紅葉の山で大騒ぎ!?
「なあ、今度みんなで山に行かないか?」
ある日の午後。
いつものように俺の家に集まっていた京子、健三、佳苗に、俺は突然そんな提案をした。
窓の外を見ると、秋らしい澄んだ青空が広がっている。
そろそろ紅葉も見頃だろう。
たまには研究のことを忘れて、自然の中でのんびり過ごすのも悪くない。
そんなことを考えていたのだが……。
「知也」
京子が俺の名前を呼んだ。
「なんだよ」
「アナタがそんなことを言い出すなんて、どう考えてもおかしいわ。本当のことをおっしゃい!」
「拙者も京子殿の意見に同意でござる」
健三まで腕を組んで頷いている。
「えへへ、知也さん、ごめんね。私もそう思う」
佳苗まで笑っている。
「なんだよ、皆して疑って!」
俺は思わず声を上げた。
すると京子が、じーっと俺の顔を見つめてくる。
うっ……。
その目で見られると、何も隠せない気がしてくる。
「……実は森の中を歩いていたら、異世界に転移するパターンあるだろ? あれを試してみたくてな。でも本題は皆とのリフレッシュだぞ? う、嘘じゃないからな!」
「はいはい、分かった分かった」
京子は呆れたように笑った。
「でも、たまには気分転換も乙ですな」
健三も納得したように頷く。
「私は知也さんとのお出かけ、嬉しいよ」
佳苗がにっこりと微笑んだ。
相変わらず佳苗は可愛い。
マジで惚れてしまいそうになる。
いや、もう手遅れかもしれん。
「じゃあ、決まりだな!」
俺は嬉しくなって、早速行き先や日程を相談し始めた。
結局、週末に近郊の山へピクニックに出かけることになった。
◇◇◇
週末。
俺たちは紅葉が見頃を迎えた山にやって来た。
山道の両側には、赤や黄色に色づいた木々が並んでいる。
風が吹くたびに、色鮮やかな葉がひらひらと舞い落ちてくる。
「うわあ、綺麗ですね!」
佳苗が目を輝かせながら、周囲を見渡した。
「本当ね。こんなに綺麗な紅葉を見るのは久しぶりだわ」
京子も立ち止まって、木々を見上げている。
「であろう。自然の景色には、心を落ち着かせる力があるのでござるな」
健三も珍しく、しみじみとした様子で景色を眺めていた。
「だろ? たまにはこういうのもいいもんだな」
俺は満足して頷いた。
普段は研究の話ばかりしている俺たちだが、こうして自然の中にいると、それだけで気分が変わる。
異世界転移の方法を探すのも大事だが、こういう時間も必要だ。
「知也さん、あそこに行ってみませんか?」
佳苗が少し先にある開けた場所を指さした。
「ああ、行ってみよう」
俺たちは紅葉を眺めながら、ゆっくりと山道を進んでいった。
しばらく歩くと、広い休憩スペースに到着した。
周囲には色づいた木々が広がり、バーベキューやピクニックを楽しむにはちょうどいい場所だった。
「よし、ここで昼食にしよう!」
俺は持ってきた荷物を下ろした。
今日はバーベキューだ。
そして、せっかくなら自分たちでご飯も炊いてみようと思っている。
もちろん、飯盒炊爨だ。
「知也、ちゃんと炊けるの?」
京子が少し疑わしそうに尋ねてきた。
「任せとけ。これくらい簡単だよ」
「本当かなあ……」
「何だよ、その反応は!」
俺は飯盒と途中で拾った枝を取り出し、さっそく準備を始めた。
ところが、いざ火を起こしてみると、思ったようにはいかない。
「うーん……。火加減って、こんな感じでいいのか?」
「知也さん、ちょっと火が強すぎるかもしれませんよ」
隣で見ていた佳苗が、優しく声をかけてくれた。
「そうなのか? よし、少し弱めてみるか」
「はい。あまり強すぎると焦げちゃうかもしれません」
佳苗は薪の位置を調整しながら、手際よく手伝ってくれた。
「おお、助かるよ。佳苗がいてくれてよかった」
「ふふっ。私もこういうの、やってみたかったんです」
佳苗の笑顔を見ていると、自然とこちらまで嬉しくなる。
こういう何気ない時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを考えていた。
「ちょっと、二人とも。仲良く料理しているところ悪いけど、ちゃんとご飯が炊けるんでしょうね?」
京子が腕を組んで、こちらを見ていた。
「大丈夫だって。もう少し待ってろよ」
「本当に大丈夫かしら?」
「だから大丈夫だって!」
俺が答えると、京子はくすくす笑った。
飯盒の様子を確認しようと、俺は水を使って火の周りを整えていた。
そのときだった。
背後から、突然冷たい水が飛んできた。
バシャッ!
「うわっ! 冷てえっ!」
振り返ると、そこには水の入った容器を持った京子が立っていた。
「あはは! 知也、何その顔!」
「お前なあ! 何するんだよ!」
「たまにはいいじゃない。気分転換でしょ?」
「それとこれとは話が違うだろ!」
俺は反撃しようとしたが、京子はさっと身をかわして逃げていく。
「待て、京子!」
「捕まえてみなさいよ!」
まったく、子供じゃないんだから。
そう思いながらも、俺は京子を追いかけた。
その様子を見ていた佳苗は、口元を押さえて笑っている。
「ふふっ。二人とも、本当に仲がいいですね」
「どこがだよ!」
俺は京子を追いかけながら叫んだ。
「ほらほら、知也! 早く捕まえなさいよ!」
京子は楽しそうに笑いながら、さらに逃げていった。
結局、俺は京子を捕まえることができず、少し濡れた服を気にしながら戻ってくることになった。
「まったく……」
「知也さん、大丈夫ですか?」
佳苗がタオルを差し出してくれた。
「ああ、ありがとう」
「風邪をひかないようにしてくださいね」
「大丈夫だよ」
佳苗の気遣いに、また胸が温かくなる。
やっぱり、佳苗は可愛い。
ふと、俺は健三の姿が見えないことに気づいた。
「そういえば、健三はどこに行った?」
辺りを見回すと、少し離れた場所にある倒木に腰掛け、ノートパソコンを開いている健三の姿が目に入った。
しかも、口元が妙に緩んでいた。
「おい、健三!」
俺が声をかけると、健三は慌てて顔を上げた。
「むっ? 知也殿、何でござるか?」
「何でござるか、じゃないだろ。せっかく山に来てるのに、何やってるんだよ!」
「いや、これは……」
俺が画面を覗き込むと、そこには見慣れたアニメのキャラクターが映っていた。
「お前、また魔女っ子ルルリの動画を見てるのかよ!」
「な、何を申す! これは大切な研究でござる!」
「どう見ても動画鑑賞だろ!」
京子も興味を持ったように近づいてきた。
「あら、健三。まだルルリちゃんに夢中なの?」
「もちろんでござる!」
健三は胸を張って答えた。
すると京子が、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ねえ、健三。ルルリちゃんって、もう誰かのお嫁さんになっているんじゃない?」
「えっ……?」
健三の表情が固まった。
「確かに、そうかもしれないな。健三が知らないだけで、実は結婚してたりして」
俺も京子に続いて言ってみた。
「そうですね。素敵な人がいるかもしれませんね」
佳苗まで同意した。
「な、なんと……」
健三の顔から、みるみる笑顔が消えていく。
「そ、そんな……。ルルリ殿が、誰かの嫁に……」
ノートパソコンの画面を見つめたまま、健三は肩を落とした。
「拙者は、今まで何を信じていたのでござるか……」
そのあまりにもしょんぼりした様子に、俺と京子は思わず吹き出した。
「あはは! 健三、真に受けすぎよ!」
「おいおい、そんなに落ち込むなよ!」
「お二人とも、あまりからかってはいけませんよ」
佳苗は苦笑しながら健三のそばに近づいた。
そして、優しく声をかけた。
「健三さん、元気を出してください。きっと、ルルリちゃんは健三さんのことが大好きですよ」
「……ほ、本当でござるか?」
健三がゆっくりと顔を上げた。
「はい! きっとそうですよ」
佳苗はにっこりと微笑んだ。
すると、健三の表情が一気に明るくなった。
「おおっ! 佳苗殿、かたじけない! 拙者、もう一度頑張れる気がしてきたでござる!」
「単純だな、お前……」
俺は呆れながら笑った。
「ふふっ。佳苗ちゃん、優しいわね」
京子も笑顔で佳苗を見ている。
「いやいや、佳苗殿のお言葉は、拙者にとって何よりの励みでござる!」
健三はすっかり元気を取り戻し、再びノートパソコンの画面に目を向けた。
そして、またニヤニヤし始めた。
「おい、もういい加減にしろよ!」
俺たちの笑い声が、紅葉の山に響いた。
その後、ようやく飯盒でご飯が炊き上がった。
蓋を開けると、湯気と一緒に炊きたてのご飯の香りが広がる。
「おおっ! いい感じじゃないか!」
俺は思わず声を上げた。
「よかったですね、知也さん!」
佳苗も嬉しそうに笑った。
「ふむ。見事なものでござるな」
健三も感心したように頷く。
京子はご飯を覗き込みながら言った。
「へえ、思ったより上手にできたじゃない」
「思ったよりって何だよ!」
俺たちは笑いながら、バーベキューの準備も進めた。
網の上に肉や野菜を並べると、ジュウジュウという音とともに香ばしい匂いが立ち上る。
「うわあ、美味しそう!」
佳苗が嬉しそうに声を上げた。
焼き上がった肉や野菜を皿に取り分け、飯盒で炊いたご飯もそれぞれ茶碗によそう。
「じゃあ、いただきます!」
みんなで手を合わせ、さっそく食べ始めた。
「うん! お肉、美味しい!」
京子が満足そうに頷いた。
「炊きたてのご飯も、とっても美味しいですね!」
佳苗もご飯を一口食べて、笑顔を見せた。
「うむ。ふっくらと炊けているでござるな。これは見事でござる!」
健三まで褒めてくれた。
「だろ? やっぱり飯盒で炊いたご飯は違うよな!」
みんなに褒められて、俺はすっかり気をよくしていた。
「いやあ、我ながらいい出来だ。火加減も完璧だったし、やっぱり俺にはこういう才能があるんだな!」
得意げに胸を張る俺。
すると、京子がすかさず口を挟んできた。
「ちょっと、知也。何を自慢しているのよ。それ、佳苗ちゃんのおかげでしょ?」
「えっ……?」
思わず佳苗の方を見る。
佳苗は少し照れたように笑っていた。
「そ、そうだけどさ。最後に炊き上げたのは俺だぞ?」
「はいはい。そういうことにしておきましょうか」
京子は楽しそうに笑った。
「ふふっ。知也さんも頑張っていましたよ」
佳苗がフォローしてくれる。
「ほら、佳苗は分かってくれてるぞ!」
俺はここぞとばかりに胸を張った。
「知也さん、でも火加減を調整したのは私ですからね?」
「うっ……。そ、それはそうだけど」
佳苗に笑顔で言われ、俺は返す言葉がなくなった。
「ほらね!」
京子が勝ち誇ったように笑う。
「まったく、お前らなあ……」
俺は苦笑しながら、ご飯をもう一口頬張った。
でも、確かに美味しい。
自分で炊いたご飯を、みんなで囲んで食べる。
それだけで、いつもよりずっと美味しく感じるものだ。
食事の後も、俺たちは紅葉を眺めたり、写真を撮ったり、のんびりとした時間を過ごした。
結局、森の中で異世界転移が起こることはなかった。
何か不思議な現象が起きることも、別の世界への入口が見つかることもなかった。
ただのピクニック。
でも、それでよかった。
仲間たちと笑い合い、自然の中で過ごした一日。
研究ばかりの日々では気づかない、そんな時間の大切さを改めて感じた。
「今日は楽しかったな」
帰り道、俺がそうつぶやくと、佳苗が隣で微笑んだ。
「はい。またみんなで来たいですね」
「ああ、そうだな」
京子と健三も、少し後ろで何か話しながら歩いている。
「次はどこに行こうかしらね」
「拙者は、ルルリ殿の聖地巡礼も希望するでござる!」
「またルルリかよ!」
俺の突っ込みに、みんなが笑った。
山を下りながら、京子が俺の隣に並んできた。
「結局、転移はできなかったね」
「まあ、仕方ないさ。でも、今日は皆と楽しめたんだ。それでいいさ」
俺がそう答えると、京子は少し意外そうな顔をした。
「ふふっ。知也のくせに、男前なセリフ言うじゃない」
「おい、俺のくせにって何だよ!」
「だって、いつも異世界のことばかり考えているんだから」
「それは否定しないけどな」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
隣を歩く佳苗も、そんな俺たちを見て楽しそうに微笑んでいる。
異世界への道は、まだ見つかっていない。
それでも、こうして仲間たちと過ごす時間は、俺にとってかけがえのないものだった。
たまには、こんな休日も悪くない。
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