第九話 取引
キョウソは苛立っていた。
長年かけて築いたものが崩れ始めている。
政治家を育てた。
役人を入れた。
司法へ金を流した。
企業を通して資金を循環させた。
移民経路を作った。
国外勢力ともつながった。
一つの国家を外から攻める必要などなかった。
内側から少しずつ変えればいい。
法律を一つ。
制度を一つ。
任命を一つ。
十年。
二十年。
国民が気づいたときには、すでに戻せない。
そのはずだった。
通信画面にオウの顔が映る。
「支援を増やしていただきたい」
キョウソが言う。
オウは笑った。
「なぜ私が?」
「我々が崩れれば、あなたにも不利益が」
「勘違いするな」
オウは指で机を叩いた。
「私はおまえたちの友人ではない」
キョウソの眉が動く。
「利用価値があったから使っただけだ」
「まだ価値はある」
「なら証明しろ」
通信が切れた。
次にキタノクニへ連絡した。
返答すら来なかった。
キョウソは端末を投げつけた。
壁へ当たり、床へ落ちる。
部屋の隅でコクドが見ていた。
「何を見ている!!」
何もかもが腹立たしい。
コクドはキョウソから目をそらさなかった。
「おまえもか」
返事はない。
キョウソが近づく。
「誰のおかげでここにいられると思っている」
コクドの顔は動かなかった。
「拾ってやった」
その言葉で、ほんのわずかに目が変わった。
キョウソは気づかなかった。
彼女は何人もの子どもを拾った。
キーツもそうだった。
コクドもそうだった。
名前を与えた。
居場所を与えた。
仕事を与えた。
その代わりに人生を奪った。
それをキョウソは恩と呼んだ。
「キーツはもう長くない」
コクドの指がわずかに動いた。
「次を探す」
初めて、コクドが口を開いた。
「また?」
小さな声だった。
キョウソが振り返る。
「何だ」
「また、作るのか」
「必要ならな」
沈黙。
「使えないものを捨て、新しいものを用意する。
それの何がおかしい」
コクドは答えなかった。
ただ。
その日から、心に忍ばせていた小さな刃は実体となった。




