
「お姉ちゃん、お願い!」
「ちょっと待ってね。まずはお父さんとお母さんに聞いてみるから」
京子はスマホを取り出し、両親に電話をかけた。
しばらく話をしていたが、どうやら返事は芳しくないようだった。
「うん……。分かった。今回は諦めるね」
電話を切った京子は、美穂に向き直った。
「ごめんね。やっぱり今回はダメだって」
「えええっ! どうして!?」
「遠くまで行くし、調査で何日かかるか分からないからね。お留守番していてほしいって」
「そんなぁ……」
美穂は頬をぷくっと膨らませた。
そして、なぜか俺の方を向いた。
「知也もケチ!」
「えっ? なんで俺まで!?」
「知也が神戸に行くから、私がお留守番になるんじゃない!」
「いやいや、俺に言われても困るだろ!」
「うるさい! 知也は黙ってて!」
「それは理不尽すぎるだろ!」
俺が思わず声を上げると、健三が横から口を挟んだ。
「知也殿、ここは美穂殿の気持ちを察して、黙って受け止めるのがよろしいかと」
「健三、お前はどっちの味方なんだよ……」
「拙者は平和を愛する男でござる」
「絶対、面白がってるだろ!」
そんな俺たちのやり取りを見て、京子と佳苗が笑った。
「美穂、今回は我慢してね。帰ってきたら、神戸の話をいっぱい聞かせてあげるから」
「本当に?」
「うん。約束する」
「絶対だからね!」
美穂はまだ少し不満そうだったが、ようやく納得したようだった。
こうして、神戸行きのメンバーは決まった。
俺、京子、健三、佳苗の4人。
徹と美穂は東京で留守番だ。
今回の調査目的地は、神戸市須磨区周辺にある黒川村。
50年前と100年前に起きた神隠し事件。
そして、失踪した子供たちに共通していたという、普通とは少し違う感覚。
資料だけでは分からないことが、現地に行けば見えてくるかもしれない。
「よし。それじゃあ、神戸に向けて準備を始めよう」
俺の言葉に、みんなが頷いた。
まだ何が待ち受けているのかは分からない。
けれど、俺たちはもう一度、あの事件の真相に近づこうとしていた。
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