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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第一部:異世界転移への挑戦

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16/32

紅葉の山で大騒ぎ!?

「なあ、今度みんなで山に行かないか?」


 ある日の午後。


 いつものように俺の家に集まっていた京子、健三、佳苗に、俺は突然そんな提案をした。


 窓の外を見ると、秋らしい澄んだ青空が広がっている。


 そろそろ紅葉も見頃だろう。


 たまには研究のことを忘れて、自然の中でのんびり過ごすのも悪くない。


 そんなことを考えていたのだが……。


「知也」


 京子が俺の名前を呼んだ。


「なんだよ」


「アナタがそんなことを言い出すなんて、どう考えてもおかしいわ。本当のことをおっしゃい!」


「拙者も京子殿の意見に同意でござる」


 健三まで腕を組んで頷いている。


「えへへ、知也さん、ごめんね。私もそう思う」


 佳苗まで笑っている。


「なんだよ、皆して疑って!」


 俺は思わず声を上げた。


 すると京子が、じーっと俺の顔を見つめてくる。


 うっ……。


 その目で見られると、何も隠せない気がしてくる。


「……実は森の中を歩いていたら、異世界に転移するパターンあるだろ? あれを試してみたくてな。でも本題は皆とのリフレッシュだぞ? う、嘘じゃないからな!」


「はいはい、分かった分かった」


 京子は呆れたように笑った。


「でも、たまには気分転換も乙ですな」


 健三も納得したように頷く。


「私は知也さんとのお出かけ、嬉しいよ」


 佳苗がにっこりと微笑んだ。


 相変わらず佳苗は可愛い。


 マジで惚れてしまいそうになる。


 いや、もう手遅れかもしれん。


「じゃあ、決まりだな!」


 俺は嬉しくなって、早速行き先や日程を相談し始めた。


 結局、週末に近郊の山へピクニックに出かけることになった。


 ◇◇◇


 週末。


 俺たちは紅葉が見頃を迎えた山にやって来た。


 山道の両側には、赤や黄色に色づいた木々が並んでいる。


 風が吹くたびに、色鮮やかな葉がひらひらと舞い落ちてくる。


「うわあ、綺麗ですね!」


 佳苗が目を輝かせながら、周囲を見渡した。


「本当ね。こんなに綺麗な紅葉を見るのは久しぶりだわ」


 京子も立ち止まって、木々を見上げている。


「であろう。自然の景色には、心を落ち着かせる力があるのでござるな」


 健三も珍しく、しみじみとした様子で景色を眺めていた。


「だろ? たまにはこういうのもいいもんだな」


 俺は満足して頷いた。


 普段は研究の話ばかりしている俺たちだが、こうして自然の中にいると、それだけで気分が変わる。


 異世界転移の方法を探すのも大事だが、こういう時間も必要だ。


「知也さん、あそこに行ってみませんか?」


 佳苗が少し先にある開けた場所を指さした。


「ああ、行ってみよう」


 俺たちは紅葉を眺めながら、ゆっくりと山道を進んでいった。


 しばらく歩くと、広い休憩スペースに到着した。


 周囲には色づいた木々が広がり、バーベキューやピクニックを楽しむにはちょうどいい場所だった。


「よし、ここで昼食にしよう!」


 俺は持ってきた荷物を下ろした。


 今日はバーベキューだ。


 そして、せっかくなら自分たちでご飯も炊いてみようと思っている。


 もちろん、飯盒炊爨だ。


「知也、ちゃんと炊けるの?」


 京子が少し疑わしそうに尋ねてきた。


「任せとけ。これくらい簡単だよ」


「本当かなあ……」


「何だよ、その反応は!」


 俺は飯盒と途中で拾った枝を取り出し、さっそく準備を始めた。


 ところが、いざ火を起こしてみると、思ったようにはいかない。


「うーん……。火加減って、こんな感じでいいのか?」


「知也さん、ちょっと火が強すぎるかもしれませんよ」


 隣で見ていた佳苗が、優しく声をかけてくれた。


「そうなのか? よし、少し弱めてみるか」


「はい。あまり強すぎると焦げちゃうかもしれません」


 佳苗は薪の位置を調整しながら、手際よく手伝ってくれた。


「おお、助かるよ。佳苗がいてくれてよかった」


「ふふっ。私もこういうの、やってみたかったんです」


 佳苗の笑顔を見ていると、自然とこちらまで嬉しくなる。


 こういう何気ない時間が、ずっと続けばいいのに。


 そんなことを考えていた。


「ちょっと、二人とも。仲良く料理しているところ悪いけど、ちゃんとご飯が炊けるんでしょうね?」


 京子が腕を組んで、こちらを見ていた。


「大丈夫だって。もう少し待ってろよ」


「本当に大丈夫かしら?」


「だから大丈夫だって!」


 俺が答えると、京子はくすくす笑った。


 飯盒の様子を確認しようと、俺は水を使って火の周りを整えていた。


 そのときだった。


 背後から、突然冷たい水が飛んできた。


 バシャッ!


「うわっ! 冷てえっ!」


 振り返ると、そこには水の入った容器を持った京子が立っていた。


「あはは! 知也、何その顔!」


「お前なあ! 何するんだよ!」


「たまにはいいじゃない。気分転換でしょ?」


「それとこれとは話が違うだろ!」


 俺は反撃しようとしたが、京子はさっと身をかわして逃げていく。


「待て、京子!」


「捕まえてみなさいよ!」


 まったく、子供じゃないんだから。


 そう思いながらも、俺は京子を追いかけた。


 その様子を見ていた佳苗は、口元を押さえて笑っている。


「ふふっ。二人とも、本当に仲がいいですね」


「どこがだよ!」


 俺は京子を追いかけながら叫んだ。


「ほらほら、知也! 早く捕まえなさいよ!」


 京子は楽しそうに笑いながら、さらに逃げていった。


 結局、俺は京子を捕まえることができず、少し濡れた服を気にしながら戻ってくることになった。


「まったく……」


「知也さん、大丈夫ですか?」


 佳苗がタオルを差し出してくれた。


「ああ、ありがとう」


「風邪をひかないようにしてくださいね」


「大丈夫だよ」


 佳苗の気遣いに、また胸が温かくなる。


 やっぱり、佳苗は可愛い。


 ふと、俺は健三の姿が見えないことに気づいた。


「そういえば、健三はどこに行った?」


 辺りを見回すと、少し離れた場所にある倒木に腰掛け、ノートパソコンを開いている健三の姿が目に入った。


 しかも、口元が妙に緩んでいた。


「おい、健三!」


 俺が声をかけると、健三は慌てて顔を上げた。


「むっ? 知也殿、何でござるか?」


「何でござるか、じゃないだろ。せっかく山に来てるのに、何やってるんだよ!」


「いや、これは……」


 俺が画面を覗き込むと、そこには見慣れたアニメのキャラクターが映っていた。


「お前、また魔女っ子ルルリの動画を見てるのかよ!」


「な、何を申す! これは大切な研究でござる!」


「どう見ても動画鑑賞だろ!」


 京子も興味を持ったように近づいてきた。


「あら、健三。まだルルリちゃんに夢中なの?」


「もちろんでござる!」


 健三は胸を張って答えた。


 すると京子が、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ねえ、健三。ルルリちゃんって、もう誰かのお嫁さんになっているんじゃない?」


「えっ……?」


 健三の表情が固まった。


「確かに、そうかもしれないな。健三が知らないだけで、実は結婚してたりして」


 俺も京子に続いて言ってみた。


「そうですね。素敵な人がいるかもしれませんね」


 佳苗まで同意した。


「な、なんと……」


 健三の顔から、みるみる笑顔が消えていく。


「そ、そんな……。ルルリ殿が、誰かの嫁に……」


 ノートパソコンの画面を見つめたまま、健三は肩を落とした。


「拙者は、今まで何を信じていたのでござるか……」


 そのあまりにもしょんぼりした様子に、俺と京子は思わず吹き出した。


「あはは! 健三、真に受けすぎよ!」


「おいおい、そんなに落ち込むなよ!」


「お二人とも、あまりからかってはいけませんよ」


 佳苗は苦笑しながら健三のそばに近づいた。


 そして、優しく声をかけた。


「健三さん、元気を出してください。きっと、ルルリちゃんは健三さんのことが大好きですよ」


「……ほ、本当でござるか?」


 健三がゆっくりと顔を上げた。


「はい! きっとそうですよ」


 佳苗はにっこりと微笑んだ。


 すると、健三の表情が一気に明るくなった。


「おおっ! 佳苗殿、かたじけない! 拙者、もう一度頑張れる気がしてきたでござる!」


「単純だな、お前……」


 俺は呆れながら笑った。


「ふふっ。佳苗ちゃん、優しいわね」


 京子も笑顔で佳苗を見ている。


「いやいや、佳苗殿のお言葉は、拙者にとって何よりの励みでござる!」


 健三はすっかり元気を取り戻し、再びノートパソコンの画面に目を向けた。


 そして、またニヤニヤし始めた。


「おい、もういい加減にしろよ!」


 俺たちの笑い声が、紅葉の山に響いた。


 その後、ようやく飯盒でご飯が炊き上がった。


 蓋を開けると、湯気と一緒に炊きたてのご飯の香りが広がる。


「おおっ! いい感じじゃないか!」


 俺は思わず声を上げた。


「よかったですね、知也さん!」


 佳苗も嬉しそうに笑った。


「ふむ。見事なものでござるな」


 健三も感心したように頷く。


 京子はご飯を覗き込みながら言った。


「へえ、思ったより上手にできたじゃない」


「思ったよりって何だよ!」


 俺たちは笑いながら、バーベキューの準備も進めた。


 網の上に肉や野菜を並べると、ジュウジュウという音とともに香ばしい匂いが立ち上る。


「うわあ、美味しそう!」


 佳苗が嬉しそうに声を上げた。


 焼き上がった肉や野菜を皿に取り分け、飯盒で炊いたご飯もそれぞれ茶碗によそう。


「じゃあ、いただきます!」


 みんなで手を合わせ、さっそく食べ始めた。


「うん! お肉、美味しい!」


 京子が満足そうに頷いた。


「炊きたてのご飯も、とっても美味しいですね!」


 佳苗もご飯を一口食べて、笑顔を見せた。


「うむ。ふっくらと炊けているでござるな。これは見事でござる!」


 健三まで褒めてくれた。


「だろ? やっぱり飯盒で炊いたご飯は違うよな!」


 みんなに褒められて、俺はすっかり気をよくしていた。


「いやあ、我ながらいい出来だ。火加減も完璧だったし、やっぱり俺にはこういう才能があるんだな!」


 得意げに胸を張る俺。


 すると、京子がすかさず口を挟んできた。


「ちょっと、知也。何を自慢しているのよ。それ、佳苗ちゃんのおかげでしょ?」


「えっ……?」


 思わず佳苗の方を見る。


 佳苗は少し照れたように笑っていた。


「そ、そうだけどさ。最後に炊き上げたのは俺だぞ?」


「はいはい。そういうことにしておきましょうか」


 京子は楽しそうに笑った。


「ふふっ。知也さんも頑張っていましたよ」


 佳苗がフォローしてくれる。


「ほら、佳苗は分かってくれてるぞ!」


 俺はここぞとばかりに胸を張った。


「知也さん、でも火加減を調整したのは私ですからね?」


「うっ……。そ、それはそうだけど」


 佳苗に笑顔で言われ、俺は返す言葉がなくなった。


「ほらね!」


 京子が勝ち誇ったように笑う。


「まったく、お前らなあ……」


 俺は苦笑しながら、ご飯をもう一口頬張った。


 でも、確かに美味しい。


 自分で炊いたご飯を、みんなで囲んで食べる。


 それだけで、いつもよりずっと美味しく感じるものだ。


 食事の後も、俺たちは紅葉を眺めたり、写真を撮ったり、のんびりとした時間を過ごした。


 結局、森の中で異世界転移が起こることはなかった。


 何か不思議な現象が起きることも、別の世界への入口が見つかることもなかった。


 ただのピクニック。


 でも、それでよかった。


 仲間たちと笑い合い、自然の中で過ごした一日。


 研究ばかりの日々では気づかない、そんな時間の大切さを改めて感じた。


「今日は楽しかったな」


 帰り道、俺がそうつぶやくと、佳苗が隣で微笑んだ。


「はい。またみんなで来たいですね」


「ああ、そうだな」


 京子と健三も、少し後ろで何か話しながら歩いている。


「次はどこに行こうかしらね」


「拙者は、ルルリ殿の聖地巡礼も希望するでござる!」


「またルルリかよ!」


 俺の突っ込みに、みんなが笑った。


 山を下りながら、京子が俺の隣に並んできた。


「結局、転移はできなかったね」


「まあ、仕方ないさ。でも、今日は皆と楽しめたんだ。それでいいさ」


 俺がそう答えると、京子は少し意外そうな顔をした。


「ふふっ。知也のくせに、男前なセリフ言うじゃない」


「おい、俺のくせにって何だよ!」


「だって、いつも異世界のことばかり考えているんだから」


「それは否定しないけどな」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。


 隣を歩く佳苗も、そんな俺たちを見て楽しそうに微笑んでいる。


 異世界への道は、まだ見つかっていない。


 それでも、こうして仲間たちと過ごす時間は、俺にとってかけがえのないものだった。


 たまには、こんな休日も悪くない。

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