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異世界好きの本気 ~俺はきっと異世界に行く~  作者: シラ猫
第一部:異世界転移への挑戦

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消えた佳苗と小さな警告

「つまり、並行世界が存在するとしても、そこへ移動できるとは限らないということでござるな?」


 健三が腕を組み、徹に問いかけた。


「その通りです。並行世界の存在を考える理論があることと、実際にそこへ移動できることは、まったく別の問題です」


 徹はテーブルの上に置かれた資料を見ながら答えた。


「ふむ……。存在する可能性があるのに、そこへ行く方法が分からないとは、なかなか厄介でござるな」


「そもそも、僕たちが話している並行世界も、現時点で実験によって存在が確認されているわけではありません。多世界解釈は量子力学の解釈の一つであって、異世界へ移動できることを示すものではないんです」


「なるほど。理論と実証は別ということでござるか」


「そうですね。だからこそ、知也たちがこれから研究を進めるなら、まず何を確かめたいのかを明確にする必要があります」


 徹の言葉に、俺は思わず身を乗り出した。


「でも、可能性がゼロじゃないなら、挑戦する価値はあるだろ?」


「知也らしいね」


 徹は苦笑した。


「ただ、可能性があることと、実現できることの間には大きな隔たりがあります。焦らず、一つずつ検証していきましょう」


「拙者も同意でござる。いきなり異世界への扉を探すより、まずは理論的な土台を固めるべきでござるな」


「そうだよな。俺も分かっている」


 そう答えながらも、俺の頭の中では、いつか本当に異世界へ行ける日が来るのではないかという期待が膨らんでいた。


「知也さん、また一人で先走っていませんか?」


 佳苗が笑いながら俺の顔を覗き込んだ。


「いや、そんなことないって」


「本当なの?」


 京子も疑わしそうな目を向けてくる。


「二人とも、俺を何だと思ってるんだよ!」


 みんなの笑い声が部屋に広がった。


 研究の話はまだ始まったばかりだ。


 分からないことだらけだけど、こうして仲間と一緒に考えていく時間は、俺にとって何より楽しいものだった。


 ◇◇◇


 その日の話し合いが終わり、徹たちはそれぞれ帰っていった。


 俺は佳苗を玄関まで見送り、部屋に戻る。


 時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていた。


「さて、今日の話を整理しておくか」


 テーブルの資料を片付けながら、徹が話していた内容を思い返す。


 並行世界が存在する可能性と、そこへ移動する方法。


 考えれば考えるほど、簡単には答えが出そうにない。


 それでも、少しずつ前へ進んでいる気がした。


 俺は上着を手に取り、ポケットに手を入れた。


 すると、指先に小さく折り畳まれた紙が触れた。


「ん? 何だこれ?」


 取り出して広げてみる。


 そこには、短い文字が書かれていた。


『異世界転移は危険』


「……何だよ、これ」


 思わず首を傾げた。


 誰かがふざけて入れたのだろうか。


 京子か健三あたりのいたずらかもしれない。


「まったく、くだらないことを……」


 俺は紙を折り畳み、机の引き出しにしまった。


 そのまま、今日の研究内容を整理することにした。


 ◇◇◇


 翌朝。


 いつもなら、佳苗が訪ねてくる時間だった。


 最近の佳苗は、ほとんど毎日のように俺の家に顔を出していた。


 研究の話をしたり、何気ない雑談をしたり。


 時には、差し入れを持ってきてくれることもある。


 ところが、その日はいつまで待っても姿を見せなかった。


「今日は遅いな……」


 最初は、何か用事でもあるのだろうと思っていた。


 しかし、昼を過ぎても連絡がない。


 少し気になって、隣の佳苗の家を訪ねることにした。


 インターホンを押す。


 ピンポーン。


 ……。


 返事がない。


 もう一度押してみる。


 ピンポーン。


 やはり反応はなかった。


「留守なのかな?」


 スマホを取り出し、佳苗に電話をかける。


 呼び出し音は鳴っている。


 しかし、電話に出る気配はない。


「おかしいな……」


 普段なら、すぐに返事をくれることが多い。


 何かあったのだろうか。


 俺は近所を歩き回り、佳苗の姿を探してみた。


 いつも立ち寄る店にも行ってみたが、見かけた人はいないという。


 公園にも、駅までの道にも、佳苗の姿はなかった。


 時間が経つにつれて、胸の中に嫌な予感が広がっていく。


 まさか……。


 いや、そんなはずはない。


 でも、もし本当に何かあったとしたら?


 頭の中に、嫌な想像が次々と浮かんできた。


 異世界転移。


 そんな言葉が、ふと脳裏をよぎる。


「いやいや、まさか……」


 自分で考えておきながら、思わず首を振った。


 けれど、一度浮かんだ考えはなかなか消えてくれなかった。


 夕方になっても、佳苗からの連絡はない。


 俺は落ち着かない気持ちのまま、部屋の中を行ったり来たりしていた。


 ◇◇◇


 夜になった。


 俺は京子と健三に連絡を入れた。


 佳苗と連絡が取れないこと、家にもいないこと、近所を探しても見つからないことを伝えた。


 二人は心配して、用事を終えると俺の家に来てくれた。


 玄関のドアを開けると、京子が心配そうな顔で俺を見た。


「知也! 佳苗のこと、本当なの?」


「ああ。朝からずっと連絡が取れないんだ」


「家にはいなかったの?」


「インターホンを何度押しても返事がなかった。電話も出ないし、近所も探したけど見つからなかった」


 健三も眉をひそめた。


「それは心配でござるな。佳苗殿に何かあったのでござろうか……」


「分からない。でも、こんなこと今までなかったんだ」


 俺はソファに腰を下ろした。


 一日中探し回っていたせいか、身体も気持ちも疲れ切っていた。


 京子は俺の向かいに座り、少し考えるような表情を見せた。


「佳苗ちゃん、何か悩んでいるようなことはなかった?」


「いや、特に思い当たることはないよ。昨日だって普通に話していたし」


「そう……」


 しばらく沈黙が続いた。


 俺は俯いたまま、両手を握りしめていた。


 そして、ふと思ったことを口にした。


「なあ、京子……」


「なによ?」


「佳苗は異世界に転移したのかも」


「はあ? 何言ってるのよ!」


 京子が呆れた顔で俺を見た。


「だって、突然いなくなったんだぞ。電話にも出ないし、家にもいない。もしかしたら、何かの拍子に……」


「そんなはず無いでしょ! しっかりしなさい!」


「しかし、知也殿。今の段階で異世界転移と決めつけるのは早計でござるぞ」


 健三も落ち着いた声で続けた。


「まずは、何か別の事情があると考えるべきでござる。佳苗殿のご家族にも確認した方がよろしいのではござらぬか?」


「そうだけど……」


「知也、今日は少し休みなさい。ずっと探し回っていたんでしょ?」


 京子の言葉に、俺は小さく頷いた。


 二人も佳苗のことを心配してくれていた。


 それでも、今の俺にできることは何もなかった。


「明日の朝になっても連絡がなければ、もう一度調べてみるでござる」


 健三がそう言ってくれた。


 その日は、それぞれ帰ることになった。


 俺は二人を見送ったあと、なかなか眠ることができなかった。


 佳苗に何もなければいいのだが……。


 そんなことばかり考えていた。


 ◇◇◇


 翌朝。


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。


「はい?」


 俺は少し眠そうな顔で玄関へ向かった。


 ドアを開けると、そこには見慣れた笑顔があった。


「おはようございます、知也さん!」


「……え?」


 佳苗だった。


「佳苗!?」


「はい。どうかしましたか?」


「どうかしましたかって……。昨日、どこに行ってたんだよ!」


 思わず大きな声が出てしまった。


 佳苗は少し驚いたように目を丸くした。


「あっ、ごめんなさい。昨日は実家に行っていたんです」


「実家?」


「はい。ちょっと用事があって、両親のところに行っていました」


「それなら、そう連絡してくれればよかったのに」


「それが……」


 佳苗は申し訳なさそうに鞄の中を確認した。


「スマホを家に忘れてしまっていたんです。帰ってきてから気づきました。本当にごめんなさい」


「スマホを忘れた?」


「はい。出かけるときに慌てていて……」


 佳苗は苦笑いした。


 俺はその顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。


「なんだよ……。本当に心配したんだからな」


「すみません。そんなに心配してくださったんですか?」


「当たり前だろ!」


 思わず即答してしまった。


 佳苗は少し照れたように笑った。


「ありがとうございます、知也さん」


 その笑顔を見て、俺は心の底から安心した。


 異世界転移なんて、そう簡単に起こるはずがない。


 それでも、もし本当に仲間の誰かが突然いなくなったら……。


 昨日の不安が、頭の片隅に残っていた。


 ◇◇◇


 その日の午後。


 俺は健三に電話をかけた。


「健三、ちょっと相談があるんだけど」


『おお、知也殿。どうされたでござるか?』


「仲間同士で、スマホの位置情報を共有できるアプリって作れないかな?」


『位置情報の共有でござるか?』


「ああ。昨日みたいなことがあると、誰かと連絡が取れなくなったときに、今どこにいるのか分かるだけでも安心できると思ってさ」


 電話の向こうで、健三が少し考え込んでいる様子だった。


『なるほど。確かに、位置情報を共有できれば、互いの居場所を確認することは可能でござるな』


「作れそう?」


『技術的には可能でござる。ただし、スマホの位置情報を取得するには、それぞれの利用者が許可する必要がある。勝手に居場所を調べるような仕組みにはできぬでござる』


「もちろんだよ。俺たち全員が納得して使えるものにしたいんだ」


『それなら問題ないでござる。位置情報の更新には通信環境も必要でござるし、スマホの電源が切れたり、通信ができなくなったりすれば、最新の位置情報は取得できぬ。その場合は、最後に確認できた場所を表示する形にすればよいでござるな』


「それで十分だよ。何も分からないより、ずっといい」


『承知したでござる。少し時間をいただければ、試作品を作ってみるでござる』


「ありがとう! 助かるよ」


 電話を切った俺は、少しだけ安心した気持ちになった。


 もちろん、アプリがあれば何でも解決するわけではない。


 それでも、仲間の居場所が分かる手段があるというのは心強い。


 後日、京子や佳苗、徹にも説明し、全員の了承を得て使い始めることになった。


 健三が作ったアプリは、必要なときに仲間の位置を確認できる、シンプルなものだった。


 これで、もし誰かと連絡が取れなくなっても、少しは安心できるだろう。


「これで、みんなが突然いなくなっても大丈夫だな!」


 俺がそう言うと、京子が呆れた顔をした。


「知也、また異世界転移のこと考えてるでしょ?」


「いや、念のためだよ、念のため!」


「まったく……」


 健三は苦笑しながら、スマホの画面を確認していた。


「備えあれば憂いなし、でござるな」


「そういうこと!」


 俺たちは笑い合った。


 こうして、仲間同士で位置情報を共有する仕組みができた。


 これからの研究にも、何かと役立つかもしれない。


 俺はスマホをポケットにしまい、いつものように仲間たちとの時間を楽しんでいた。

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