第八話 次の人
キーツが退けば、すべて解決する。
そんな空気が一時、政界に広がった。
人は原因を一つにしたがる。
そのほうが簡単だからだ。
そこである名前が浮かんできた。
シジ。
父も祖父も政治家だった。
家は古く、金もあった。
敵が少なく、主義主張も薄い。
つまり都合がよかった。
「今こそ世代交代です」
記者会見でシジは言った。
用意された原稿を見ながら。
「国民との対話を大切にし、新たな政治を――」
質問が飛んだ。
「宗教団体との関係は?」
シジの目が止まった。
「ええと」
側近を見る。
「その点については適切に」
「キーツ政権の不正を調査しますか」
「必要に応じて」
「シンパンカンの責任は?」
「司法の独立性が」
「デズ社から献金を受けていますね」
シジの顔から笑みが消えていた。
会見は予定より早く終わった。
その夜。
老父はテレビを消した。
「座れ」
シジは立ったままだった。
「父さん、これは党の方針で」
「座れと言った」
シジは座った。
老人は杖を横に置いた。
「おまえは何をしたい」
「国のために」
「嘘をつくな」
シジが黙る。
「首相になりたいのか」
「機会があるなら」
「なって何をする」
返事がない。
老人はため息をついた。
「キーツを見ろ」
シジが顔を上げる。
「欲しいものだけは明確だった。
だからこそあそこまで行った」
「褒めるんですか」
「馬鹿を言え」
老人の声が低くなった。
「欲だけで上へ行けば、
上に着いたあと何もないと言っている」
シジは黙った。
「おまえはそれ以下だ」
「……父さん」
「欲すら人に決めてもらっている」
翌日。
シジは予定されていた首相候補者会合を欠席した。
理由は体調不良と発表された。
政界では別の候補探しが始まった。
国民はそれを見ていた。
そして少しずつ気づき始めた。
キーツ一人を取り替えても、
腐った仕組みそのものは残るのだ。




