電磁波の謎を追え!?
「そろそろ、本格的に研究を再開しようと思うんだ」
俺の言葉に、集まっていた四人が顔を上げた。
いつものように、俺の家のリビングに集まった京子、健三、佳苗。
そして、今回から研究会の正式なメンバーとなった徹。
テーブルには飲み物とお菓子が並んでいる。
「そうね。最近は研究らしいことをしていなかったものね」
京子が頷いた。
「拙者としては、いつでも準備万端でござる!」
健三は胸を張っている。
「ふふっ。健三さんは相変わらず張り切ってるね」
徹が笑った。
そういえば、徹が研究会に加わった経緯を、まだみんなにきちんと話していなかった。
以前、俺から徹に研究会への参加を提案したところ、徹は快く引き受けてくれた。
物理学を専門に研究している徹が仲間になってくれるのは、俺たちにとっても心強い。
「徹が参加してくれることになって、本当に助かるよ」
「いや、僕も楽しみにしてるよ。異世界転移については前から興味があったし、みんなと一緒に研究できるのは面白そうだからね」
「これからよろしくね、徹さん」
佳苗が笑顔で声をかけた。
「こちらこそ、よろしく。佳苗さん」
徹も自然な笑顔で答えた。
以前よりも、みんなとの距離が近くなったように感じる。
これなら、研究会もますます賑やかになりそうだ。
「それで、今日は何を研究するの?」
京子が俺に尋ねた。
「今回は電磁波について調べてみたいんだ」
「電磁波?」
「そう。電磁波がどのように遮られるのか、実際に実験してみようと思ってね」
俺がそう言うと、健三が勢いよく立ち上がった。
「おお! それならば、拙者に考えがござる!」
嫌な予感がする。
「また何か作るつもり?」
京子が警戒するように尋ねた。
「もちろんでござる! 電磁波を遮断する装置を作ればよいのです!」
「遮断する装置?」
「そうでござる。金属で囲った空間を作り、その中に入れば電磁波を防げるはず!」
健三は身振り手振りを交えて説明した。
「なるほど。ファラデーケージのことだね」
徹が頷いた。
「ファラデーケージ?」
佳苗が不思議そうに首を傾げる。
「簡単に言うと、金属で囲まれた空間のことだよ。外から来る電場や電磁波の影響を弱める働きがあるんだ」
徹はテーブルの上にあった紙を引き寄せ、簡単な図を描き始めた。
「金属の中では電荷が動くことができるから、外から電場がかかると、その影響を打ち消すように電荷が分布するんだ。電磁波の場合も、金属の表面に電流が流れることで、内部に届く電波を弱めることができる」
「つまり、金属の箱の中に入れば安全ということですな!」
健三が得意げに言った。
「そこまで単純ではないよ。金属の種類や厚さ、それに電磁波の周波数によっても効果は変わるんだ。金網のようなものでも、網目の大きさによっては電波を弱められるけど、完全に遮断できるわけじゃない」
「なるほど。何でも金属で囲めばいいというわけではないのね」
京子が納得したように頷いた。
「そういうこと。まずは小さな装置を作って、どの程度電波が弱くなるのか確かめてみよう」
「小さな装置でござるか……」
健三は少し残念そうな顔をした。
「拙者としては、人間がすっぽり入れる大きさのものを作りたかったのでござるが」
「そんなものを作ってどうするのよ!」
京子が即座に突っ込んだ。
「もちろん、実験でござる!」
「絶対に遊ぶつもりでしょ」
「失礼な! 拙者は真剣でござる!」
健三と京子のやり取りに、みんなが笑った。
俺も笑いながら、徹に尋ねた。
「ところで、実験には何を使えばいいかな?」
「まずは小型のラジオがいいと思うよ。電波を受信して音を出すから、遮蔽の効果を耳で確認できる」
「それなら用意できそうだね」
「金属製の容器と金網もあれば比較できるよ。容器の外と中で受信状態がどう変わるか調べてみよう」
「よし! それでいこう!」
俺たちは早速、実験の準備を始めた。
テーブルの上に、携帯ラジオ、金属製の容器、金網、記録用のノートを並べる。
佳苗がノートを開き、実験結果を書き込む準備をしてくれた。
「私が記録係をするね」
「ありがとう、佳苗。助かるよ」
「ううん。みんなで実験するんだから、私も頑張るね」
まずはラジオを金属容器の外に置いて、受信状態を確認する。
スピーカーからは、ニュース番組の音声がはっきりと聞こえてきた。
「よし、問題ないな」
次に、ラジオを金属容器の中に入れてみる。
容器の蓋を閉じると、さっきまで聞こえていた音声が急に小さくなった。
「おお! 音が小さくなったでござる!」
健三が身を乗り出した。
「確かに、かなり聞こえにくくなったね」
京子も驚いた様子だ。
「外から届いている電波が、金属容器によって弱められたんだと思う」
徹が説明する。
「完全に音が消えたわけではないけど、違いははっきり分かるね」
俺は容器の蓋を開けたり閉じたりしながら、受信状態の変化を確かめた。
蓋を開けると音が戻り、閉じると再び小さくなる。
「面白いな。目に見えない電波が、金属で弱められているんだ」
「そうだね。ただ、ラジオの音だけでは、どのくらい電波が弱くなったのか正確には分からないよ。今回はあくまで受信状態の変化を確認する予備実験だね」
徹が念を押す。
「なるほど。数値で測定するには、専用の測定器が必要ということか」
「そういうこと。次は測定器を使って、周波数ごとの違いも調べられるといいね」
「では、次は金網でござるな!」
健三が金網を手に取った。
金網でラジオを囲み、同じように受信状態を確認する。
今度は金属容器ほど音が小さくならなかった。
「おや? こちらは、さっきほど変化がないでござる」
「網目から電波が入り込んでいるんだと思うよ。網目の大きさや電波の波長によって、遮蔽の効果は変わるんだ」
「なるほど。金属で囲めば何でも同じというわけではないのね」
京子が金網を眺めながら言った。
俺は腕を組み、実験結果について考えた。
金属容器では受信状態が悪くなり、金網ではその変化が小さかった。
同じ金属を使っていても、形状によって結果が違う。
目に見えない電磁波を扱うというのは、なかなか奥が深い。
「ふむ……つまり、京子のスカートでガードされていて、中が見えないような感じか」
「アンタねーっ!」
京子は思わず両手でスカートを押さえた。
その横で、佳苗が知也の腕を指先でツンツンとつつく。
「知也さん……」
「例え! 例えだから!」
俺は慌てて弁解した。
「下品な例えよ」
京子は呆れた顔でため息をつく。
「知也、僕もそれはないと思うよ」
徹まで苦笑しながら口を挟んだ。
「拙者はノーコメントですぞ」
健三は真面目な顔で腕を組んでいる。
ふと佳苗を見ると、頬をぷくっと膨らませていた。
「佳苗、悪かったって。変な意味はないんだ」
俺が謝っても、佳苗はつーんと顔を横に向けたまま。
しばらくして、佳苗は何かを思いついたように俺へ顔を向けた。
「そうだ! 知也さんの脳に電流を流して、エッチな発想をなくせる研究はどうです?」
「いいわね! 私は大賛成よ!」
京子が待ってましたとばかりに声を上げた。
「か、勘弁してくれよ!」
俺は慌てて両手を上げた。
「それは研究というより、知也殿の矯正計画ですな」
健三が真顔で付け加える。
「うん。なかなか興味深いテーマだね」
徹まで面白そうに頷いた。
「おい、徹まで乗るなよ!」
俺の叫び声に、部屋中に笑い声が広がった。
ひとしきり笑ったあと、俺たちは再びノートに目を向けた。
佳苗が実験結果を整理している。
金属容器ではラジオの受信状態が大きく変化した。
一方、金網では変化が小さかった。
今回の実験で分かったのは、金属によって電波の受信状態を変えられるということ。
ただし、これだけで異世界転移に関係する何かが分かったわけではない。
「今回の実験は、あくまで電磁波の性質を確認するための第一歩だね」
徹がノートを見ながら言った。
「そうだな。次はもう少し詳しく測定できる方法を考えよう」
「それと、電磁波だけでなく、地球そのものが持っている磁場についても調べてみたいな」
俺がそう言うと、徹が興味深そうに顔を上げた。
「地磁気のことだね」
「そう。地球には磁場があるんだろ? それが場所によって違うのか、何か変化があるのか調べてみたいんだ」
「いいと思うよ。地磁気は場所や周囲の環境によっても測定値が変わることがあるからね。まずは測定器を用意して、基準になる値を記録するところから始めよう」
「地磁気か……。何だか本格的な研究になってきたわね」
京子が少し楽しそうに笑った。
「拙者、磁場を測定する装置にも興味が湧いてきたでござる!」
「健三さん、また大きな装置を作ろうとしてない?」
佳苗が笑いながら尋ねた。
「ふふふ。次こそは、人が入れる装置を……」
「だから、何で人が入る必要があるのよ!」
京子の声がリビングに響く。
俺はみんなの顔を見回した。
こうして仲間と一緒に考え、実験を重ねていく。
すぐに答えが見つかるわけではない。
それでも、一つずつ確かめていけば、いつか何かにたどり着けるかもしれない。
「よし。次回は地磁気の測定に挑戦しよう!」
俺の言葉に、みんなが頷いた。
異世界転移への道は、まだまだ遠い。
けれど、俺たちの研究は少しずつ前に進んでいる。
次は、地球が持つ磁場の謎に迫ってみよう。
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