人間の目に見えない世界!?
結局、あのマジシャンが異世界人なのかどうか、俺たちには判断できなかった。
マジックの映像を何度も見返し、仕掛けや人間の視覚について調べてみたものの、異世界と結びつくような手がかりは見つからなかった。
もっとも、異世界人ではないと証明できたわけでもない。
俺たちの異世界研究は、また新しい疑問を探すことになった。
◇◇◇
「ねえ、知也。ちょっと気になったんだけど」
いつものように俺の家に集まっていたとき、京子が口を開いた。
「何だ?」
「この前のマジックの話なんだけど、人間の目って、そんなに簡単に騙されるものなの?」
「実際にそうだったでござろう。あの映像を何度見返しても、仕掛けが分からなかったでござる」
健三は、スマホを操作しながら答えた。
「そうね。でも、考えてみると、人間の目には見えないものもたくさんあるのよ」
「見えないもの?」
俺は京子の言葉に反応した。
「例えば、赤外線や紫外線。知っているでしょ?」
「ああ、名前くらいはな」
「赤外線はテレビのリモコンなんかにも使われているし、紫外線は日焼けの原因にもなるわね」
「でも、どちらも目では見えないんですよね?」
佳苗が不思議そうに尋ねた。
「そうよ。人間の目で見ることができる光には限界があるの」
京子はテーブルの上に置いてあったノートを開いた。
「光というのは、電磁波の一種なの。電磁波にはいろいろな種類があって、波長によって性質が違うのよ」
「波長?」
「簡単に言えば、波の長さのことね。人間の目で見ることができるのは、その中のごく一部分だけなの」
京子はノートに簡単な図を描き始めた。
「例えば、可視光線と呼ばれるものね。赤や青、緑といった色として認識できる光よ。それより波長が長いものが赤外線、短いものが紫外線。さらに短くなるとX線やガンマ線もあるわ」
「へえ……。そんなに種類があるのか」
「そうよ。波長が長いものには、電波やマイクロ波もあるわね」
俺は京子の描いた図を眺めた。
普段、俺たちが見ている世界は、思っていたよりもずっと限られたものだったらしい。
当たり前だと思っていた景色も、実は人間の目が捉えられる範囲でしかない。そう考えると、今まで見てきた世界が少し違って見える気がした。
もしかすると、俺たちが知らないだけで、この世界にはまだまだ不思議なことが隠されているのかもしれない。
「つまり、俺たちが見ているものが、世界のすべてじゃないってことか?」
「そういうことね。人間の目で見えないからといって、そこに何も存在しないわけじゃないのよ」
「なるほど……」
俺は腕を組んだ。
目に見えないものが、実際には身近な場所に存在している。
そう考えると、少し不思議な気分になった。
「でも、どうして人間には見えないんでしょうね?」
佳苗が首を傾げた。
「それは、人間の目が特定の範囲の光にしか反応できないからよ。目の中にある視細胞が、その範囲の光を受け取って、脳に情報を伝えているの」
「つまり、目の仕組みそのものに限界があるということでござるな?」
「そうね。人間は自分の感覚を通して世界を認識しているけれど、その感覚だけですべてを把握できるわけではないの」
「だったら、目に見えないものを見えるようにすることもできるのか?」
俺が尋ねると、京子はうなずいた。
「もちろん。赤外線カメラや紫外線を利用した装置があるでしょ? 人間の目には見えない情報を、機械で捉えて、見える形に変えているのよ」
「なるほど! つまり、機械を使えば、人間には見えないものも確認できるというわけでござるな!」
「そういうこと。ただし、何でも見えるようになるわけじゃないわ。装置によって捉えられるものは違うからね」
健三は感心したように何度もうなずいていた。
「しかし、これは興味深い話でござる。人間が認識できないものが、実際には存在している。ならば、我々が知らない世界が身近に存在している可能性もあるのではござらぬか?」
「健三、それは少し話が飛躍していないか?」
俺は思わず突っ込んだ。
「何を言うでござる! 可能性を考えることは研究の第一歩でござる!」
「まあ、健三の言いたいことも分かるけどね」
京子は少し考え込んだ。
「ただ、赤外線や紫外線が見えないことと、異世界が存在することは別の話よ。見えないものがあるからといって、そこに別の世界がある証拠にはならないわ」
「確かに、そうだな」
俺は素直にうなずいた。
異世界に行きたいからといって、都合のいいように考えるわけにはいかない。
俺は本気で異世界に行きたいと思っている。だからこそ、根拠のない思い込みだけで研究を進めるわけにはいかなかった。
夢を実現するためには、夢を見るだけでは駄目なんだ。
「でも、面白いと思いませんか?」
佳苗が微笑んだ。
「私たちが普段見ている世界は、実はほんの一部分なのかもしれないってことですよね?」
「そうね。人間の感覚には限界がある。だからこそ、科学や技術を使って、その先を調べているのよ」
京子の説明を聞きながら、俺はあることを考えていた。
もし、異世界が存在していたとしても、俺たちが普段認識している世界とは違う形で存在しているのだとしたら?
俺たちのすぐ隣に、まったく違う世界が広がっている。そんなことを想像すると、胸が高鳴った。
そこには、俺がずっと憧れてきた異世界が本当にあるのだろうか。
考えれば考えるほど、確かめずにはいられなくなった。
目に見えないだけなのか。
それとも、そもそも俺たちとは異なる空間に存在しているのか。
今の俺には、答えを出すことができなかった。
「そういえば、異世界という言葉を聞くと、別の宇宙や並行世界を思い浮かべるでござるな」
健三が腕を組んだ。
「並行世界か……」
「そう。SF作品なんかではよく出てくるわね。でも、現実の科学でも、宇宙や世界の成り立ちについては、まだ分かっていないことがたくさんあるのよ」
「ということは、科学でも解明されていないことがあるんだな?」
「もちろん。だからといって、何でもありというわけではないけどね」
京子は苦笑した。
「それでも、まだ分かっていないことがあるなら、調べてみる価値はあるんじゃないか?」
俺がそう言うと、京子は少しだけ笑った。
「知也らしいわね。相変わらず異世界のことになると熱心なんだから」
「当たり前だろ。俺は本気で異世界に行きたいんだからな!」
「はいはい。分かってるわよ」
京子は呆れたように返事をした。
「でも、今回の話で一つ分かったことがあるわね」
「何だ?」
「私たちは、自分の目で見えるものだけを基準にして、世界を判断してしまいがちだということ。実際には、目に見えない現象も科学によって確認されている。だから、異世界について考えるときも、最初から可能性を否定するのではなく、どんな現象が関係しているのかを調べる必要があるわね」
「なるほど。まずは、世界の仕組みをもっと知らなければならないということでござるな!」
「そういうことね」
健三と京子の会話を聞きながら、俺は改めて考えた。
異世界へ行く方法を探すには、今まで知らなかった科学の知識も必要になる。
正直、今の俺には難しいことばかりだ。それでも、諦めるつもりはなかった。
何も知らないままでは、何も始まらない。
少しずつでもいい。仲間たちと一緒に、一つずつ可能性を探していこう。
「なあ、みんな。次は、もう少し踏み込んだ研究をしてみないか?」
「踏み込んだ研究?」
佳苗が俺の顔を見た。
「ああ。例えば、量子力学とか、並行世界についてだ」
「量子力学でござるか! なんとも興味をそそられる言葉でござるな!」
「確かに面白そうね。でも、簡単に理解できる分野じゃないわよ」
「それでも、調べてみる価値はあるだろ?」
俺の言葉に、京子は小さくため息をついた。
「分かったわ。まずは基本的なところから調べてみましょう」
「賛成でござる!」
「私も、できる範囲でお手伝いしますね」
佳苗も笑顔でうなずいた。
こうして、俺たちの異世界研究は、また新しい方向へ進むことになった。
人間の目に見えない世界。
そして、その先にあるかもしれない未知の可能性。
まだ何も分かっていない。
けれど、少しずつでも知識を積み重ねていけば、いつか異世界への道が見えてくるかもしれない。
俺は、そんな期待を胸に抱いていた。
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