地磁気の謎を探れ!?
「次の実験は、地磁気を調べてみないか?」
俺の提案に、京子が首を傾げた。
「地磁気って、地球そのものが持っている磁石の力のこと?」
「そう。地球は巨大な磁石みたいな性質を持っているんだ。方位磁石が北を指すのも、その影響だな」
「なるほど。電磁波の次は磁気ってわけね」
「そういうこと。前回は電磁波が金属によって遮られるかを調べたけど、今回は地球の磁場そのものを測定してみたいんだ」
徹が興味深そうに頷いた。
「面白いね。地磁気は一定に見えるけど、実際には時間や場所によって少しずつ変化しているんだよ。太陽活動の影響を受けることもあるしね」
「太陽活動まで関係しているのか?」
「うん。太陽から飛んでくる荷電粒子が地球の磁場に影響を与えることがあるんだ。もちろん、普段の測定では小さな変化を捉えるのは簡単じゃないけどね」
「拙者、そういう話は嫌いではござらん。科学の力で未知の謎に挑む。まさに研究者の醍醐味でござるな!」
健三が腕を組んで大きく頷いた。
「健三、まだ何も解明してないぞ」
「知也殿、研究とは一歩ずつ進めるもの。焦りは禁物でござる」
「お前が言うと説得力があるような、ないような……」
佳苗がくすりと笑った。
「でも、今回はどんな実験をするんですか?」
「磁力計という装置を使って、地磁気の強さを測定するんだ。場所を変えたり、時間を空けたりして、数値に変化があるか調べてみよう」
徹が説明を引き継いだ。
「ただし、測定するときは周囲の環境にも注意が必要だよ。近くに金属や電気機器があると、地磁気以外の影響を受ける可能性があるからね」
「なるほど。測定する場所も大切なんだな」
「そういうこと。できるだけ同じ条件で測ることが重要だね」
「よし! それじゃあ、さっそく実験に出発だ!」
俺たちは測定器を準備して、近くの公園へ向かうことにした。
◇◇◇
公園へ向かう途中、俺の背後で何かが動いた。
次の瞬間。
パシン!
「痛っ!」
突然、尻を叩かれた。
「な、何だ!?」
慌てて振り返ると、そこには見覚えのある少女が立っていた。
ピンク色の髪をツインテールに結び、流行を意識したおしゃれな服を着ている。
まだ小学生なのに、どこか大人びた雰囲気がある。
そして、その顔には見覚えがあった。
「美穂……」
「ふんっ!」
少女は俺を睨みつけた。
彼女の名前は宮根美穂。
京子の妹だ。
「知也、ゴメンね。美穂がどうしても一緒に行きたいって聞かなくて、連れてきたのよ」
京子が少し困ったように説明した。
「そうだったのか……」
俺は美穂の顔を見た。
どうやら、京子が休日に俺たちと出かけると知って、美穂が一緒に行きたいと駄々をこねたらしい。
美穂は姉のことが大好きだ。
その一方で、俺が京子の時間を独占していることが気に入らないらしい。
以前から何度か仲良くなろうと試みているのだが、どうにも上手くいかない。
俺としても、そろそろ関係を改善したいところだ。
「みんな、紹介するね。私の妹の美穂よ」
京子がみんなに向かって紹介した。
「宮根美穂です。よろしくお願いします」
美穂は初対面の徹、佳苗、健三に向かって、きちんと頭を下げた。
「よろしくね。僕は及川徹。知也の小学校時代の同級生なんだ」
「八重樫佳苗です。よろしくね、美穂ちゃん」
「富永健三でござる。よろしくお頼み申す」
それぞれが挨拶を交わした。
俺は美穂の前に立った。
「これまでのことは水に流して仲良くしような。この通り」
俺は深々と頭を下げた。
「ふんっ! そんな殊勝な態度がいつまで続くかしら。私はお姉ちゃんみたいに甘くないんだからね!」
「ちょっと、美穂!」
京子が慌てて妹をたしなめる。
「お姉ちゃんみたいな美人はダメ男と付き合うって相場が決まってるの。私がきっちりと見極めないとね」
「おいおい、誰がダメ男だよ!」
「自覚がないところが問題なのよ!」
美穂は腕を組み、俺をじっと見上げた。
徹が思わず笑みを浮かべる。
「これはなかなかのお嬢さんだね」
「でも可愛らしいわ。知也さんは私のだけど」
佳苗がにっこりと微笑みながら、さらりと言った。
「えっ?」
美穂が佳苗の顔をじっと見つめる。
「……お姉ちゃん、この人たち大丈夫なの?」
「もう! 美穂、失礼でしょ!」
京子が顔を赤くしている。
俺は早くも先行きが不安になってきた。
どうやら美穂と仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
◇◇◇
公園に到着すると、俺たちは人通りの少ない場所を選んで実験の準備を始めた。
健三が持参した測定器を取り出す。
「これが今回使用する磁力計でござる」
「へえ。これで地磁気が測れるんだね」
佳苗が興味深そうに装置を覗き込んだ。
「うん。磁場の強さを測定できるんだ。機種によって測定できる内容は違うけど、今回はこの数値を記録していこう」
徹が測定器を受け取り、操作方法を確認する。
「まずは基準となる場所で測定しよう。周囲に金属製のものや電気機器がないか確認して、装置の向きも揃えるんだ」
「測定するたびに条件が違ったら、数値を比較できないってことね」
京子がメモ帳を用意した。
「その通り。佳苗さん、記録をお願いできるかな?」
「はい。任せてください」
佳苗は測定結果を書き込む準備を整えた。
「それじゃあ、最初の測定を始めよう」
徹が装置を設置する。
しばらく待ってから、表示された数値を読み取った。
「数値は……」
「記録したよ」
佳苗が手早く書き留める。
少し時間を置いて、同じ場所でもう一度測定する。
さらにもう一度。
結果は、ほぼ同じ値を示していた。
「安定しているみたいだね」
「うん。少なくとも、この場所では大きな変化は見られないね」
徹が確認するように頷いた。
次は場所を少し移動して測定することにした。
公園の別の場所へ移り、同じ手順で数値を記録していく。
すると、先ほどとはわずかに違う値が表示された。
「あれ? 少し変わったね」
京子が画面を覗き込む。
「確かに違うな」
「でも、これだけで地磁気が場所によって変化したとは言い切れないよ」
徹が慎重に説明した。
「周囲の金属や地中の構造物、電気設備などの影響も考えられる。装置の向きが少し違うだけでも結果が変わる可能性があるからね」
「なるほど。測定値が変わった理由を調べる必要があるわけだ」
「そう。科学では、予想と違う結果が出たときこそ、原因を一つずつ確認することが大切なんだ」
「拙者、今の言葉に感銘を受けたでござる!」
健三が大きく頷いた。
「健三は何でも感銘を受けるな」
「知也殿、感動する心を忘れてはいけないのでござる!」
そんなやり取りをしていると、美穂が測定器をじっと見つめていた。
「ねえ」
「ん? どうした、美穂?」
「その機械って、磁石を近づけたら数字が変わるの?」
徹が少し驚いた表情を見せた。
「いい質問だね。磁石を近づければ、その磁力の影響を受けて数値は変化する可能性が高いよ」
「じゃあ、近くに磁石があったら、地球の磁気を測っているつもりでも、違うものを測っちゃうことがあるのね?」
「その通り。測定したいもの以外の影響が混ざってしまうんだ。だから、周囲の環境を確認する必要があるんだよ」
「ふーん。ちゃんと考えないとダメなのね」
徹は感心したように微笑んだ。
「美穂ちゃん、よく気づいたね。測定の邪魔になるものを考えるのは、とても大事なことだよ」
「えへへ。そうかな?」
美穂は少し照れたように笑った。
「おいおい。俺にはいつも厳しいのに、徹には素直なんだな」
「知也は黙ってて!」
「はいはい……」
どうやら俺への評価は、まだまだ厳しいままらしい。
その後も場所を変えながら測定を続けた。
数値には小さな違いが見られたものの、明確な傾向を判断するにはデータが足りない。
「今日は基礎的な測定ができただけでも十分な成果だね」
徹が記録を確認しながら言った。
「うん。まずは測定方法を覚えて、同じ条件で繰り返すことが大事だな」
俺も記録を覗き込んだ。
「次は時間を変えて測定してみるのはどうだろう?」
「時間による変化を調べるんだね」
京子が頷いた。
「そう。地磁気は太陽活動などの影響で変化することもある。一定の場所で時間を空けながら測定すれば、何か分かるかもしれない」
「それなら、測定した時間も正確に記録しておく必要があるね」
佳苗がノートに新しい項目を書き加えた。
「その通り。できれば同じ場所で、同じ装置を使って測定を続けたいね」
徹がそう言うと、健三が腕を組んだ。
「ふむ。時間による変化でござるか。これはなかなか興味深い実験になりそうでござるな」
そのとき、美穂が健三のそばに近づいた。
「ねえ、おじさん」
「お、おじさん!?」
健三の動きが止まった。
「おじさんって、拙者のことでござるか?」
「だって、名前が分からないんだもん」
「拙者は富永健三でござる!」
「健三さんね。ところで、さっきから気になってたんだけど、そのバッグに付いてるキーホルダーって何?」
美穂が指差したのは、健三のバッグに付いている可愛らしいキャラクターのキーホルダーだった。
健三の表情がぱっと明るくなった。
「おお! これに気づくとは、お目が高い! これは魔女っ子ルルリでござる!」
「えっ!? 健三さん、魔女っ子ルルリが好きなの?」
「もちろんでござる! 今期の魔女っ子ルルリは、変身シーンの演出が実に素晴らしいのでござるよ!」
「分かる! 私も大好きなの! この前の放送、見た?」
「もちろんでござる! あの必殺技の場面は最高でござった!」
「そうそう! あの光が広がるところ!」
二人はあっという間に意気投合してしまった。
「まさか美穂ちゃんもルルリ好きとは……。これは運命を感じるでござる!」
「私も健三さんと話が合うなんて思わなかった!」
「おい、健三。さっきまで科学の話をしていたんじゃないのか?」
「知也殿、これは別腹でござる!」
「いや、それは俺のセリフだろ!」
徹が笑いながら二人を見ていた。
「まさか、こんなところで共通の趣味が見つかるとはね」
「美穂、楽しそうね」
京子も安心したように微笑んだ。
美穂が俺以外のメンバーと楽しそうに話している。
それだけでも、連れてきた意味はあったのかもしれない。
もっとも、俺への態度が変わったわけではないようだが。
「知也」
「ん?」
「美穂に変なこと教えないでよ」
「教えてないって!」
「本当かしら?」
「お姉ちゃん、知也のことは私がちゃんと見張ってるから大丈夫よ!」
美穂が胸を張った。
「いや、だから俺は何もしてないって……」
みんなの笑い声が公園に響いた。
今日の実験では、地磁気の変化について決定的な結果は得られなかった。
けれど、測定方法や環境による影響を確認できたことは大きな収穫だった。
そして、時間によって地磁気がどう変化するのかという、新しい研究課題も見えてきた。
「次は地磁気の変化と、電波の受信状態を同時に調べてみない?」
帰り道、徹が提案した。
「電波の受信状態?」
「うん。前回の電磁波の実験ともつながるだろう? 時間によって地磁気が変化したとき、ラジオの受信状態にも何か変化があるのか調べてみるんだ」
「なるほど。別々に調べていたものを、今度は組み合わせるわけだな」
「もちろん、地磁気の変化が電波の受信に影響したと決めつけることはできないよ。電波は周波数や送信所との距離、周囲の建物、電気的なノイズなど、いろいろな要因に左右されるからね」
「だからこそ、条件を揃えて比較する必要があるってことね」
京子が納得したように頷いた。
「そう。繰り返し測定して、偶然なのか、何か規則性があるのかを確認したいんだ」
「拙者、次回の実験が楽しみでござる!」
「私も! 健三さん、次はルルリの話もしてね!」
「もちろんでござる、美穂殿!」
二人はすっかり仲良くなっていた。
俺はその様子を見ながら、ふと考えた。
地磁気と電波。
一見すると関係のないように思える現象も、調べ方によっては何かつながりが見えてくるかもしれない。
俺たちが目指している異世界転移。
その手掛かりは、まだ見つかっていない。
けれど、こうして一つずつ可能性を調べていくしかない。
「よし。次回は電波の受信実験だな!」
「知也、また張り切ってるわね」
「当然だろ。少しでも可能性があるなら、試してみたいんだ」
「ふふっ。知也らしいね」
佳苗が優しく微笑んだ。
その横で、美穂が俺をじっと見ていた。
「……知也」
「何だよ?」
「お姉ちゃんを泣かせたら、絶対に許さないからね!」
「分かってるよ」
「本当でしょうね?」
「ああ」
美穂はまだ納得していない様子だったが、今度は尻を叩いてくることはなかった。
少しは前進した……と思いたい。
次の実験では、どんな結果が待っているのだろう。
俺たちの研究は、まだ始まったばかりだ。
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